データセンター事業者やSIerが、世界市場を視野に入れたITサービスに乗り出す。クラウド発祥の地、米国に比べてネット系サービスの規模で劣った日本。今、渾身の巻き返しを狙う。
遠隔地に大型DC相次ぐ
都市型DCとの力関係に変化
日本のパブリッククラウドに大きな変化が現れ始めた。有力なデータセンター(DC)事業者が、北海道や島根県、北九州などに相次いでパブリッククラウド対応型のDCの開設を発表。既存DCも設備増強に乗り出している。これまで、国内のDCは大都市圏に集中する傾向があった。だが、遠隔地の大型パブリッククラウド施設によって、力関係が変わる可能性が出てきた。この特集では、台頭する日本版パブリッククラウドを中心にDCビジネスの最前線を追う。
数少ない成長株に期待大 国内の情報サービス市場が足踏みを続けるなか、DCへの投資は活発に行われている。大手SIerだけに限ってみても、ITホールディングス(2011年4月をめどに東京都内に竣工)、新日鉄ソリューションズ(2012年初頭めど、都内)、野村総合研究所(2012年度中予定、首都圏)、シーイーシー(事業譲渡によって東京・池袋に今年9月に開業)など、DCの建設・拡張ラッシュの様相である。
調査会社のIDC Japanでは、DCサービスの2013年までの年間平均成長率は12.8%で、市場規模は直近の8158億円から1兆3213億円に拡大すると予測。DCサービスは日本に情報サービスビジネスにおける数少ない成長株であり、ITベンダーの期待の高まりが、DC分野への投資拡大に結びついている。
だが、ここへきてDC投資の方向性に大きな変化が現れ始めた。本特集のテーマである「パブリッククラウド」に対応したDCは、北海道や北九州などの遠隔地に立地する。これまでの大都市圏でのDC増設とは対照的である。
両者の最も大きな相違点は、コストに現れている。遠隔地に比べて不動産価格が格段に高い首都圏にDCをつくれば、当然、コストに跳ね返る。後述するが、さらに都市型DCには、電気を大量に消費する空調設備が欠かせない。米国の大規模なパブリッククラウド型DCに比べて、日本の都市型DCは「2倍ほどコストがかかる」(大手SIer幹部)とされるゆえんだ。ここに商機を見出したのがDC事業者やインターネットサービスプロバイダである。コストを米国パブリッククラウド並み、あるいはそれ以下に引き下げれば、高い料金に不満をもつユーザーの需要を取り込むことができる。
都市型DCとはまったく異なるアプローチで、低コスト化を推進。DCビジネスでのシェア拡大を狙うのが遠隔地型のパブリッククラウドである。

さくらインターネットの石狩DCの完成予想図
Amazon、Googleを強く意識 今年6月、DC事業者のさくらインターネットが、北海道石狩市にパブリッククラウド型のDC建設を発表した。敷地面積5万1448m2、竣工予定は2011年秋。全8棟の建屋を計画しており、第1期工事では約37億円を投じて1棟500ラック分をつくる。通常の約半分の大きさの小型サーバーを採用することで、500ラックで7万~8万台のサーバーを収容できるという。すべての棟が完成すれば、単純計算で60万台規模のサーバーを集積する巨大なクラウドパブリック型DCが出来上がる。
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さくらインターネット 田中邦裕社長 |
石狩DCでは、とりわけパブリッククラウドへの対応を重視しており、この点が、既存DCと大きく異なる。もっと砕けた表現をするならば、GoogleやAmazonが保有するような超低コスト型のクラウドを、日本につくるというコンセプトである。
米Googleや米Amazonは、安価であり余るコンピューティングパワーを駆使し、世界中に進出している。もし、彼らが世界的にみて割高なDCしか使えなかったとすれば、ここまで急速には成長できなかっただろう。今となっては、検索や通販システムで使うリソースを遥かに上回るコンピューティングパワーを得ており、この余剰分を活用することで、PaaSやSaaS、IaaSといったクラウドコンピューティングサービスの商用化を実現するに至っている。「Google App Engine」や「Amazon EC2」などのクラウドサービスは世界中でユーザーを増やしており、パブリッククラウドの先駆けとして高く評価されている。米Microsoftや米Appleも、遠隔地や郊外に巨大DCを展開しており、安価で大容量なコンピューティングリソースの拡充を進める。
さくらインターネットの田中邦裕社長は、「石狩DCは、従来の都市型DCに比べてコストを半減させる。価格競争の面でも、海外の大規模なパブリッククラウドに十分対抗できる」と、先行する国のベンダーを強く意識して、サービス開発を進める。
DC拡充、北九州や島根でも パブリッククラウドに力を入れるのは、さくらインターネットだけではない。遠隔地DCで先行するIDCフロンティアは、北九州に敷地面積約3万m2、計画ベースで全12棟からなる巨大DCを建設中。2008年に第1期工事の2棟が竣工しており、現在、3棟目の竣工に向けて作業を進めている。1棟に約500ラックが設置可能で、ハーフサイズのサーバーに換算すると、およそ4万台を収容できる。
ほかにもインターネットイニシアティブ(IIJ)が、島根県に外気冷却コンテナユニットを組み合わせたDCを2011年4月に稼働させると発表。敷地面積は約8000m2、最大216ラックを収容できる規模だ。
インターネットサービスプロバイダで富士通グループのニフティも、富士通がもつ北関東DCの一部を活用するかたちで今年1月、パブリッククラウドに参入を果たした。
このように、有力ベンダーが相次いで遠隔地型やパブリッククラウド型のサービスの拡充に乗り出している。
次ページからは、低コストの極限に挑戦する取り組みや課題をレポートする。
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