近年、ベンダーの新規参入が相次ぎ、盛り上がりをみせる国内SaaS市場。調査会社のミック経済研究所によると、2013年度まで2ケタ成長が続く見込みだ。すでに、顧客管理やウェブ会議システムは、SaaS型市場がパッケージ型市場を上回り、著しい伸びをみせている。もっとも、ベンダーの多くは収益モデルの構築に頭を悩ましており、試行錯誤を繰り返しているのが実情だ。ベンダーには、明確な事業プランの策定が求められている。(文/信澤健太)
figure 1 「市場規模」を読む
右肩上がりの成長、とくに情報系SaaSが好調
調査会社のミック経済研究所によると、2010年度の国内IT市場規模は前年度比2.1%減の16兆8848億5800万円だった。2011年度も同市場は微減傾向が続き、16兆6429億3500万円となる見込みで、2012年度以降はプラスに転じると予測する。
一方で、2010年度の国内SaaS市場規模は前年度比11.9%増の1605億8800万円だった。その国内SaaS市場のうち、同年度の情報系SaaS市場規模が512億8200万円、業務系SaaS(汎用型業務系SaaS・業種特化型業務系SaaS)の市場規模が1093億600万円だった。成長著しいのは情報系SaaS市場で、2010年度から14年度までの年間平均成長率(CAGR)を20%弱と予測している。ミック経済研究所の内山祭・調査第二部研究員補は、「ERP(統合基幹業務システム)などの汎用型業務系SaaS市場は今後大きな伸びが期待できる。金融や製造業向けの業種特化型業務系SaaSは、市場がある程度成熟しており、数%の伸びとなるだろう」と分析する。
国内SaaS市場規模の推移
figure 2 「有望分野」を読む
CRMやウェブ会議のほか、タレントマネジメントに勢い
情報系SaaSのなかでも、顧客管理(CRM)やウェブ会議システムの市場規模が近年大きく伸びている。調査会社のアイ・ティ・アールによると、2009年度(3月期ベース)のSaaS型CRM市場規模は前年度比15%増の97億2000万円となり、初めてパッケージ型市場を上回った。CRMベンダーであるシナジーマーケティングの谷井等社長CEOは、「SaaSの単価を考慮すれば、SaaS型CRMのユーザー数は、はるか以前からパッケージを上回っていたのではないか」とみる。SaaS型ウェブ会議システム市場規模は、2010年度、前年度比38.7%増の42億円に急成長した。市場全体のSaaS型のシェアは66.9%で、SaaSの普及が進んでいる。
業務系SaaSで注目株は、人的資本を管理するタレントマネジメントシステムだ。サクセスファクターズジャパンやシルクロードテクノロジーなど、外資系で新興のSaaS型アプリケーションベンダーが主なプレーヤーとして急成長している。
業務系SaaSにおけるセグメント別市場規模の成長予測
figure 3 「販売動向」を読む
自社に最適な販売モデルを模索する
汎用型業務系SaaS市場では、パッケージベンダーとして確固たる立場を築きながらもSaaS提供に乗り出したピー・シー・エー(PCA)や、創業当初からSaaS型アプリケーションを提供するネットスイート、ビジネスプロセスアウトソーシングサービスを併せて提供するラクラスなど、ベンダーによって立ち位置が異なる。PCAは2009年6月に黒字化を成し遂げているが、これまで試行錯誤の連続だった。対応機器を購入しサーバー利用料を支払う「買取プラン」や月額利用料だけで利用できる「イニシャル“0”プラン」、数か月単位の利用期間を選択できる「プリペイドプラン」を用意し、既存の販売店に配慮する姿勢をみせている。しがらみのないネットスイートは、富士通・富士通マーケティング(FJM)やアクセンチュアなどとの大型提携を推し進めている。このほか、タレントマネジメントシステムを開発・販売する外資系ベンダーは、人事管理システムの納入実績を豊富にもつ国内ベンダーとの協業を模索している。
業種特化型業務系SaaS市場の動向について、前出の内山研究員補は、「FJMや日立システムズは、これまでのノウハウを活かしてパッケージをSaaS化し、中堅・中小企業の開拓を狙う動きをみせている」と話す。
立ち位置が異なるベンダー各社
figure 4 「課題」を読む
明確な事業プランが必要
国内外の数多くのベンダーがSaaSビジネスに参入している。しかし、時流に乗り遅れまいとして、明確な事業プランをもたないまま、形だけでもSaaSアプリを揃えたというケースが少なくない。日本ユニシスは、プラットフォームをもたない中小ベンダーに対し、SaaS事業への参入を支援する事業を展開している。具体的には、現行製品の確認に始まり、参入機会の評価、事業立上げのシナリオと収支計画の策定のほか、ベンダー同士の協業モデルや販売パートナーとのWin-Win関係の検討を中小ベンダ―とともに進めるものとなっている。ミック経済研究所の平山浩二・調査第二部部長・主任研究員は、「情報系SaaSに限っていえば、SaaSビジネス単体で年間30億円程度の売り上げがなければ、大手外資系ベンダーに対抗することは難しい」と釘を刺す。
前出の内山研究員補は、日立システムズが展開する中小企業向けのウェブ上のオープンマーケットプレース「MINONARUKI」に期待する。「営業コストをかけずにユーザーが自力でSaaSを導入する風土ができれば、大きく成長できる可能性がある。成功の可否は来年以降にみえてくるだろう」。マーケットプレースという点では、2010年、運営主体が経済産業省から富士通に移管された「J-SaaS」の試みもある。
SaaS事業化で求められるプラン