パブリッククラウド領域で異変が起きている。ホスティング事業者のさくらインターネットが北海道石狩市に最大でおよそ60万台のサーバーを収容できる大規模データセンター(DC)の建設を発表したのに続き、有力SIerの日本ラッドは、今年10月をめどに風圧のみで除熱する超省エネ型DCの商用サービスに踏み切る。建設費や電力消費量を半分以下に抑えられるのが特徴だ。成功すれば、これまでAmazonやGoogleなど外資系に圧倒されていた日本のパブリッククラウドビジネスが本格的に立ち上がることになる。
日本のDCは、クラウド先進国の米国に比べ、約2倍のコストがかかると指摘されてきた。地価が高く、CPUや電源装置を冷却する空調の消費電力が大きいことが主な理由だ。さくらインターネットは、不動産価格が割安な北海道の土地を確保し、かつ屋外の空気を全面的に導入することで維持コストを従来型DCの半分以下に抑えた。石狩DCは8棟で構成され、うち7万~8万台のサーバーを収容できる1棟を2011年秋に竣工する。第1期施工の投資額は土地購入費を含めて約37億円。同等規模のDCを従来の都市型で建設すれば100億円近い投資が必要であることを勘案すると、初期投資を安く抑えられる。
日本ラッドは、さらに過激だ。都市型DCでありながら、風圧のみでIT機器を除熱する方式を採用。今年10月をめどにサーバー2万台弱を収容可能な低消費電力型のDCを都内に竣工する。既存建屋を改修する方式とはいえ、投資額は総額4億円と、こちらも格安である。米国では、コンテナにサーバーを詰め込み、運搬や増設を容易にする取り組みが広がっているが、狭い日本では土地や建物の制約から普及しにくいといわれている。そこで日本ラッドでは、通称“レゴブロック方式”と呼ばれる超小型のコンテナ方式の研究に着手。UPS(無停電電源装置)を内蔵した密閉式のサーバーラックに、吸気口と排気口を取り付け、強制的に空気を循環させることで除熱する。空調設備は使わない。コンテナ型では不可能だった「2階建て以上の建屋への設置も可能になる」(日本ラッドの岡田良介執行役員)という。
さくらインターネットは、オープンソースソフトのLinuxに準じたサーバー仮想化ソフトのKVMを採用した「サーバー仮想化」にも取り組む。これまでは、サーバーリソースの利用期間を3か月単位としたり、CPU性能やメモリ容量も固定的だった。仮想化することで、将来的にAmazon EC2やGoogleと同様、ユーザーはいつでも好きなときにリソースを利用でき、使った分だけ柔軟に料金を支払えるようにする方針。すでに既存顧客限定で300人のテスト的な募集を行ったところ、「募集からわずか1日で定員に達した」(さくらインターネットの田中邦裕社長)と、引き合いの強さに手応えを感じている。サーバー仮想化サービスは9月から始める予定で、来年秋に竣工予定の石狩DCでも仮想化技術を適用していくものとみられる。
Amazon EC2やGoogleのように、世界でまとまったシェアをもつネットサービスが少ない日本。その一因にITインフラの高さが挙げられる。さくらインターネットの田中社長は、「国内にネットサービスがないわけではなく、規模が小さいだけ。こうしたサービスを当社DCに集約する。規模の拡大によるコスト低減効果を高めることで、世界に通用する価格帯でのサービス提供が容易になる」と、日本のIT産業の活性化につなげる意気込みでビジネスに取り組む。

北海道石狩市に建設するさくらインターネットのパブリッククラウド型データセンターの模型
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IaaS特化で世界に通じる競争力を
日本のデータセンター(DC)は、高付加価値指向で、サービス単価を高める動きが根強くある。空調による冷却が欠かせないとされたメインフレームの流れを汲むケースが多く、電力面でも割高だった。さくらインターネットと日本ラッドは、サーバーリソース提供に特化したIaaS(インフラのサービス化)型のパブリッククラウドに特化。外気導入や風圧を利用するこで空調費用を劇的に引き下げ、米国流の安くて使い勝手のいいサービスを日本でも始める。
DC全体の消費電力をIT機器の消費電力で割った指標「PUE」は、さくらインターネットの石狩DCが1.11、日本ラッドは都市型でありながら外気温32℃の真夏でもPUE1.07を実証実験で達成している。日本の平均的なDCのPUE値は約2.0なので、それと比較して、大幅な電力節減になる。DCはIT機器を稼働させるための施設であり、空調を稼働させるためではない。IT機器の消費電力が、イコールDC全体の消費電力となることが最も効率がよい。
日本ラッドの風圧を利用して除熱する方式であれば、CPUの温度は「外気温+約10℃」(日本ラッドの岡田良介執行役員)に抑えられる。実証実験では、外気温33℃でもCPUの温度は42℃程度。「従来の空調を使った冷却でも、熱だまりなどの影響で、部分的にCPU温度が60~70℃になる。DCでは冷房を使わなければならないという固定概念は意味をなさない」(同)と切り捨てる。さらに効率を高めるため、ラックのみを密閉した“レゴブロック方式”を考案。風圧が行き届くようDC建屋全体を改修する現行方式よりも、実装が格段に容易になる。
さくらインターネットの田中邦裕社長は、「低価格なパブリッククラウドサービスを実現する技術はあっても、実現しようとしなかった。付加価値を高めて、かつサービス単価やコストを下げてこそ、世界レベルの競争に勝てるサービスになる」と話す。(安藤章司)