その他
中堅ERP市場 踊り場脱し「需要期」へ
2007/11/05 14:53
週刊BCN 2007年11月05日vol.1210掲載
「踊り場」にあった国内の中堅ERP(統合基幹業務システム)市場は、「金融商品取引法(J-SOX法)」が適用される来年4月以降に「需要期」を迎えそうだ。その際に求められるERPは、企業内データを統合・蓄積して「財務報告の信頼性を確保」する「バックエンド」の役割を果たすだけではすみそうにない。統合した企業内データをBI(ビジネス・インテリジェンス)で戦略経営用の分析データに加工できたり、SOA(サービス指向アーキテクチャ)環境上で柔軟にサービスを「増改築」できる基幹システムに仕立てるなどの必要性が高まっている。「ERP+α」の提案力を発揮したERPベンダーが市場を制することになりそうだ。
分析系、SOA付加、複合提案カギ 中堅企業は「戦略経営」求む J-SOX法の「内部統制制度」で対象となる上場企業とグループ会社は、「財務情報の信頼性」を確保するため「ITへの対応」が必須となり、これを解決する手段としてERPへの注目度が高まった。このため、中堅ERPベンダーでは「適用前に“特需”がある」と期待していた。しかし、対象企業は業務プロセスの文書化やワークフロー製品を導入して業務フローを明確化するなど、「フロントエンド」を整備するのに奔走。「適用前に基幹システムを改築できない」と、再構築時のシステムダウンなどを嫌気して基幹システムに手を加えることを控える企業も多く、中堅ERP市場は、予想に反して伸び悩んだ。 完全WebベースのERP「ProActive E2」を提供する住商情報システムは「アクセルを踏むタイミングを見ている」(竹林慎輔・営業推進部部長)と、J-SOX法適用後の企業動向を注視する。現在は、導入に向けたITコンサルティングに力を注ぐが、「会計業務を統合するシステムは行き渡っている。来年以降に企業が欲しがるのはPDCA(計画・実施・監視・改善)を回す仕組み」(同)と、Webシステム開発言語「Curl」を駆使して直感的に使えるユーザーインターフェイス(UI)にしたり、BIツールを持つSIerなどと連携し、提案できる体制を整えている。 グループ会社向けに強みをもつERP「SCAW」を提供するNTTデータシステムズは、「会計案件は落ち着き感がある。人事・給与、生産管理などの市場が伸びる一方、会計の買え控えが見られる」(田野周・パッケージ営業部長)と、逆に、会計を除く製・販に関係する業務アプリケーションが伸びを示しているという。それでも「消費税改正など、税制改正がピークを迎える来年、再来年に会計システムを見直す“波”が必ず押し寄せる。その時には、業務横断的な分析系の要望が出てきそう」(田中宏治・パッケージ開発部部長)と、SOA基盤を構築するデータ連携ツール「eTrans」やNTTデータグループ内のソフトウェアを連携させて、「SCAW」の機能改善を進める予定だ。 中堅ERPベンダーは現在、企業に積極的なERP導入を薦めるより、むしろITコンサルティングなどを手がけ、虎視眈々と「需要期」の準備をしている。同市場で急成長中の完全WebベースERP「GRANDIT」を開発・販売するインフォベックは「東証2部上場企業では、文書化すら未着手の企業が多い。適用後は内部統制対応でERP導入が当たり前になるだろうが、本格的な商談になるまでに、まだ時間がある」(山口俊昌・取締役)という。 同社は、国のシステム監査基準にも示されたITガバナンスの成熟度を測るフレームワーク「COBIT for SOA」を標準仕様にして内部統制機能を強化した新バージョンを発売。「業務プロセスと監査視点で統制項目をマッピングした文書テンプレートを付け、文書をワークフローで自動承認・管理できる機能にした」(同)と、来年以降の需要に向け、中堅企業側で煩雑となる部分から提案を進めている。 シェア上位の富士通は、中堅企業向けERP「GLOVIA smart」に、データ連携のサービスバスとなる「GLOVIA smart SOA」を加え、「“増改築”が容易にできる基盤をつくり既存資産・システムと連携できる仕組みにした」(梶山亮・販売推進部担当部長)と、将来の企業システム像を見据えた柔軟なシステム構造にしたという。