中堅・中小企業向けERP(統合基幹業務システム)市場をめぐる競争が激しさを増している。あるベンダーの幹部は、「ERPは儲からない商売」とため息をつく。SAPジャパンやオービックビジネスコンサルタントなどの“新顔”が勢力を拡大しており、既存の国産ERPベンダーは厳しい戦いを迫られそうだ。継続的な成長のためには、独自色を打ち出す差異化戦略が欠かせない。(文/信澤健太)
figure 1 「市場規模」を読む
2010年の基幹系システム投資は更新需要が中心
調査会社のノークリサーチによると、2009年におけるERP市場規模は、リーマン・ショックに端を発する経済環境の悪化を受けて、前年比9.8%減の3090億8000万円だった。これを年商規模別にみると、年商500億円以上の大企業は13.0%減、5億円以上500億円未満の中堅・中小企業(SMB)は7.1%減だった。リーマン・ショックの発生でSMBのIT投資は大幅に落ち込んだが、サーバーの耐用年数超過への対応やERPのバージョンアップといったシステム更新をこれ以上引き延ばすことができない状況にあったため、大企業に比べると軽微な減少幅となった。
2010年も基幹系システム投資は更新需要が中心となる横ばい傾向が続き、新規投資の需要が本格的に回復し始めるのは2011年以降と予想している。ただし、業種・業態によって個別のニーズがあるとして、ノークリサーチは、それらに対応する具体的なソリューションの提案が求められると指摘している。
国内ERP市場の規模推移
figure 2 「勢力図」を読む
SAPジャパンが躍進、国内ベンダーが追う展開
ノークリサーチの調査では、2010年における年商500億円未満のSMBの導入シェアで1位を獲得したのはSAPジャパン「SAP ERP(R3を含む)/SAP Business All-in-One」の11.4%だった。2位は、富士通「GLOVIAシリーズ」の10.0%、3位はオービックビジネスコンサルタント(OBC)「奉行V ERP/奉行新ERP(奉行21シリーズ/奉行iシリーズを除く)」の6.4%、4位はNTTデータシステムズ「SCAWシリーズ」と日本オラクル「Oracle E-Business Suite」の5.9%だった。
SAPジャパンは、同社でSMBを表す「SME」の定義を従来の年商1000億円以下の企業から年商300億円以下の企業に引き下げ、SAP Business All-in-Oneの訴求を強めている。こうした取り組みが功を奏し、09年の調査でOBCに次いでシェア2位だったSAPジャパンは、競合がひしめくなかで翌年は1位に踊り出た。一方で、同じく外資系の日本オラクルは、大企業市場と比べてSMB市場ではそれほどの存在感を発揮できていない。
2010年中堅・中小企業におけるERPの導入社数シェア
figure 3 「プレーヤー」を読む
競争激化の様相を呈する市場
外資系、国産を問わず、数多くのプレーヤーがひしめくSMB向けのERP市場。近年は、中小企業市場に強いOBCが中堅企業市場で勢力を伸ばす一方で、大企業に強いSAPジャパンが中堅企業市場に攻勢をかけており、一層の混戦状況にある。クレオマーケティングの林森太郎社長は、「差異化が難しいこともあって、価格競争に陥り、単価が下がっている。薄利多売の状況に陥っている」と明かす。
リーマン・ショック以降は、従来に比べてランクを一つ落としたERPを選択する企業が目立っている。IT投資の抑制による導入規模の縮小やIFRS(国際財務報告基準)をはじめとする法改正を背景に、ノンカスタマイズや自社導入といったニーズが強まったためだ。この傾向は、一部の大企業(年商500億円以上)や中堅上位企業(年商300億円以上500億円未満)で顕著にみられる。OBCは、導入費用と保守・メンテナンス費用の低減効果を謳い、ダウンサイジング案件の獲得を進めている。西英伸・営業本部マーケティング推進室室長は、「当社のシステムは短期導入が可能だ」とアピールする。ノークリサーチは、年商100億円以上500億円未満を主な対象とするERPの競争が従来に増してさらに激しくなると予想している。
主要ERPのポジショニング
figure 4 「トレンド」を読む
業務系にとどまらない取り組みが続々
ERPベンダーやシステムインテグレータ(SIer)が、ERPのクラウドサービス化に踏み切っている。SAPジャパンや日本オラクルも2011年にクラウド市場に本格参入する可能性がある。ただし、現時点では様子見というベンダーも少なくない。市場ニーズがまだ十分ではないとか、既存の販売チャネルに悪影響を及ぼすといった理由からだ。インフォコムは「GRANDIT for Cloud」を提供しているが、未だ利用実績はない状況だ。ノークリサーチは、「導入済のERPをサービスに移行するパターンは非常に少ないが、新規導入の場合にはASP/SaaS形態も有力な選択肢の一つとなる可能性がある」と指摘する。また、「業務システムに組み込む“現場レベル”のビジネスインテリジェンス(BI)の提供が盛ん。オンプレミスのERPにASP/SaaS形態のこうしたBI機能を結びつける動きが重要になるだろう」とみている。
インメモリデータベース技術の活用をはじめ、モバイルデバイスへの対応、ソーシャル機能の提供などを標榜するベンダーも登場している。独SAPは、「リアル・リアルタイム」をキーワードに掲げている。クラウド環境で、インメモリデータベース「SAP HANA」上での稼働に最適化したインメモリアプリケーションを拡充していく計画だ。
新規導入予定の「ERP」製品/サービスの利用形態