テレビ会議(ビデオ会議)システムの国内市場が成長路線をたどっている。2008年の世界同時不況をきっかけに、コスト削減の一環として、全国に多くの拠点をもつ企業が出張費を抑えるために会議システムを導入し始めた。そのほか、新型インフルエンザなどのパンデミック(世界流行)で社員に在宅勤務を命じた企業などが、ウェブなどを絡めて会議システムを設置するケースも出てきている。需要が拡大していることから、ディストリビュータやインテグレータなど、ITベンダー各社が関連ビジネスの拡大に乗り出した。この特集では、各社の取り組みを探っていく。
市場動向
急激な伸びをみせる市場
2018年には2000億円超に
テレビ会議を含む国内遠隔会議システム市場は、今後、一気に成長するとの見方が強い。調査会社のシード・プランニングは、2018年には2024億円の市場規模になるとの予測を立てている。
この市場規模は、手軽にコミュニケーションを図ることができる「ウェブ会議」や「音声会議」なども含まれている。シード・プランニングでは、とくにウェブ会議に関しては、2018年に会議システム全体の54%を占めるようになるとしており、市場の成長をけん引するツールとみている。テレビ会議システムの専用端末が占める割合は、2018年に400億円規模と25%程度の高い水準を維持する見込みだ。つまり、人が集まる場所でテレビ会議システムを導入し、各社員のデスクや外出先でウェブ会議を行うなど、遠隔会議が当たり前になる可能性が高いということだ。「まずはテレビ会議の専用端末で打ち合わせや会議を実施する」といった形態が根づくことから、テレビ会議システムが遠隔会議の突破口としての役割を果たすといえそうだ。市場規模が2000億円超になるまでの過程は、2012年に550億円規模、2014年に800億円規模、2016年に1200億円規模などといった状況。年を追うごとに伸びる額が高まっていくとみている。
ポイントとなるのは、専用端末のハイビジョン(HD)化だ。2009年にはすでに60%に達しており、2012年には96%と、ほぼすべての端末がHD化する。これは、会議での利用だけでなく、高画質の映像を生かした業務での利用がますます増えるということだ。例として、製造業の開発拠点での利用や遠隔医療などが挙げられる。テレビ会議システムがもたらすビジネスチャンスが大きく広がることを物語っているのだ。
メーカー別の金額シェアをみると、2009年はポリコムが43.2%を獲得しており、他社と圧倒的な差をつけてトップのポジションを維持している。2位は、19.1%のタンバーグ。国産メーカーのソニーは17.6%で3位に甘んじている。 シード・プランニングでは、遠隔会議システムの市場予測を2003年から実施している。今回の予測は、日本国内で関連システムを販売するベンダー81社を調査し、世界市場と日本市場の現状と将来展望についてまとめたものである。
【用語解説】
テレビ会議とは?
遠隔で会議ができる、映像と音声でコミュニケーションを図ることができるシステム。ビデオ会議ともいう。本社と1か所の支社(支店)をつなぐといったように、拠点が少なければ専用端末の導入だけで済むが、拠点が多くなればMCU(多拠点接続装置)が必要になる。ベンダーにとっては、システム構築ビジネスの“旨味”が出てくる可能性がある。
メーカー編
事業拡大策を講じる
激しいシェア争いへ
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| 「MCUの拡販が決め手」とアピールするポリコムジャパンの柏木街史社長 |
テレビ会議システムの主要メーカーは、事業拡大に向けた強化策を講じている。トップシェアを維持するポリコムジャパンは、多拠点をつなぐことをコンセプトにMCUの拡販を進めている。販社体制を整備してユーザー企業を増やそうとしている。柏木街史社長は、「コミュニケーションの向上による迅速な意思決定など、ユーザー企業が成長するためのアイテムとして会議システムが浮上している。今後は、いかにMCUを拡販できるかが勝負」とみており、1次店とのパートナーシップを深耕。2次店に対してもパートナープログラムを提供することで拡販する体制を敷く。
同社では、「Platinum認定代理店」「Gold認定代理店」「認定代理店」などと販社を分類。販社数は13社に達している。そのうちMCUの販社として、「Platinum認定代理店」のプリンストンテクノロジーと大塚商会、日立電線ネットワークス、「Gold認定代理店」であるダイトエレクトロン、「認定代理店」であるパナソニックトレーディング社の5社を確保。加えて、「まだ当社が網羅し切れていないマーケットでビジネスを手がけるディストリビュータやインテグレータなどとパートナーシップを組んでいく」という考えを示しており、既存代理店をはじめとして、複数のインテグレータと交渉を進めている。この戦略は、MCUが売れれば必然的に専用端末の販売台数が増えるとの前提に立っており、「今後も、圧倒的なシェアを維持していく」と強気の姿勢を崩さない。
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| シスコシステムズの平井康文社長は、事業戦略発表会で「タンバーグの買収にともなう統合が無事に完了した」と胸をなでおろす |
2位のタンバーグは、シスコシステムズに買収された。タンバーグはネットワーク関連機器の“巨人”の傘下に収まったことによって、事業領域の拡大で大きな可能性をもつことになるとみられる。シスコシステムズはこのほど事業戦略の記者会見を行い、そのなかで平井康文社長は、「タンバーグの統合は無事に完了した」と公言した。同社では、主力事業の一つとして「コミュニケーションコラボレーション」を掲げており、「映像や音声を使って、ユーザー企業のワークスタイルを変革させることが重要となる」と考えている。具体的なパートナーシップ深耕策などは今後詰めていくが、販社体制については、「これまでの“縦割り”ではなく、コンサルティングやSI、サービスなどと、さまざまな形でアライアンスを図っていきたい」という考えを示す。テレビ会議システムだけでなく、さまざまな製品を網羅しているだけに、どのようなビジネスを手がけていくのかに注目が集まる。
テレビ会議システムの需要が拡大している状況下で、メーカー間のシェア争いが激化していくのは必至だ。いかに販社とパートナーシップが図ることができるかがカギを握る。
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