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“Googleリスク” 日本のSIerから懸念の声 シェア変動の引き金にも
2010/04/15 21:07
週刊BCN 2010年04月12日vol.1329掲載
Googleが中国本土での主要サービスの提供を取りやめ、3月下旬、香港経由に切り替えた。この動きを受けて、「日本の情報サービス産業にも少なからぬ影響が出る」と、懸念する声が大手SIerからあがっている。日系企業や日本のSIerにとって重要な戦略市場である中国の当局とぎくしゃくした関係になると、中国を含むグローバルでの安定したサービス供給に支障が出かねないからだ。
クラウドは、世界中どこでも均質なサービスを利用できることに特性がある。ユーザー企業もこうした特性を評価して導入するケースが多い。Googleは、メールやカレンダー、表計算、ワープロなどのアプリケーションサービスを提供する「Google Apps」や、クラウド開発基盤「Google App Engine」など、多様なクラウドサービスを開発。日本でも富士ソフトや伊藤忠テクノソリューションズなど多くの有力SIerが、同サービスのビジネスパートナーとして名を連ねる。
あるSIerからは「今回のケースは、中国のカントリーリスクというよりも、Google個別の事情という色彩が濃い」との指摘があった。つまり、規律を重視する中国側の制約というよりは“Googleそのもののリスク”に近いというわけだ。パブリッククラウドサービスの拡充に力を入れるSIerは、Googleだけでなく、マイクロソフト「Azure」や、アマゾン「Amazon EC2」などを活用するケースがある。別の大手SIerは「マイクロソフトやアマゾンが、ネットサービスで中国当局と関係が悪化したという話は聞かない」としており、今回のGoogleの措置は異例だと捉える。
中国・安徽省でGoogleのAndroidをはじめとする組み込みソフトビジネスを推進する業界団体「Open Embedded Software Foundation」の活動責任者を務め、中国事情に詳しい中尾貴光氏(安徽開源軟件代表)は、「Googleが中国から撤退しても、中国国内ではとくに影響がない」とみる。中国のパソコン向け検索エンジンにおけるGoogleのシェアは、トップの百度(バイドゥ)に及ばないというのが理由だ。だが、モバイルの検索エンジンでは百度とGoogleは拮抗しており、「モバイルが急速に発展するなかで、数億人の市場をみすみす逃がす恐れがある。中国政府に異議を申し立てても、それで当局が折れる可能性は極めて低く、結果的にGoogleが損をするのではないか」と、手厳しい。
しかし、日系企業の側からすると、この状況は一変する。日本のSIerは、日系ユーザー企業と歩調を合わせる形で、中国市場への進出を加速させている。国境に関係なく、安価で均質的なサービスを利用できるパブリッククラウドを活用するケースが増えるのは確実だ。Googleの企業向けサービスが、中国国内でまったく使えないわけではないが、不安定な状態になる可能性は否定できない。
SIerが顧客企業に安定的にサービスを提供するには、例えば、「中国国内にサーバーを設置し、GoogleとVPNで接続するなどの、通常では必要のない仕組みを別途用意しなければならないことも考えられる」(前出の中尾氏)と話す。Google Appsを日本で担ぐあるSIerは、「ブランド力の失墜につながるケースがある。好ましくないのは確か。Windows Azure(BPOS)など、Google Appsの対抗馬も出てきており、国内のユーザーも不安視し始めないか懸念がある」と、心情を吐露する。
日本でGoogle Appsを担いできたSIerは、中国進出を重視するユーザー企業の意向を踏まえ、後発のAzure、あるいはAmazon EC2など他のサービスを併用せざる得ない事態も想定できる。Googleは、企業向けパブリック・クラウドサービスを先駆けてきた有力ベンダーだが、予想外の“リスク”に、SIerの一部に動揺が広がりかねない。ほくそ笑むのは、果たしてマイクロソフトか、アマゾンか──。発展途上のクラウドビジネスだけに、シェア変動の引き金になることも考えられる。(安藤章司/木村剛士/鍋島蓉子)
【関連記事】グーグルの中国撤退の影響は?
「アンドロイド」は影響ゼロ
グーグルの中国撤退に関連して注目されているのは、「アンドロイド」ビジネスの動向だ。中国事情に詳しい中尾貴光氏(安徽開源軟件代表)は「アンドロイドのビジネスについては日本よりも中国が1~2年は進んでいる」とみる。
中国では、固定電話よりもモバイルが普及しており、それに伴って通信キャリアはモバイルを使ったSaaSを提供している。アンドロイド携帯は大手キャリアの中国移動通信集団(チャイナモバイル)向けにレノボが出している「OPhone(オーフォン)」から、キャリアに認定されないシャンジャイ(山寨、山賊)携帯まで幅広く採用され、中国国内、東南アジアに広がっているという。中国では今、国を挙げて知的財産を保有することに躍起になっており、その獲得の糧の一つがOSSであり、アンドロイドもその対象になる。モバイル端末のほか、GPS、セットトップボックスなどさまざまな機器にも組み込まれている。
中尾氏は、「怖いのは、グーグルと中国が揉めに揉めて、中国の人たちが感情的になり、グーグルを国外に追放するとなった場合だ」と懸念する。だが、グーグルが撤退しても「アンドロイドはグーグルの持ち物ではない。Open Handset Allianceの持ち物なので今のままなら影響はゼロ」と中尾氏は説明する。問題勃発の直後には販売が延期されたモトローラとサムスン電子のAndroid携帯も、結局は販売が再開された。中国電信(チャイナテレコム)もAndroidに注力していくと発表している。
2009年度第4四半期のスマートフォン総出荷台数は724.7万台で、第3四半期と比べて29.8%の成長をみせたという。採用されているOSシェアではSymbianが72.1%、Windows Mobileが21.5%、Androidはわずか0.4%に過ぎない(中国の調査会社、易観国際の2009年第4四半期中国スマートフォン市場シェアレポート)が、OSのライセンス料が発生しない、キャリアが独自にOSを活用できる点で、ビジネスの伸びしろは大きいようだ。(鍋島蓉子)
Googleが中国本土での主要サービスの提供を取りやめ、3月下旬、香港経由に切り替えた。この動きを受けて、「日本の情報サービス産業にも少なからぬ影響が出る」と、懸念する声が大手SIerからあがっている。日系企業や日本のSIerにとって重要な戦略市場である中国の当局とぎくしゃくした関係になると、中国を含むグローバルでの安定したサービス供給に支障が出かねないからだ。
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