アップルが法人の商流再編に着手して、業界に衝撃が走った。既存の販売店の位置づけが大きく変わり、混乱を招くこととなったからだ。新たな局面を迎えようとしているアップルの法人向けビジネス。アップルの狙いはどこにあるのか。販売店の動きから探った。
アップル商流再編の衝撃 アップルが商流再編に着手したのは2010年4月のことだ。この再編で、ディストリビュータはダイワボウ情報システムとソフトバンクBBの2社に集約された。キヤノンマーケティングジャパンや大塚商会、丸紅インフォテック、加賀電子グループなどは、Apple Authorized Reseller(AAR)1次店に鞍替えすることとなった。1次店は計13社で、このうち5社は文教市場向けに特化した販売店であるEducation Value Added Reseller(EVAR)に位置づけられた。2次店のAARは約150社で、従来からMacintoshの導入を手掛けてきた中堅・中小規模の専門販売店が中心。Mac数台の販売が多いSIerから数千台規模のMacを扱うSIerまでが存在する。
従来は、「1500から2000の販売店が存在していた。以前はエンドユーザーがどこからでも購入できたが、アップルから認定を受けたところだけが販売できるように制限された。この措置で、販売チャネルはグッと狭まった」と大手販売店担当者。販売店は新たに、「毎週のレポート提出や資格取得、販売目標の達成などを課せられるようになった」(中堅販売店担当者)という。
文教市場に関しては5社に集約された格好だが、案件単位で他の販売店が三者間契約を締結することができる。ただし、「四半期ごとに20社までの制限がある」(大手販売店担当者)ため、定常的に認められているわけではない。ある販売店担当者は「ユーザーがハードウェアだけ他社から購入して、当社がセッティングするということであれば、契約に照らして問題はない。何らかの工夫をしないとサポートができなくなった」と、ため息を漏らす。
アップルは法人需要の獲得に本気か ソフトバンクBBの保坂敦之・コマース&サービス統括CP事業推進本部MD戦略室担当部長は「アップルは、仮想化やセキュリティのソリューションなど、今年度から法人向けに付加価値のある提案をするようになった。そのため、アップルのソリューションビジネスを真剣に展開する販売店に絞り込んだのではないか」と話す。
シトリックスやヴイエムウェア、マイクロソフトなどのサーバー仮想化製品のライセンス、サーバー製品を販売しているソフトバンクBBのコマース&サービス統括CP事業推進本部AdvancedICT統括部ソリューションテクノロジー部の実動部隊は、これまで地場SIerへの訴求を強めてきた。「ExchangeやVMの新しいバージョンなどをキャッチアップできていない地場SIerに、『ソフトバンクBBに頼めば一緒に作業してくれる』と認識してもらっていて、これは付加価値になっている」(同部の堀田哲部長)。
ここにきて、アップル関係のビジネスで、企業の社内にいるデザイナーが利用しているMacを情報システム部門が統合管理できるように支援し始めた。例えば、「Active Directoryのユーザー情報でMac Bookにログインするやり方はあまり知られていない」(堀田部長)現状があるのだという。社内で“冷遇”されているMacが社内ネットワークに組み込まれていなかったり、情報システム部門がサポートできていなかったりする課題を抱えていると同社は認識している。
Macの利用はすそ野が広がってきているというのが同社の見方。例えば、iPhoneやiPadを社内で使用する際、ネイティブアプリケーションの開発に必要だからだ。Macに慣れ親しんだ個人ユーザーが新卒で入社してくるという事情も、敷居を低くしている一因だと分析している。
iPadは、主にソフトバンクテレコムが法人向けに直接販売している。仮想デスクトップなどのクラウドサービス「ホワイトクラウド」でユーザー開拓を狙っている。iPadの商流が固まってくれば、SIerとの協業強化などによるビジネス拡大が見込める。
調査会社IDC Japanの片山雅弘・PC,携帯端末&クライアントソリューショングループマネージャーは、「販売チャネルを再編した狙いは、iPadの法人普及にあるのではないか」と話す。そしてこう続ける。「Macは浸透するとしたら中小企業からだろう。ただし、アップルのサポート体制がしっかりしていることが必要。大企業の場合は、大規模で複雑なシステムがすでに構築されていて、Windowsとの親和性を考えるとハードルが高い」。
前出の販売店担当者は、「日本はWindowsが圧倒的。むしろ以前よりも差が開いているのでは。最近の人はMacがどうかなんて気にしない。映像編集でFinal Cutを使う前提がない限り、Windowsの選択が多い。米国ほどのシェアはない」という見方を示している。
法人市場向け国内PC出荷台数 IDC Japanの調査によると、2008年のMacの国内出荷台数は15万4000台で、09年は15万2000台だった。一時期落ち込んだのは「PowerPCからIntel Macに替わってアドビシステムズの認定を受けられなかったため」(IDC Japanの片山マネージャー)。2010年の出荷台数の見通しについて、「08年の実績は超える。数千台上乗せすることになるのではないか」と説明する。これには、低価格化で買い替えやすくなったことや円高がプラス要因として働いているとみている。
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