富士ゼロックスが先鞭をつける形で、ユーザー企業ではプリンタ・複合機を購入せずにサービス料金を支払って利用する「マネージド・サービス」が拡大してきた。調査会社ガートナーによれば、同サービスの成長率は年平均11%。国内のプリンタ市場が年々シュリンクするなかで、唯一と呼べるほどの成長分野だ。これまで培ってきたプリンタ機器販売のビジネスモデルを根底から覆すサービスだが、国内プリンタメーカーは、この流れにどう対応していくのか、その実情を追った。
所有から利用の流れ、プリンタにも 調査会社IDC Japanによると、2009年第3四半期(09年7~9月)の国内レーザー複合機(MFP)の出荷台数は、前年同期比13.5%減と、景気後退の影響をもろに受けた。これでレーザー複合機は、3四半期連続で2ケタ減となり、出口の見えない状況に陥っている。
これに加え、大手企業を中心にクラウドコンピューティングが普及し、ITインフラを「所有から利用へ」と移行して運用・管理コストを中心とする管理コストの削減や電力消費に配慮した環境対策を施す動きが強まり、プリンタ市場の環境にも変化をもたらした。そこでプリンタメーカー各社が注目し始めたのが、「マネージド・サービス」である。このサービスは、機器自体を販売せず、「貸す」方式でアウトソーシング提供する形態だ。
従来、ユーザー企業は機器を購入するかリース契約で導入し、プリンタメーカーはコピーチャージで顧客が出力した分を「ストック・ビジネス」として収入を得ることなどで成り立っていた。しかし、コスト削減や環境配慮の観点から、大手企業を中心にプリントアウト自体を抑える傾向が強まり、これに伴って用紙販売も低迷。これまで収益の柱となっていた「アフターマーケット」が大打撃を受けている。
「マネージド・サービス」は、機器の販売台数を稼ぐことはできない。このため、各プリンタメーカーや関係する販社では、従来のやり方を変えてビジネスモデルを大転換する必要があり、二の足を踏んでいる状況だ。しかし、「マネージド・サービス」の成長率が示すように、同サービスへのシフトは避けて通れそうにない。


先頭を走る
富士ゼロックス
アウトソーシングを
売り上げの3割へ 国内のプリンタ業界では、ここ1~2年で、「マネージド・サービス」というアウトソーシングが「次の成長エンジン」として注目を集めている。世界と国内でも、この領域で市場をけん引しているのはゼロックス(日本とアジア・パシフィックは富士ゼロックス)だ。富士ゼロックスを除く国内プリンタメーカーがこのサービスに着手し始めたのは、「大量台数のプリンタを販売する案件で、富士ゼロックスと競合するケースが増えた」(某事務機ディーラー幹部)ため、対抗措置としてやむなく取り組みを強化したという構図だ。
富士ゼロックスが国内を含めた自社領域内で、プリンタやデジタル複合機(MFP)の管理全般をアウトソーシングするサービス「Fuji Xerox Global Services(FXGS=グローバルサービス)」を本格化したのは2007年に溯る。当初は、企業のドキュメント出力環境の資産やコスト、管理業務プロセスなどをマネジメントする、「XOS」という「マネージド・プリント・サービス(MPS)」からスタートした。
「XOS」と似たサービスはキヤノンやリコーなどでも取り組み始めている。富士ゼロックスが、これら競合他社より先行しているのは、ドキュメントをデジタル化してビジネスプロセスを効率化する「BPS」や、ユーザー企業の先の顧客に提供する製品マニュアルなどのドキュメントを含めたライフサイクルを最適化する「DOCS」などを展開しているためだ。ユーザー企業だけでなく、その企業の顧客先を含めたドキュメント周りまで取り扱うのだ。08年度(2009年3月期)は事業分野別の売上比率で「グローバルサービス」は、8%を占めるまでに成長している。
この8%を売上高に換算すると、850億円強に相当する。この約半分が国内向けに提供したサービスの売上高だ。依然としてシングルファンクションプリンタとMFP販売関連が事業全体の7割を占めるが、同社が大量出力機のプロダクションプリンタを使った「オフサイト」のサービスをユーザー企業が利用したストック収入を含めれば、すでにアウトソーシング全体で2割に達する。岡野正樹・執行役員グローバルサービス営業本部長は「この割合を数年内に3割に高める」と、すでに成長軌道にあることを強調する。
佐川急便は「XOS」で
TCOを2割削減 富士ゼロックスの「XOS」を採用し、同社がオフィス出力環境・管理のすべてを請け負った大手企業としては、佐川急便がある。富士ゼロックスは、佐川急便に対して、昨年の初めから同社内にあるドキュメント出力に関する直接・間接のコストやプロセス、ニーズ分析・評価のアセスメントを実施。現状の課題や出力機器に関するTCO(総所有コスト)を割り出して最適化プランを提示した。これによって出力機器の30%超を削減でき、出力環境全般では20%以上のTCO削減につながる見込みだ。
請け負い実績をみると、このほかにも大手有名企業がズラリと並ぶ。岡野執行役員は、「このアウトソーシング事業を中堅・中小企業に波及させるのはまだ先の話。現状では、設置台数100台以上の大手企業でないと、収支が見合わない。この事業は、ユーザー企業の既存プリンタを生かす形で請け負うため、最適化するのは自社機に限らず他社機も対象になる」と話す。
「グローバルサービス」は、現在、本社主導で顧客を獲得する企業内の「オンサイト」と同社提供の施設を利用する「オフサイト」で稼働する。将来は「『ニアサイト』(ユーザー企業の傍)でサービス提供する体制づくりをする」と、全国に散らばる直系グループ販社34社にも、この提供方法を浸透させていく計画だ。
後述するが、同社の「オフサイト」の展開が市場に浸透するにつれて、スキャニングサービスを軸とするコダックなどの「BPO」にも影響を及ぼしている。コダックの谷島一哉・BPO営業本部BPO営業部長は「当社がクレジット会社などに提供している請求書の印刷などを請け負うオンデマンドプリンティングサービスなどの案件で、富士ゼロックスと競合する場面が増えた」と、警戒感を強めている。
プリンタメーカー各社は、自社のプリンタやMFPの販売で苦戦を強いられている。経済不況など、さまざま要因はあるが、他のITインフラで「所有から利用へ」の流れが顕著になり、プリンタ機器が販売しにくい環境であることは確かだ。このため、富士ゼロックスを除くプリンタメーカーは、同社に追随するための策を練り始めている。
「マネージド・サービス」とは
「マネージド・サービス」は、プリンタメーカーによっては「マネージド・プリント・サービス(MPS)」と「マネージド・ドキュメント・サービス(MDS)」とに使い分けられている。だが、基本的には、両者とも同じ概念で捉えられている。
富士ゼロックスの説明資料には、「オフィス・プリンタや複合機(MFP)の調達時に組織が利用してきた従来の購入契約やリース契約に取って代わる、費用対効果の高いサービス」と記述されている。
プリンタや複合機を組織内に設置する際には、機器自体を初期投資で購入するかリース契約で導入し、「コピーチャージ(パフォーマンスチャージ)」方式と呼ばれる出力枚数に応じて課金される料金形態になっているのが一般的だ。
「マネージド・サービス」は、クラウドでサーバーを従量課金で使うのと同じように、機器自体を購入せず設置するだけで、アウトソーシング料金と同じようにサービス契約料を払い使うことができる。
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