ビッグデータの5年後、どうなる?
「データ流通市場」や「分析支援事業者」が登場
国内外で「交通」を中心に活用が進み、先進的な事例が多く現れ始めているビッグデータ。だが、うまくいくかどうかわからない分野に大きな投資をしてもいいのか、と疑念を感じるユーザー企業も多いと推測される。EMCジャパンのデータ・コンピューティング事業本部 テクノロジー&プロフェッショナルサービス部の仲田聰部長は「まずは企業が手元にもっているデータを分析することで、ユーザー自身でデータ分析の価値を知ってもらうような、スモールスタートでの製品導入を促していく」と話す。NRIの鈴木主任コンサルタントは、「分析支援事業者は、死蔵しているデータをいじるだけでも効果が現れると話している。効果が出れば予算を動かせるので、ストレージを購入するのはもったいないという理由でこれまで捨てていたデータの蓄積が進み、さらに通信モジュールに投資して時事刻々と上がってくるデータを収集する動きにつながる可能性がある」と話す。
NTTデータでは、ビッグデータビジネスの発展モデルを四つの波に分けている。第一の波が情報検索ビジネスであり、本来の業務で大量データを処理するビジネス。情報検索ビジネスではグーグルなどが検索結果をもとにした広告最適化で成功している。第二の波がBRIMOSやKOMTRAXのようにセンシングデータをリアルタイムに活用するビジネス。第三の波が本来の業務で蓄積したデータを別サービスで活用するビジネスであり、「携帯キャリアやSNSなどがこれを模索しているのではないかと考えるが、これは個人情報や法規制的な問題が生じる可能性もあるため、センシングの後の動きになるだろう」(NTTデータの技術開発本部IT活用推進センタ ビジネスインテリジェンス・ソリューション担当の中川慶一郎部長)。そして第四の波が、一見すると価値のないデータを組み合わせた新しいビジネスモデルだ。
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NTTデータ 中川慶一郎部長 |
NTTデータの中川部長は、「5年後はおそらく、第三の波にさしかかるところまで進むのではないか。そこで、分析の基盤製品、提供サービスが隆盛を迎えるとともに、今後、風評情報を握っているベンダーが情報を提供するサービスが始まっているかもしれない」とみる。そして、従来型のSIを深掘りすることに加えて、こうした分析の基盤提供サービスや、さらに情報の価値を高めるコンサルティングのノウハウを生かして、「付加価値情報提供サービス」などにシフトしていく可能性を挙げた。
TISでも「ビジネスモデルがSIからサービス型に変わっている。5年後には、PaaSによって分析基盤を提供するとともに、分析方法をテンプレート化して、ユーザーに対して、コンサルティングや教育の提供を視野に入れている」(田島部長)と展望を話す。
ビッグデータの時代に入って求められるスキルセットは、これまでのように仕様書通りにモノをつくるのではなく、「このデータとこのデータを生かせば、何か面白いことができませんか」という顧客の要望を聞き、処理・分析業務をともにやってくれる事業者だという。すでに、国内でも分析関連ビジネスに成功している「ブレインパッド」は年率40%もの売上増を果たしている。
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日本マイクロソフト 北川剛マネージャ |
分析に対するノウハウや実績が売り手側に必要であるという認識は、メーカー側も同じだ。日本マイクロソフト サーバープラットフォームビジネス本部クラウド&アプリケーションプラットフォーム部の北川剛エグゼクティブプロダクトマネージャは「いまビッグデータ活用製品は1製品では存在していないので、売り手がデータ活用のアイデアを提案して、データ処理フローを実現する製品選定やそれを構築する力が必要になる」と指摘する。
今はまだ先進的な企業がビッグデータを活用するトライアルを行い、実例の積み上げを行っている段階といえる。そのノウハウが貯まってくれば、5年後には、大量データの分析の方法論は確立され、より身近なモノとなっているだろう。
また、技術的にも今は個別の製品として提供されているが、日本IBMは「ビッグデータ分析に必要な機能をアプライアンス化していくことも視野に入れている」(ソフトウェア事業インフォメーション・マネジメント事業部の中林紀彦マーケティングマネージャ)と話す。日本マイクロソフトの北川マネージャも「ある程度スイート化が進むのではないか」と予想している。製品、分析の方法論がある程度確立されるという土壌が揃えば、今度は新しい市場として、データを流通させるビジネスが盛んになるかもしれない。その動きは5年後かもしれないが、データで利益を生み出す時代が来ると予測する。