ベンダーの取り組み
SaaSを絡めた提案がカギ
新提案に適した端末に期待
ノートPCやスマートフォンなどモバイル関連機器が成長軌道に乗っているという前提に立つとして、ベンダーはどのようなビジネスを手がけていくべきか。それは、新端末を軸とする新しい提案だ。各社とも、ノートPCをベースとしたモバイル関連のシステム提案を継続していくが、とくにスマートフォンやスレートなどを前面に押し出した新しい製品・サービスの提供を確立しようとしている。ここでは、各ベンダーの取り組みを検証する。
大塚商会
“マルチキャリア”を武器に
多種多様なデバイス提供も強み 大塚商会は、さまざまな角度からモバイル関連のシステム案件獲得に力を注いでおり、「すべての通信事業者を提供できる“マルチキャリア”であることと、数多くのデバイスを揃えていることが強み」と、マーケティング本部ICTソリューション推進部通信プラットフォームプロモーション課の和田力コンサルタントは自信をみせている。
世界同時不況の波は昨年を境に徐々に衰えをみせ、今年に入ってからは市場環境が持ち直してきているとはいえ、ユーザー企業のIT投資に関する意欲は完全に回復したとは言い切れない。しかも、ITに投資するのであれば、「経営改革」をテーマとしたシステム導入にユーザー企業の関心が向く。
そんななか、最近多くなってきているのが、iPhoneやiPadといったアップル製のスマートフォンとスレートについての問い合わせだという。プロダクトプロモーション部IBMソフト担当/サイボウズ担当の丸山義夫課長は、「主にユーザー企業の経営者層から相談を持ちかけられる」という。とくにiPadの場合は、「すでに導入してしまったが、どのような用途で使えばいいのかが分からない」といった声が多いようだ。
新規ビジネス開発課の早川憲一課長代理は、「営業担当者が外出先でプレゼンテーションする際に最適ということを提案しながら、アプリケーションの提案も行っている」という。そこで、今は「ソリューション化してパッケージでの提供を整備している」(丸山課長)段階だ。
また、将来的にはAndroidなどを搭載したスレートが登場してくれば、さらに需要が膨らむとみているほか、スレートをシンクライアント端末と捉えて、SaaSなどサービス型モデルの提供も模索できる。そういった点では、すべての通信事業者の回線をくまなく提供し、なおかつ多くのアプリケーションを揃えていることが強みになるといえそうだ。

(右から)丸山義夫課長、早川憲一課長代理、和田力コンサルタント
NECネッツエスアイ
外出先でセキュリティ確保
iPhoneやiPadで可能に  |
| 「持ち出しマイデスク」がスマートフォンやスレートに適していることをアピールする藤岡紀彦部長 |
NECネッツエスアイは、iPhoneとiPadのビジネス利用ニーズが高まりつつあるなか、今年6月末から提供を開始した「持ち出しマイデスク for iPhone & iPad」が、8月下旬の時点で100社以上から問い合わせがきているという。
「持ち出しマイデスク for iPhone & iPad」は、社内にある自席のPCにアクセスし、外出先からiPhoneやiPadでPCのデータを閲覧・操作できる。SSL通信でアクセス回線のセキュリティを確保している。価格は、社員数200人、同時接続人数を10人と設定した場合で130万円からとなっている。
提供開始に至った経緯について、SI&サービス事業本部情報ネットワークソリューション事業部ネットワークシステム部の藤岡紀彦部長は、「ユーザー企業のなかでスマートフォンで業務効率化を実現したいというニーズが高まっている」と話す。外出中の営業担当者などが社内に戻らなくてもデスクワークができるように開発したという。しかも、ユーザー企業の多くが「トップダウンで、スマートフォンを導入、もしくは導入を検討しているケースが多い。そのため、情報漏えい対策が万全で、業務効率化につながることを訴えている」という。

「持ち出しマイデスク for iPhone & iPad」は、社内にあるPCのデータを外出先でも閲覧できることが売り
同社は今後、iPhoneやiPadだけでなく、「Androidを搭載したスマートフォンやスレートが出た場合は対応していく」という。また、近い将来にはユーザー企業がクライアント端末を場所や日時によって使い分ける状況が広がると捉え、「『持ち出しマイデスク』をベースに、通話やインターネットの利用でスマートフォンで、メールのやり取りや簡単な資料作成などはスレートで、テキストファイルやエクセルの作成はPCで、といった提案が最適」と判断している。
