ERP(統合基幹業務システム)業界は、ベンダーの棲み分けが薄れてきた結果、競争が激しさを増している。SMB市場には、多くのベンダーが参戦して混戦模様。変化のスピードも増している。値下げ合戦やグローバル化の波に呑まれるベンダーが現れてもおかしくない。こうした状況下、ベンダー各社の動きを取材し、将来像を予測した。(取材・文/信澤健太)
→前編から読む国内勢、生き残りに向けた新機軸を
新たな方向性を探る NTTデータビズインテグラルは、国産ERPの事業会社としては異色の存在だ。国内ベンダー数社が出資し、設立当初からパートナー企業の強みを最大限に活かす事業モデルを指向している。グローバル展開の本格化にも含みをもたせている。
ベストオブブリードで提供 NTTデータビズインテグラルは、国産ERPでは最後発の部類に入る。しかし、事業モデルはこれまでのERPと異なる。 2009年、NTTデータ イントラマートのウェブフレームワーク「intra-mart」を基盤にするERP「Biz∫」の発売に際し、中山義人社長は「BI、情報系からERPまでオール・イン・ワンですべてのソリューションが手に入るユーザー中心のERPだ」と説明した。SaaS/クラウドに対応したSOA・BPM基盤「Biz∫」上で開発した機能モジュールを販売している。
国内の有力なパッケージベンダーと提携し、“ベストオブブリード”ソリューションの提供に取り組んでいる。パートナー企業は、NTTデータグループを中心に、メーカー色がないユーザー系SIerが揃っているのが特徴だ。パートナー企業向けには、「Biz∫」製品の開発・実行基盤で、業務アプリの開発工数を削減する「Biz∫APF」を提供している。
ERPとしての「Biz∫」のグローバル展開も視野に入れている。すでに販売管理モジュールは、上海イントラマートを通じて中国市場で販売している。主に、NTTデータグループの各社を通じて販売し、中国、東南アジア地域を手はじめに拡販していく考えだ。
進むクラウド対応への動き
富士通とFJMは、2010年10月に「GLOVIA smart きらら」の提供を開始した。狙う層は年商100億円未満の企業であり、攻略のカギを「ITの相談役」に求める。FJMの渡辺雅彦・常務理事ソリューション事業本部副本部長は、「オンサイトではなく、SaaSセンターからネットで要望に応じるサービスを提供する仕組みが適しているかもしれない。例えば、経理には帳票保存の義務があるが、これを自由に出し入れできるサービスなどがあり得る」という。
NECの土田英夫・製造・装置業ソリューション事業本部第三製造業ソリューション事業部EXPLANNER部長は、クラウドを注力分野と位置づける。同社は、09年8月に「EXPLANNER for SaaS」の提供を開始。10年2月には、「EXPLANNER for SaaS」を中核にSaaSアプリケーションをメニュー化し、周辺業務システム、メール・ポータルなどのフロントシステム、建設業やホテル向けなどの業種特化システムを基盤上で連携させている。「EXPLANNER for SaaS」はサービス業で引き合いが多く、「製造業は飛びつきにくい」(土田部長)という。
土田部長は、「販売店が抱えるSEの扱いをどうするのかという課題はあるが、後戻りはできない」と話す。パートナーは、自社アプリを基盤上で提供することができるが、「法務部から『連携を保証するな』といわれている。だからウェブやカタログでは連携をうたっていない」(土田部長)という。
住商情報システムは、中堅企業向けERP「ProActive E2」を開発・販売している。10年2月、自社DCである「netXDC」のプライベートクラウド環境で、「ProActive」を稼働させる「ProActive on Cloud」の提供を開始。11年1月には、仮想化ソフトウェア「VMware」に対応したことを発表した。「長い目でみればクラウドは無視できない存在になる」(五月女雅一・ProActive事業部営業推進部副部長)。
電通国際情報サービス(ISID)の島隆・ビジネスソリューション事業部ビジネスコンサルティング部ソリューション企画ユニットプロジェクトマネージャーは、「パブリッククラウドは、広く普及する可能性がある」と肯定的だ。しかし、パブリッククラウド環境でのERPの提供については、慎重な姿勢を崩さないベンダーが少なくないのも確かだ。OBCやOSKはクラウドサービスの本格提供には慎重な姿勢をみせる。
調査会社ノークリサーチの岩上由高アナリストは、SMB市場におけるERPのパブリッククラウドサービス化には懐疑的。「クラウドに関しては、オンプレミスのERPにASP/SaaS形態のBI機能を結びつける動きが重要になる」と分析する。ERPとCRMやBIとの連携にあたり、ベンダーの協業が進むとみている。一方で、調査会社アイ・ティ・アールの藤巻信之シニア・アナリストは、「大企業では、プライベートクラウドでグループ経営の効率化を図る動きが活発化する。中小企業では、パブリッククラウドの普及が進むのではないか」とみる。
ビジネスの種を育てる ベンダー各社は、国内企業のグローバル展開に合わせてグローバルシステムを構築すべく、国内外のベンダーとの提携を推進している。SIerには、こうした企業のグローバルシステムのサポート体制が求められている。 クラウドビジネスの展開においては、大手ベンダーのパブリッククラウド基盤上でパートナー企業のサービスを稼働させる動きがみられる。B-EN-Gは、ERP「MCFrame」の原価管理機能を切り出してクラウド・SaaS型サービス「MCFrame online 原価管理」として提供。サービスを稼働するクラウド基盤として「Windows Azure Platform」を活用している。
業務プロセスにBIによる分析機能を統合し、経営管理を高度化するベンダーの取り組みも無視できない。SAPのようにビジネスオブジェクツを買収する場合もあれば、マイクロソフトのように自社で構築する場合もある。国内ベンダーにおいては、自社で構築するよりも専業ベンダーなどと提携する形態が目立つ。
SMB企業には、「業務システムに組み込まれる“現場レベル”のBIの提供が盛ん」と、ノークリサーチの岩上シニアアナリストは指摘する。「MCFrame online 原価管理」は、インメモリ型BIツール「QlikView」のデータ分析機能をオプション機能として提供している。
ERP研究推進フォーラムによると、ERPの適用業務は、会計系から業務系、経営管理系(EPM、BI)に広がりをみせていることが明らかとなった。対前年比では、経営管理系は前年の6%から15%に増加した。
ERPの適用範囲やサービス形態は、従来に増して多様化しており、異業種系、他領域パートナーとの協業拡大がビジネスの種を育てるカギとなる。
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