かつてITディストリビュータのビジネスの主流は、ハードウェアを仕入れて販売することにあった。しかし、時代の変遷とともに、旧来のビジネスモデルが収益をもたらさなくなってきた。そのような背景から、各社は新機軸を打ち出し、特色のある施策を投下している。すでに数年前から“仕込み”をしてきた成果が現れ始めているのだ。ディストリビュータの戦略と方向性を検証する。
製品選定や新サービス創造の時代に
強みを生かして事業モデルの変革へ リーマン・ショックの影響で、法人市場におけるIT投資が激減した2009年。製品を卸すディストリビュータにとっては厳しい状況だった。苦境を打開するため、各社とも売れる製品や、新しいサービスの創造など、これまでにはない取り組みを進めた。もちろん、それ以前からディストリビュータは事業拡大を図る策を模索してきたが、リーマン・ショックがビジネスモデルの変革を促す契機となったといえるだろう。自社の強みを発揮しながら、他社との差異化を視野に入れることが重要と判断したのだ。
例えば、大塚商会は「複合提案」という強みを生かしてシステム案件あたりの単価アップを追求。多くのユーザー企業にアプローチすることにも力を注いだ。ソフトバンクBBでは、パソコン用データカード、携帯電話と固定電話を組み合わせたビジネスを本格化した。ダイワボウ情報システムでは、初心に戻って「地域密着型」を改めて模索。丸紅インフォテックは、コンシューマ向け市場で順調な伸びをみせたUMPC(ミニPC)が法人でもニーズが高まると捉え、法人営業部門内にUMPC特化の専門チームを設置した。
各社ともに、メーカーとユーザー企業の間で双方の情報を収集できるポジションを生かしてビジネス拡大を図ろうとしているのだ。
そして、2010年に入り、先行き不透明な市況感は続くものの、徐々に企業のIT投資意欲が戻りつつあるなか、ビジネスモデルの変革が加速している。大塚商会、ソフトバンクBB、ダイワボウ情報システム、丸紅インフォテックという国内4大ディストリビュータの現状および今後の取り組みを検証する。
大塚商会
SI力を最大限に発揮
 |
塩川公男 取締役兼上席常務執行役員 |
大塚商会は、ウェブEDI「BP PLATINUM(BPプラチナ)」を2009年にリニューアルオープンした。新たに、パソコン・サーバーのカスタマイズによるBTO(受注生産)や入札案件で大量発注する際の「特価依頼」などがウェブ上で可能となった。そのほか、ライセンスの検索やウェブ上で作成する見積書機能のなどを強化。今後さらに利用率を高めて、「BPプラチナ」経由の販売量を現在の数%から10%に引き上げる計画だ。
EDI経由の販売を強化しているのは、大塚商会以外の大手ディストリビュータも同じ。だが、同社が他社と一線を画すのは、システムインテグレータ(SIer)としてのノウハウや経験を生かしたクラウドサービスの展開という点にある。塩川公男・取締役兼上席常務執行役員は「他社にはできない領域だ」と強調。競合は、ディストリビュータにとどまらなくなりつつあるという。
今年に入って提供を開始したクラウドサービスが、「たよれーるマネージドネットワークサービス」である。KDDIのネットワークサービス「Wide Area Virtual Switch(WVS)」をネットワーク・プラットフォームとし、自社データセンター(DC)とユーザーのITシステムを閉域網で接続。業務系アプリケーションサービスやASPサービス、BPO(ビジネスプロセス・アウトソーシング)などを手がけている。
販売店は、エンドユーザーとの契約で、「たよれーるマネージドネットワークサービス」のソリューションメニューを自社のクラウドサービスとして提供できる。例えば、サーバーを24時間365日監視し、リモートで障害対応できるプレミアムデスクリモートサービスがそれだ。塩川取締役は、手厚いサポートも含めて「すべて自社でできればいいが、販売店の大半は地方のSIer。アプリケーションはあるもののインフラがないというケースが結構あって、こういうサービスを望んでいる」と説明する。同社は、あくまでも“黒子”に徹したサービスで、後方支援に回る。
SaaS商材の取り扱いでは、ビープラッツと提携し、販売店の拡販支援に取り組む「BP PLATINUM Type-S」を開始。200件の会員獲得を目指している。塩川取締役は、「2010年から大きな変化が起こってくる。販売店は意外と気づいていない」と啓発に努めている。
