情報システムのクラウドサービス化、クラウド事業が隆盛となっている。主要企業の多くがクラウドに舵を切り始めた。「クラウドの活用によるビジネス変革」と「クラウドサービス市場への参入による新ビジネスモデル創出」の二つの切り口からクラウドビジネスの“種”を探る。
クラウドの扱いにご用心
「コスト削減はあくまでも出発点」 日本IBMはクラウドの五つの価値を挙げている。(1)ビジネススピードの向上、(2)資産の変動費化、(3)セキュリティ・ガバナンスの向上、(4)TCOの削減、(5)新規ビジネスの創出──がそれだ。
アクセンチュアは「クラウドによるコスト削減はあくまでも出発点に過ぎない」と指摘する。今後の5年間にクラウドがもたらす最大の可能性について、同社がグローバル規模でユーザー企業を対象に調査した結果によると、トップは「スピード、柔軟性、応答性の向上」で回答の60%を占める。一方で、「データ・セキュリティ/プライバシー/機密性の問題」がパブリッククラウドを利用するようになった場合の懸念材料として最も大きく、「信頼性/稼働時間/ビジネス継続性の問題」「法的要件、規制要件、監査要件に対するコンプライアンス」「既存システムとの連携」などについても懸念していることがうかがえる。
ベンダーが指摘するように、クラウドで得られるメリットは状況に応じてさまざまだ。そして、落とし穴もある。クラウド導入のとっかかりはコスト削減に傾きがちだが、選択の仕方によってはコスト増となり得る。懸念事項も少なくない。クラウドサービス提供のビジネスモデルを構築したりクラウドを自社に適用したりし、企業競争力を向上させるには緻密な事業戦略の立案やゴール設定が不可欠となっている。
この特集では、社内システムの更改に乗り出しているNTTデータを、クラウドの活用によるビジネス変革のモデルケースの一例として紹介する。ユーザー企業に対してIT戦略の“道筋”をつけるコンサルティングサービスを提供しているベンダーの取り組みについても触れる。
クラウドサービス市場への参入による新ビジネスモデル創出という切り口では、クラウドビジネスを推進しているキヤノンITソリューションズの事例とベンダーのSaaS事業立ち上げを支援している日本ユニシス運営の「ビジネスパーク」を紹介する。
クラウドの活用によるビジネス変革
ビジョンを明確化し、クラウド推進
自社をモデルケースにクラウドサービス展開
NTTデータは、社内システムについて課題を抱えていた。ハードウェアは保守期限の延長交渉によって延命措置を講じてきた。OSやミドルウェアはバージョンが古くなり、一部はサポートが切れていた。同社は、国際財務報告基準(IFRS)の適用やグループ経営の「見える化」の実現を目的に、次を見据えたシステム更改に取り組んでいる。
TCOの削減によるIFRS適用などの戦略的IT投資の強化を、社内システムの更改方針に掲げている。従来は、システムごとにそれぞれ異なる基盤を構築してきたために、過剰なハードウェアの構成やシステムごとの冗長機器が存在していた。
社内システムの改革の大まかな流れは次のようになっている。まずは、個々の社内システムの重要度・優先度を明確化するアプリケーション資産の棚卸しである。次がシステム基盤の最適化で、業務プロセスの優先度に応じてシステム基盤をパターン化し、統合。この後に、異なるシステム基盤にアプリケーションを移行するマイグレーション、アプリケーション運用のオフショア化がある。
改革を通じて2013年3月末までに、戦略的IT投資の比率を従来の5%から20%に引き上げ、機能追加は20%から15%に、維持・運用は65%に引き下げる計画を打ち出している。
山田正和・基盤システム事業本部システム方式技術ビジネスユニット第三技術統括部第三技術担当課長代理は「全体の75%が維持・運用にかかっていた。これを攻めの投資に変えていくという考えのもと、まずミドルウェア以下の層は可能な限り統一した」と説明する。
また、廣田和也・基盤システム事業本部マーケティング推進室課長は「当然ながら、単純に基盤を一つにすればそれでいいというわけではない。アプリケーションはそれぞれ緊急性と重大性の二つの軸で、サービスレベルを分けている。それによって用意するクラウド基盤の信頼性や性能が変わってくる」とする。
システム基盤の最適化については、シスコシステムズのCisco Unified Computing System(Cisco UCS)を採用。社内で運用している70システムを新システムに移行している段階だ。「あくまでも標準化技術を前提に、次の移行のハードルをなるべく下げる実装を心がけている」(山田課長代理)。廣田課長はクラウド移行で留意する点として「最も費用がかかるのはデータセンターだ。IAサーバーはどんどん集約率を上げることができるので、保守期限いっぱいで使うよりも、集約していったほうがTCOを下げられるかもしれない。これは毎年、社内システムで検討していく考えでいる。クラウド利用ではこういうことを見込んでおくビジョンが必要になってくる」と指摘する。
このほか、「バックアップシステムをディスクバックアップに全面的に切り替えている。ただし、最近はSATAディスクが廉価になってきているので、高い信頼性がなくても差し支えない部分は割り切った実装にした。結果的に、バックアップシステムの構築に対するコストは従来の10%になった」(山田課長代理)という。
システム基盤の最適化の具体的な効果として、更改における創設費は現行比で約60%のコストダウンを実現。就業、人事給与、購買、電子決裁の4システムを対象に、IAサーバーを用いた仮想化統合で、約50%のTCOを削減(5年間累計)できると試算している。
マイグレーションは、2010年4月から2013年3月末までの3年計画で実施している。2010年度は、15程度の業務システムを移行し、リリース済である。2011年度以降も順次移行していくとしている。
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