総合ITディストリビュータが、販社やメーカー、ユーザー企業などへの情報提供を強化している。具体的な施策の一つとして行っているのがシステムの革新だ。販社向けのEDI(電子データ交換)や社内の基幹系システムなど、各社それぞれの考えで強化を進めている。「ディストリビュータのあるべき姿」を見出し、単なる製品売りではないビジネスを手がけることが最終目標だ。主要ディストリビュータ4社の戦略を追った。(取材・文/佐相彰彦)
【システム革新の背景】
販社に最適な情報を提供する
メーカーの戦略支援にも寄与 ディストリビュータがシステム革新に乗り出しているのは、販社に最適な情報を提供し、案件の獲得に結びつけてもらうためだ。
これまでも営業担当者などが、EDIやウェブEDIなどから収集した販売データをベースに、担当する販社に情報を提供してきたが、これらは全販社に共通するフォーマットに則った情報だった。また、提供した情報は最終的に人の手を介して分析されるので、対策や戦略構築に至るまでに時間がかかっていた。
しかし、ユーザー企業のニーズは複雑化しており、定型的な情報ではそのニーズに応えることができない、すなわち導入に結びつかない状況になっている。また、先行き不透明な市場環境のなかでは、少しでも速く、正確な分析とその成果が求められる。
そこでディストリビュータは、販売データを含む情報をそれぞれの販社に合ったかたちで提供し、さらにデータにもとづいて販社が迅速に経営判断できるように、これまで支援してきた一連の流れをシステムとして構築し、運用し始めたのである。
もちろん、上流工程であるメーカーとのパートナーシップを深める狙いもある。販社の状況や、販社から収集したユーザー企業の声とか、製品への評価を分析し、その情報をメーカーに伝えることで、市場に適した製品を開発してもらうことが目的だ。
大手ディストリビュータが取り組む情報システム改革の実際をみていこう。
ダイワボウ情報システム
システム全面刷新でBIとCRMを強化
メーカーのマーケティングを代行
 |
| 西田善紀取締役 |
ダイワボウ情報システムは、2013年度(14年3月期)早々に社内の基幹系システムを全面刷新する予定だ。これに合わせて、ウェブEDIを中心としたBtoBシステムの「iDATEN(韋駄天)」をリプレースする。この大幅なシステム改編によって、システム上で収集する定量データと営業担当者が直接収集する定性情報を生かして情報提供を強化し、販社を支援する。
基幹系システムの大幅な刷新はこれまで3回ほど実施しているが、今回の投資は過去最大。西田善紀・取締役営業推進本部長兼コンシューマ営業本部長は、「情報の処理量が増えていることとBCP(事業継続計画)の観点から、システムを刷新することになった」と明かす。同時に、刷新するならメーカーや販社にもメリットのあるシステムを構築して、「とくに販社への支援強化を考えた」という。
販社を支援するシステムとして描いているのが、BI(ビジネスインテリジェンス)とCRM(顧客関係管理)の強化だ。「iDATEN(韋駄天)」やEDIで収集した販社の販売データにもとづいて、どのような需要が潜在しているかを分析。また、定量データだけでなく、営業担当者が販社と接した際に得た、販社の属性や案件情報、イベントなどの情報を効率的に収集するシステムを構築して、そのデータを踏まえて販社に最適な支援を提供する体制を整える。
こうした取り組みの先にあるのは、販社の顧客であるSMB(中堅・中小企業)のIT化だ。とくに、同社の仕入先であるメーカーは、商流の距離が遠いゆえにSMBを大きな集団としてしか捉えられず、マーケティングで試行錯誤を繰り返している状況だ。ダイワボウはメーカーのマーケティングを肩代わりするかたちで、これまでも全国に点在する約1万7000社の販社に対してSMB攻略の支援策を講じてきた。西田本部長によれば、「当社のさまざまな拡販施策を理解して、戦略的に販売してくれるパートナーが5000社に達した。これらのパートナーで当社の売上全体の大部分を占めるので、まずはこの5000社への支援を強化する」という。そして次のステップとして、5000社以外の販社との協業接点をもつ取り組みに力を注ぐ。
ダイワボウと販社をつなぐ「iDATEN(韋駄天)」でも提供する情報を拡充し、「販売パートナーの属性に応じて最適な情報を提供する。とくにプロモーションに関する内容や機能を強化する」(西田本部長)という。
こうしたメーカーの営業やマーケティングを代行するかたちになる販社の支援強化は、ディストリビュータの存在意義を改めて業界に認識させることになるだろう。
[次のページ]