IT投資の復活を期待した2010年。どん底を味わった09年に比べれば上向いたものの、期首に立てた計画値の達成は「予想以上に難しい」。それが、2010年末のIT業界内で共通した声だった。「この先以降も不透明」との見解も一致している。踊り場を抜け出せないIT業界。打開策は何か。この特集では、SIerやITサービス企業のなかでも中堅クラスのIT企業に焦点を当て、厳しい環境にあっても、それを乗り越えようと立ち向かうIT企業の姿を追った。
【社内改革編】強い企業体質をつくる 国内のIT産業規模が急成長を見込めなくなった今、利益を捻出するには、他社の案件を奪って売り上げを伸ばすか、効率的な業務体制を敷いてローコスト経営を実践するしかない。利益を確保するために社内体制の強化に動くIT企業が少なくない。
Challenge1 営業改革
提案プロセスに
工学的手法を採用
金融業向けシステムと組み込みソフト開発が得意なSRA。親会社で純粋持株会社のSRAホールディングスの2010年度(11年3月期)の年商は355億円を見込む。大手のユーザー企業とのつき合いは長く、強固な顧客基盤をもっていることが強み。だが、SRAとSRAホールディングスの社長を兼務する鹿島亨氏は、「日本のIT産業の縮小は避けられない」と危機感を隠さない。停滞する国内市場で成長する術を模索した結果、鹿島社長が挑むのが「営業プロセス改革」だ。
SRAは、強い営業組織をもつというより、先進的な技術力が強みのIT企業。だが、今の市場環境を感じ取り、鹿島社長は営業プロセス改革に乗り出した。SRAは過去、不採算プロジェクトを複数発生させた時、それを撲滅させるために、プロジェクト管理ツールを導入して開発案件を徹底管理する仕組みをつくり上げた。それ以降、不採算案件を生み出さない強い開発体制を築いている。いわば、開発プロセス改革だ。今度はその仕組みを、営業・提案活用にも移植しようとしている。
提案活動をまず可視化して、案件が獲得できそうな可能性に合わせてそれぞれの呼称で管理。見込み数に応じた営業手法を確立して、どの営業担当者でも標準的な提案活動を手がけることができるようにする。これこそが、鹿島社長が言うところの「工学的手法」だ。
「営業はプロセスが明確になっていない。開発でも営業でも効率的なプロセスは確立できる。開発現場で手がけた業務改革を営業にも派生させる」。手つかずだった営業プロセスにメスを入れたのだ。
Challenge2 人事制度刷新
50年以上続く
プログラムを壊す
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JBISホールディングス 内池正名社長 |
2010年度(11年3月期)の売上高400億円を見込むJBISホールディングスは、11年度(12年3月期)期首に新しい人事制度を始める。内池正名社長の肝入りプロジェクトで、2年前から準備を進めてきた。2年前といえば、日本が不況に突入した時期。普通なら、企業はコスト削減や新事業の創出に力を入れる。しかし、内池社長は、あえて短期的な業績向上には結びつきにくい人事制度のテコ入れに動いた。
「SIerにとって最大で唯一の財産は人。客観的な指標で、各従業員を評価する指標がどうしても必要で、長期的な事業継続を考えれば、今こそ手をつけなければならないという危機感があった」とその理由を話している。
JBISホールディングスの主要事業会社は、金融・証券業界と地方自治体向けシステム構築に強い日本電子計算(JIP)と、証券業向けアウトソーシングサービスの日本証券代行の2社。それぞれ古い歴史がある。設立はJIPが1962年で、日本証券代行が1950年。歴史のある会社だけに、50年以上続く人事制度があるが、「先輩たちが改良を重ねて築き上げた人事制度ではあるものの、今の時代に適さない部分があった」(内池社長)。
新人事制度では、基本的に年齢、性別、勤務地に関係なく、ITスキル標準(ITSS)などを活用した独自の評価プログラムで評価し、その能力がどれだけ会社に貢献したかで評価する。加えて、ユニークなのが、ユーザー企業の業種の業務知識をどれだけもっているかという指標をつくり、その面からも従業員を考課することだ。
短期的な業績伸長につながらなくても、先を見越して人事改革──。古い体質を壊すことを決めたのだ。
Challenge3 人材育成改革
必要なスキルが激変組織を増強
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東芝ITサービス 石橋英次社長 |
東芝ITサービスは、全国を網羅する拠点をもち、従業員数2000人ほどを有し、全国47道府県で展開する保守サービスが強み。2009年度(10年3月期)の売上高は414億円で、年商規模は比較的小さいが、営業利益率は7%と競合に比べて高い。
その同社が10年10月開始したのが人材育成改革だ。10年度下期に「人材開発センター」という新組織をつくった。これは、従来あった「技術教育部」という人材育成部門を強化した組織である。同部門の新設は、石橋英次社長が10年度に推進した重点4プロジェクトの一つである。
東芝ITサービスの2010年度の通期売上高見込みは09年度比でほぼ横ばいで、売上高を伸ばす施策が至上命題となっている。しかしながら、そんな局面にあっても人材育成に時間をかけているのは、中期的な人材育成が最も重要と考えているからだ。「クラウド時代になれば、保守拠点やサービス人員を維持しにくくなる。そうした時、従来のカスタマエンジニア(CE)がもつ能力だけでは、生き残っていけない。クラウド時代を見据えた人材育成を技術面だけでなく、提案力やコミュニケーション力を含めて考える時期に入った」(石橋社長)。ハードの修理が専門のスタッフに、運用やソフトの技術、そして提案力を身につけさせ、新たな時代に立ち向かおうと今から準備を始めたのだ。
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