これまでは、グループ内SE子会社やチャネルSIerなどが、独自にもつ業務アプリケーションを個別提案し、顧客側に混乱がみられた。これを解決し、業種・業態に応じたERPにするためSOA機能を強化。同社と連携する製品はすべて、統一UIからシングルサインオンで利用できるERPにし、これにアクセス管理や内部統制対応などの機能を追加した。 「踊り場」にある中堅ERP市場だが、富士通の「GLOVIA smart」は今年度上期(2007年4-9月)の導入数が前年同期に比べ十数%増えている。「企業は、将来を考える時、企業内データを一気通貫で見られる仕組みにしたい。SOA環境にすれば、小さく導入しつつ、徐々にサービスを付加でき、データ連携もできる」(梶山・担当部長)と、グループとチャネルSIerの総合力で競合他社に対抗していく考えだ。【解説】急展開するERPベンダーの動き 中堅企業の攻略が明確に BIベンダー買収も活発化 外資系のERP(統合基幹業務システム)大手が相次ぎ大手BI(ビジネス・インテリジェンス)ベンダーを買収している。独SAPはこのほど、BIベンダー大手のビジネス・オブジェクツ(BO)を買収すると発表した。SAPは「SAP BW(ビジネス・ウエアハウス)」を販売しているが、全社規模でのデータ集計やレポートなどで専業ベンダー(BOなど)の機能に及ばないと判断したようだ。米オラクルはすでに、企業業績指標を高速集計するパフォーマンス管理システム大手のハイペリオンをもつ米ブリオ・ソフトウェアを買収している。国内の中堅ERPベンダーも、BIベンダーのBIツールを使ったシステム構築・提案を得意とするSIerの存在が欠かせなくなっている。 J-SOX法を前に国内中堅企業は、文書化や業務フロー改善など「フロントエンド」の構築に着手している。中堅企業の多くは、いまだメインフレームなどレガシーシステムが現存する。あるいは、クライアント/サーバー型のERPを利用している。こうした中堅企業が次に利用するERPは、「柔軟性があり、企業内データを生かし『リアルタイム経営』を実現したり、将来を見据えた戦略立案に必要なデータを容易に取り出せる製品だろう」というのが、中堅ERPベンダーの統一した見解だ。 調査会社ノークリサーチによると、2005年の中堅ERP市場(年商500億円未満)のシェア1─3位は、富士通、OSK、住商情報システムで変わらないが、「下位ベンダーとのシェア差が微妙に縮まっている」という。J-SOX法の施行を前に過熱気味の中堅企業へERPベンダーが集中展開しているためとみられる。06年の中堅・中小企業向けERP市場は、前年に比べ8・9%伸びた。07年は、前年と変わらない伸び率に収まりそうだが、08年は2ケタ成長との見通しを示すベンダーが多い。 大企業向けERPが飽和状態にあり、中堅企業に市場を定めているベンダーが増えていることも一因だ。市場競争が激化する中で、各ベンダーが特色づくりを始め、BIやSOAなどを利用し新機軸を打ち出そうとしている。これと並行して中堅企業側も、「リアルタイム経営」や「戦略経営」に基幹システムのデータを活用する動きが活発化。中堅ERP市場は、J-SOX法施行以降も断続的に需要がありそうである。
「踊り場」にあった国内の中堅ERP(統合基幹業務システム)市場は、「金融商品取引法(J-SOX法)」が適用される来年4月以降に「需要期」を迎えそうだ。その際に求められるERPは、企業内データを統合・蓄積して「財務報告の信頼性を確保」する「バックエンド」の役割を果たすだけではすみそうにない。統合した企業内データをBI(ビジネス・インテリジェンス)で戦略経営用の分析データに加工できたり、SOA(サービス指向アーキテクチャ)環境上で柔軟にサービスを「増改築」できる基幹システムに仕立てるなどの必要性が高まっている。「ERP+α」の提案力を発揮したERPベンダーが市場を制することになりそうだ。
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