ユーザー対象は、中小企業がメインで、「大企業の1部門による導入検討もある」そうだ。同社は今後1年間で、100社の問い合わせを見込んでおり、確実に案件につなげていく。
丸紅インフォテック
ネットブックとスレートの両輪
クラウド・サービス提供も視野に  |
| 鈴木聡副本部長 |
丸紅インフォテックは、モバイル関連事業としてエイサーやASUSなど台湾メーカーの製品を中心にネットブックを販売している。ただ、国内ネットブック市場が厳しいため、「新しい端末やサービスを提供していかなければならない」とMD・販売推進本部の鈴木聡副本部長(兼)販売推進部長は判断している。
そんな同社が視野に入れているのはスレートだ。現在、ASUSと話を進めており、日本市場に適した端末の投入を計画している。具体的にどのような製品を投入するかは今後詰めるが、Androidを搭載する可能性が高いという。これによって、「ネットブックとスレートの両輪で販売していく」方針だ。ユーザー企業それぞれの要望を聞き、外出先でメールのやり取りや社内承認などで活用するならスレート、さまざまな業務用アプリケーションを活用するのならPCなどといった提案を行っていくという。
また、スレートの価値提案に向けてSaaS提供も検討。現在、データセンター(DC)事業者と交渉しており、ライセンス管理などのアプリケーションのSaaS化を進めている。このSaaSを販社に売ってもらうことになるわけだが、「今後は、ハードやソフトなど製品に加え、サービス型モデルを販売パートナーに提供することがディストリビュータの使命」と認識している。
さらに、携帯電話の高速データ通信仕様として、「LTE(スーパー3G)」に期待を込める。「LTE対応データ通信カードによるノートPCのリプレース需要を掘り起こすことができる可能性があるだけでなく、LTEの登場で高速通信の比較ができるということで、法人市場でこれから注目されるWiMAXに対しても関心が高まってくるのではないか」と分析している。
ノートPCに関しては、「製品自体の単価の下落で利益を確保することが難しい」とみている。そこで、スレートとサービスで利益を確保するビジネスモデルを付加するわけだ。また、ノートPCに関しても、高速通信に注目が集まれば、データカードの販売で利益を見込むことができるようになる。
iPhoneとiPadの流通はいかに!?
ソフトバンクモバイル
SIerとのパートナーシップを構築
テレコムとの協業を促す  |
| 杉田弘明課長 |
ベンダーのモバイル関連事業に対する取り組みをみてみると、そのほとんどがスマートフォンやスレートなど、今後、法人市場で普及するであろう端末に対して事業拡大の活路を見い出そうとしていることがわかる。しかし、現段階ではスレートならiPadが中心であり、スマートフォンではiPhoneに対するニーズが高いのが実際のところだ。両製品とも流通面では限定されているので、SIerにとってはビジネスチャンスを失う危険性もある。そこで、通信事業者ソフトバンクモバイルに、SIerなどとのパートナーシップについて聞いた。
現在、iPhoneやiPadを法人向けに直接販売しているのはグループ会社のソフトバンクテレコムが中心。ソフトバンクモバイルのプロダクト・マーケティング本部法人プロダクトサービス統括部法人サービス企画部企画管理課の杉田弘明課長は、「iPhoneやiPadへの問い合わせはソフトバンクテレコムだけに来ているわけではない。ソフトバンクテレコムとSIerが協業する仕組みが必要と思える」と判断している。
実際、個別にソフトバンクテレコムが獲得した案件で、SIerと協業してシステムを提供したり、SIerのシステム案件でソフトバンクテレコムが製品を提供するケースがあるという。システム構築に関しては、SIerが担当したほうがユーザー企業の要望に応えやすいといった面があるからだ。「当社は回線を提供する立場として、ソフトバンクテレコムがiPhoneとiPadの製品提供し、SIerがシステム構築というトライアングルのパートナーシップが構築できるのが望ましい」としている。
アップル製品以外でも、「今後はスマートフォンやスレートを数多く提供していきたい」という意向だ。それらの製品に関しては、「通常の流通でSIerと積極的にパートナーシップを築いて拡販していく」方針。さらに、グループ全体で提供しているクラウド・サービス「ホワイト・クラウド」を絡めた新しい展開も模索している。