キヤノン、リコー、富士ゼロックスのコピーメーカー「御三家」は、デジタル複合機(MFP)とITシステムなどを連携させた「ソリューション(課題解決型)販売」に収益獲得の重心を移し始めている。MFPやシングルプリンタの単体販売が伸び悩むなか、顧客の要望に応える形で導入し、長期的に自社機器を保有してもらう戦略に出ている。各社が最近取り組んでいる「課題解決型」の販売手法や戦略をリポートする。
コピーメーカーはこれまで、インクやトナーなどのサプライ品(消耗品)、デジタル複合機(MFP)でユーザー企業がコピーをするごとにチャージする「コピー・チャージ」などによる「アフター・ビジネス」で安定した収益を上げてきた。
しかし、リーマン・ショック以降、大手企業ではとくに、コスト削減を理由にカラー印刷を中心に印刷を制限するところが相次ぎ、「アフター・ビジネス」で稼ぐビジネスモデルは危機に瀕した。また、技術革新でMFPが高機能・性能化される一方、ユーザー側では、そのすべての機能を使いこなせず、「どのメーカーのコピーでも一緒」という観念が広がった。不景気が長引くとともに、「安ければいい」というムードが蔓延し、より安価なMFPを求めて、買い換えサイクルが短くなった。
このためコピーメーカー各社は、限られたパイを奪い合うよりも、「ユーザーが一度導入したら、離れないようにする」戦略へと見直しをかけている。その戦略を具体化するためには、MFPやシングルプリンタのすぐれた機能を顧客の業務に応じてカスタマイズし、提供し、満足度を上げていくことが重要となる。つまり、長期的にMFPを利用してもらい、このなかで小分けの提案を積み重ねて「アフター・ビジネス」の減少分を補おうと、「課題解決型」の展開を積極化しているのだ。
「課題解決型」の取り組みは、メーカー各社が想定していなかった副次効果を生み出した。ユーザーはトナーセーブ機能などを使うことで消耗品費を抑制するなど、コスト削減ができることを知り、また、MFPの業務上の利用価値が高いことに気づいた。これにより、印刷枚数が下げ止まり、むしろ増えつつあるというのだ。いまや、「課題解決型」販売は、コピーメーカーにとって、不可欠の営業戦略となっている。
キヤノン、リコー、富士ゼロックスのパートナーである事務機ディーラーやSIerの数は、各社とも2000社程度存在するとされる。今後は、こうしたパートナーに対し、「課題解決型」の販売方法をいかに身につけさせるかが重要になってくる。
キヤノン
「複合機+1」を推進
MEAPを使った独自メニューは300以上
キヤノンの販売子会社、キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)は、今年2月下旬、ITソリューション事業を軸にビジネスを展開する中間持株会社「キヤノンMJアイティグループホールディングス(キヤノンMJ・ITHD)」を設立した。キヤノンMJ全体としては、IT機器販売中心だった過去の事業体を見直し、ソリューション販売で収益を上げていく体制を敷いたといえる。
再編に伴うデジタル複合機(MFP)/プリンタ販売への影響については、これまでとあまり変わらない模様だ。ただ、国内市場全体のIT機器販売が低調傾向にあり、大量販売が見込めないなかで、MFP/プリンタ販売も、収益性の高い事業への転換が求められているのは確かだ。
そして、キヤノンMJは現在、MFP/プリンタ販売で顧客に対し「複合機(MFP)+1の付加価値」を提案するという同社内で「プラスワン・ソリューション」と称する取り組みを展開中だ。
キヤノンは2009年9月、外部接続性機能などを強化したMFPの新モデル「imageRUNNER ADVANCE」を発売。機能・性能を前面に押し出した機器単体売りのビジネスが限界に達し、既存のITシステムとの連携性を高める必要があるとの判断から、MFP製品群を一新した。
この機器をITシステムと連携する際は、顧客のニーズに応じてMFPの機能を追加できるミドルウェア「MEAP(ミープ)」を利用して基幹システムや文書管理システムなどと一緒にし、顧客の課題解決に応える提案活動を積極化している。MFPとMEAPを使った業種・業務カットの「カスタムメニュー」は、代表的なものだけで300以上あるという。「MFPの機能をとことん使い込んでもらえるメニューを提供している。これによって、顧客側のプリントボリュームも上がってきている」(川東道明・コーポレートMFP企画課長)と、業務用途に応じてMFPを有効利用する顧客が増えたことを明らかにする。
間接販売比率の高さを武器に キヤノンMJの場合は、競合2社と異なり、MFPの総販売台数に占める直販比率が低い。リコーや富士ゼロックスは本体とグループ販売会社の直販比率を明かしていないが、60・80%程度で、最近はさらに「直販指向」を強めている。これに対してキヤノンMJは、直販が半分程度と低く、事務機ディーラーや最近増加傾向のシステムインテグレータ(SIer)経由の販売を重視している。川東課長は「ソリューションのメニューは、リリースする前からパートナーと共有し、直接・間接販売の両面で課題解決型の提案を浸透させている」と、競合2社と異なり、マルチチャネルでの販売体制が強みであるとしている。
SDK(開発キット)を利用して「MEAP」上でつくる「カスタムメニュー」は、「競合2社の仕組みと一線を画している」(川東課長)という。リコーのミドルウェア「Operius」や富士ゼロックスの文書管理ソフトウェア「DocuWorks」を使った業種業務に応じた商品は「お仕着せのパッケージ型だ」(同)とみている。個々の顧客のオフィス環境や業務内容に応じて開発するキヤノンMJの「カスタムメニュー」のほうが、より顧客のニーズに応えられるという主張だ。どちらが顧客に適しているかはケース・バイ・ケースだろう。
だが、キヤノンMJの「カスタムメニュー」の利用価値の高さに惹かれて、業務システム構築を得意とするSIerがパートナーに名乗りを上げるケースが増えているようだ。
キヤノンの新MFPとプリンタは、「機種共通プリンタドライバ」を搭載し、機種を区別することなく印刷を可能にしている。
寺久保朝昭・ページプリンタ販売企画課長は「印刷指示をMFPで受けて、オフィス内の近くのプリンタで印刷できる利便性がある」と話す。MFP/プリンタの利用方法は、顧客によって「集約化」「分散化」と多種多様だ。「MFPだけでなく、同時にシングルプリンタもソリューション提案の一つとして重要視している」(同)という。
川東課長はプリンタ販売の先行きについて、次のような見解を示している。「トナーや用紙、コピーチャージなどのストックに代わる新たな収益源が必要。それが、カスタムメニューやユースウェアなどといった新たな付加価値から生まれる」と。コピー業界の「ストックビジネス」が成り立たなくなりつつあるなかで、同社は事業全体の変革を続ける。
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