<参入から1年~>
初速はバラバラ 商慣習・文化への適応がカギ
伊藤忠商事は、欧米や日本で売れているサービスを日本・アジアの企業に提供するクラウド配信サービス「CLOUD GATEWAY」を提供している。
2011年に入ってから本格的に販売に乗り出したコラボレーションツールの「huddle」は、2006年設立の英国発のITベンチャーであるNinian Solutionsが開発するクラウドサービスだ。ホワイトボード(掲示板)、タスク管理、ディスカッション機能、ウェブ会議、ファイル共有などの機能を実装している。世界180か国、8万5000社への納入実績をもっている。
利用料金は、ワークスペースと呼ばれるプロジェクト単位、ユーザー単位の課金体系を採用している。価格は、プロフェッショナル版が年間契約で24万円。ユーザーは無制限で、25GBの提供容量のうち、25個までのワークスペースを利用できる。組織横断型のプロジェクトであっても、だれが利用料金を支払うのかという問題が生じない。
販売実績は20~30社。伊藤忠グループの導入分を差し引くと、さらに少ない数字だ。これをみても「huddle」の認知度は高いとはいえない。販売を担う伊藤忠エレクトロニクスは、リスティング広告などを通じたマーケティング活動を強化する方針を掲げる。
このほか、経費・購買情報管理サービスの「Spendvision.com」を揃える。開発元のSpendvision Holdingsは、英国に本社を置き、設立は1999年。グローバルで25万社の導入実績がある。伊藤忠エレは、2011年から取り扱っている。
「Spendvision」は、ワークフローによる社内承認機能を保有した経費精算やコーポレートカードの利用明細情報を活用した購買情報管理が特徴だ。価格は、初期設定費用などに加えてランニング費用を支払う仕組み。カードモジュールや現金モジュール、事前承認モジュールなどを用意しており、アクティブユーザーに応じた従量課金制となっている。
「Spendvision」は、手組みのシステムを駆使して非効率な作業をこなしている日本企業にとって、導入の余地は大きい。だが、実際には売れていない。導入は外資系企業を中心に数社にとどまる。日本の場合、コーポレートカードを従業員に持たせるという文化が定着しておらず、経費精算の透明化への現場の抵抗があるというのが、伊藤忠エレの見立てだ。
現在進めているのが、「電話の明細やあらゆる請求書を処理できるプラットフォームとしての提案」(澁川博澄・営業本部コミュニケーションプロデュース部マネージャー)である。勝本憲治・営業本部コミュニケーションプロデュース部ダイレクトマーケティンググループグループ長代行は、「例えば、支払い請求を代行する事業者向けにモジュールを提供することが考えられる」という。
こうした方向転換が功を奏するのか。さまざまな角度から事業を模索しているのだ。
経費精算だけではない Spendvisionと同様に、経費精算管理ソリューションを手がけるコンカーの動きが興味深い。米国に本社を置くコンカーは、1993年の設立。グルーバルで150か国1万5000社の導入実績がある。
日本進出は2011年2月だが、すでに外資系企業を中心に110社以上が導入している。2012年2月に入り、日本向けローカライズ版の「Concur Expense」を発表した。日本版の独自機能として、IC カードと時刻表・運賃検索サービス「乗換案内」とのデータ連動機能を備えた。日本語での導入コンサルティングや運用サポートも提供している。当面は海外と同様に直接販売の路線を敷く。ただし、中長期的にはチャネルビジネスを構築する構想をもっている。
三村真宗社長は、「コンカーは、経費精算管理のITベンダーだと思われているが、実際は異なる」と説明する。今後、米国で先行して提供している請求管理の「Concur Invoice」や仕訳データと会計システムを連携させる支払管理の「Concur Pay」などを年内に提供し始めるという。
目標は5年で500社の獲得。日本向けにローカライズした経費精算管理ソリューションを中心に展開しても、日本の商慣習の壁に阻まれる可能性がある。ERPベンダーやSIerとの提携をはじめ、他モジュールとの組み合わせなどが求められる。
・記者の眼
セールスフォースの後続として、日本で事業を大きく伸ばしている外資系SaaSベンダーは意外に少ない。話題に上るのは、PaaS・IaaSを提供するプラットフォームベンダーばかりだ。
SaaSの場合、日本の商慣習・文化が事業展開を阻む壁となることがある。だが、セールスフォースの徹底したローカライズ戦略はその壁を乗り越えた。ローカライズしながらも、独自の価値を提案することが市場攻略のポイントだ。