キヤノン、リコー、富士ゼロックスの国内コピーメーカー「御三家」が、ここへきて、機能・性能を前面に押し出して販売する“箱売り”からの脱却を進めている。とくに、機能が豊富で粗利率の高いデジタル複合機(MFP)とソフトウェアなどを組み合わせた「課題解決型」の販売体制への改革は急ピッチだ。不景気の影響などで、販売台数は伸び悩みの状況が続く。顧客のニーズに応える形で導入し、長期的に自社機器を保有してもらう方法でなければ、利益を得にくくなっているのが改革の要因だ。チャネル構造を含めたコピーメーカーの販売戦略は、この先数年で大変革期を迎える。(谷畑良胤)
箱売り脱却へ、3社の展開が急ピッチ
リコーは今年7月1日付で、グループ販売会社7社を統合して「リコージャパン」を発足させた。この再編の水面下では、各販売会社ごとに異なっていた販売手法を統一化する作業を着々と進めていた。加藤智司・Operius推進グループマネージャーは、「このタイミングで一枚岩になり、同じツール、シナリオを全国展開する」と宣言。コピー・プリンタに関して顧客が潜在的に抱えるTCO(総所有コスト)削減や業務改善などの問題点を焙り出して、課題解決の提案を分かりやすく伝えるツールを一気に揃えた。
富士ゼロックスは、以前から「カスタマー・バリュー・マーケティング(CVM)」という、顧客の要望を聞いて課題解決する販売スタイルを推進してきた。同社では、「グループ販売会社の(課題解決型の)提案メニューは2000以上になる」(米山俊治・執行役員)。しかし、各社がバラバラに展開していては生産性が上がらないと、現在、このメニューを標準化する作業を進めている。その内容は明らかにしていないが、「最終的には、七つの標準プロセスに複数のサブプロセスを付加し、顧客の機器環境を分析するツールや販売手法、マニュアルなどを整備する」(同)と、課題解決型の営業活動が全国で均一の展開ができるようにする方針だ。
キヤノンの販売子会社であるキヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)も、リコー、富士ゼロックスと同様に「課題解決型」の販売手法を強化している。同社では、顧客に複合機(MFP)+付加価値の提案をする「プラスワン・ソリューション」という戦略を推進中だ。2009年9月に発売した外部接続機能などを強化したMFPの新モデル「imageRUNNER ADVANCE」とITシステムと連携する際にニーズに応じて複合機の機能を追加できるミドルウェア「MEAP(ミープ)」を進化させ、基幹システムや文書管理システムなどと合わせた提案を推進している。
この動きを象徴していたのが、11月中旬に開催した5年に一度開催する同社のイベント「Canon EXPO Tokyo 2010」だ。「商品カットの展示は少なく、複合機と他のシステムを組み合わせた展示を多くした」(川東道明・コーポレートMFP企画課課長)と、箱売り傾向の強い事務機ディーラーでも組み合わせて販売できる「カスタムメニュー」を揃えた。コピーやプリンタと他のソフトやハードウェアをセットにして、「課題解決型」で顧客に提案するうえで切り札となっているのが、キヤノンMJでいうところの「MEAP」のようなミドルウェアやキーとなるソフトなのである。
リコーは07年4月に新ソリューションブランド「Operius」を立ち上げ、現在までに独立系ソフトベンダー(ISV)の製品と連携させた「Operius認定商品」を50種類揃えている。同社の加藤マネージャーは「これが、今では年間3ケタに達する導入数に達する勢いで伸びている」と、課題解決型の提案が定着してきたと強調する。富士ゼロックスも、累計300万本を売った実績のある文書管理ソフトウェア「DocuWorks(ドキュワークス)」とMFPの連携商品を100以上揃え、同社の弱点である中堅・中小企業領域を徐々に攻略している。
ただ、各社とも「課題解決型」の展開は直販部隊に対する人的・物的仕組みが整ったにすぎない。売り上げや収益にどう結びつけていくかという課題は残ったままだ。パートナーにこれを波及する方法も含め、具体策が待たれる。
表層深層
国内のデジタル複合機(MFP)とシングルファンクションプリンタの市場は「エコとコスト削減」の提案などが奏功し、数年来の減少傾向に歯止めがかかって回復基調にある。かつてのコピーメーカーのビジネスモデルは、MFPを大量に売り、トナーや用紙、コピーチャージなどの「アフタービジネス」で収益を上げるかたちだったが、長引く不景気の影響で、こうしたサプライの販売はじり貧に陥っている。
MFPに関していえば、技術の進歩で多機能になったものの、顧客側ではすべての機能を有効利用できないために価値が分からず、「どのメーカー製品も同じと思われて、簡単に他社機に置き換わってしまう」(某メーカー担当者)という“オセロゲーム”のような状況が続いた。プリンタに関してはコモディティ化が進み、価格競争も激しく、収益体質を向上させる商材でなくなった。 こうした市場環境のなかで、各社は、なるべく長くMFPを使ってもらい、小分けにした提案で、収益を得ていく手法として「課題解決型」の展開を強化しているのだ。逆に、そうしなければコピーやプリンタで儲ける術がなくなっているともいえる。
しかし、“箱売り”で収益を得るモデルの旨味を知る各社のグループ販売会社の営業担当者や事務機ディーラーの観念を、そう簡単には変えられない。だからこそ、「販売ツール」をこしらえ、自社やパートナーの「売り手」が即座に「課題解決型」の営業を実行できるようにしたのだ。窮余の策とはいえ、これが定着しなければプリンタ業界の発展はない。
コピーメーカーの「課題解決型」販売の商流