ストックビジネスという点では、オフィス用品通販事業「たのめーる」も同社にとっての強みとなっている。文具、オフィスサプライ、OA機器などの間接材(MRO)調達は、多品種・少量・多頻度なだけに、「ユーザーの囲い込みが可能だ」(塩川取締役)。販売店は、大塚商会の社名と「たのめーる」の名称を使用せず、自社のMRO調達ビジネスとして展開できる。
販売店として享受できるメリットは大きい。単にサーバーやパソコンなどの“箱売り”で価格競争に陥っていた従来のビジネスモデルに、サポートサービスなどを加えた付加価値提案が可能となる。依然として、ハードウェア・ソフトウェアビジネスの比重が大きいが、「どこで買っても同じ」(塩川取締役)という現状から脱却を図る過渡期を迎えているといえそうだ。
ソフトバンクBB
唯一無二の“ハイブリッド”モデル提供
 |
北澤英之 コマース&サービス統括CP 事業推進本部MD戦略室室長 |
大手ディストリビュータ各社は、それぞれ独自のウェブEDIを手がけているが、利用率は低いのが実際のところだ。「IT-EXchange」を提供するソフトバンクBBの北澤英之・コマース&サービス統括CP事業推進本部MD戦略室室長は、「受注入力の工数をいかに効率化させるかが重要で、ウェブ経由の注文数を増やすことには限界がある」と話す。
今後は、矢継ぎ早に新機能を追加していく計画で、SaaS商材を販売する際に月額対応できる仕組みの構築やエンドユーザー情報を活用したアップセルなどを検討中。近いうちに、メーカーから仕入れるキャンペーン情報をエンドユーザーにダイレクトに届けられるツールをリリースする。
同社で飛び交うメールの全体量のうち、営業から仕入担当間でやり取りされるメールが7割に達する。作業効率化のために社内SNSの構築に加え、販売店へのツール提供などに取り組む構想があるという。
単純に機能面の強化や登録商品・メーカー数などで他社と差異化を図るのは難しくなっている。そこで、従来の“箱売り”にとどまらない事業展開を強化。前述のように、大塚商会はSI力を生かしたクラウドサービスを販売店に提供している。販売店は自社サービスとして収益性の高いストックビジネスの展開が可能だ。一方で、ソフトバンクBBは、IT流通と通信、サービスを併せた“ハイブリッド”なソリューションで優位性を打ち出してきた。とはいえ、販売店の間では“ハイブリッド”モデルの採用が思うように進んでいないという。販売店での営業成績の評価が従来型のままなので、月額課金のシステムが受け入れられにくいのだ。
ソフトバンクBBは、新たな販売店網の構築にも目を向け始めた。例えば携帯電話の販売店がそれだ。携帯電話の法人契約を取ってくる販売店にiPadのケースやイヤフォンなどのアクセサリ商材を合わせて販売してもらう。業務アプリケーションやITソリューションを実装して提供することなども考えられるという。そのほか、医療向けビジネスを手がけている業種特化型の販売店も新たに加わりはじめている。
同社にとって、米アップルの数少ない国内ディストリビュータであることが有利に働いている。北澤・MD戦略室長は、Authorized Japan Apple Reseller(AAR)契約を結んだ販売店に対し、「アップルの(ハイブリッド)ソリューションビジネスを提案できるのは当社だけ」と胸を張る。
米アップル製品のなかでもiPadに寄せる期待は格段に大きい。IT+通信で付加価値提案を打ち出していく。09年に、ソフトバンクグループは、クラウドサービス「ホワイトクラウド」を発表して以来、クラウドサービスのラインアップを強化してきた。DaaS(デスクトップのサービス化)提供に着手し、ソフトバンクテレコムがiPadを販売するスキームを描く。
同社イチ押しのiPadのほか、テレビ会議システムやデジタルサイネージにも興味を示す。現状、デジタルサイネージは取り扱っていないが、関心は高い。
同社は、ディストリビュータという枠組みをはみ出そうとしている。通信事業を手がけ、グループを挙げてクラウドサービスの拡充に取り組んできた。「今年は攻めの年」(北澤・MD戦略室長)。加速度的に成長戦略を打ち出している。
[次のページ]