国内IT投資の回復基調が強まるなか、主要SIerは次の成長を担うサービスビジネスへのシフトに力を入れる。従来の受託ソフト開発型とは本質的に異なるビジネスモデルで、これをテコに守りから攻めへと果敢に挑戦していく。(取材・文/安藤章司、データ作成/信澤健太)
ビジネスモデルの刷新が相次ぐ
色褪せるかつてのSIの主力事業
主要SIerの業績回復が鮮明になってきた。オンプレミス(客先設置)型からデータセンター(DC)やクラウドを活用したアウトソーシング型へとシステムをマイグレーションする需要や、リーマン・ショック以来、先送りにしてきたIT基盤の整備、アジア成長市場での成長に向けた投資拡大などが背景にある。だが、SIの代名詞的存在だった受託ソフト開発のボリュームはさらなる縮小が避けられず、成長を持続するためにはビジネスモデルの大幅な刷新が欠かせない。
市場の成熟度合い色濃く  |
野村総合研究所(NRI) 嶋本正社長 |
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ITホールディングス 岡本晋社長 |
社長に就いて2年目で増収増益を果たし、なんとか格好はついた――。胸をなで下ろすのは、野村総合研究所(NRI)の嶋本正社長だ。NRIは2012年3月期の連結売上高、営業利益ともに実に4期ぶりの増収増益となり、今期(13年3月期)売上高は前年度比5.8%増、営業利益は同4.3%増と急ピッチに業績を回復する計画を立てている。
ITホールディングス(ITHD)も、ここ数年のダウントレンドから抜け出し、12年3月期は連結売上高、営業利益ともに計画値を上回る増収増益を達成。今期(13年3月期)は「本格的なV字回復の年度と位置づけ、着実に売り上げを伸ばす“トップライン重視” を基本とする」(ITHDの岡本晋社長)と、意気込む。伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)の12年3月期は、増収増益に転じるとともに、今期連結売上高は4期ぶりとなる「3000億円超えになる見通し」(奥田陽一社長)として、“ 3000億円台プレーヤー”への復帰の見通しが立ったと話す。
情報サービス産業協会(JISA)が集計している経済産業省の特定サービス産業動態統計によると、2011年9月までは長らく前年同月比でマイナス基調が続いてきたが、11年10月以降はプラス基調に転じつつあることがみて取れる。だが、情報サービス業全体が、このまま緩やかな成長を続けていけるのかといえば、実際のところは心許ない。IT調査会社のIDCJapanが6月4日に発表した予測によれば、国内IT市場の2011年~16年の年平均成長率は0.4%。これは国内市場の成熟度合いが色濃く現れているもので、「マイナス成長にならないだけいい」と、あるSIer関係者は実情を語る。
受託ソフトという“爆弾” 中期的にみて情報サービス市場が伸び悩む最大の要因は、受託ソフト開発の規模縮小である。信用調査会社の帝国データバンクは「システム・ソフトウェア開発業者の倒産動向調査」のレポートのなかで、2012年1~4月までのソフト開発業者の倒産件数が88件と、過去最悪となった2009年の206件を上回る勢いで推移していると警鐘を鳴らす。負債規模別では5億円未満が93.4%を占め、受託ソフト開発を生業とする中小のソフトハウスが苦戦している様子がうかがい知れる。
データセンター(DC)やクラウドを軸とするサービス事業は、堅調な拡大が期待されるものの、一方でSIの代名詞的存在だった受託ソフト開発のボリュームのさらなる縮小が危惧される。結果として、いくらサービスが伸びても、これを相殺するだけの勢いで受託ソフト開発が減少する可能性があるという、情報サービス市場の構造的な問題が横たわっている。いわば、情報サービス産業は、受託ソフト開発という大きな“爆弾”を抱えた状態でビジネスを進めているともいえる。仮に予想を上回る速さと大きさで“爆弾”が爆ぜたとすれば、情報サービス産業への甚大なマイナス影響は避けられない。
見方を変えれば、受託ソフト開発の衰退をカバーしてなお余りある勢いで、クラウド型サービス事業やアジア成長市場での新規事業を伸ばすことができれば、大きく成長するチャンスでもある。企業経営や社会生活でのITの必要性は、過去とは比較にならないほど重要性が増していることから、クラウドやグローバル対応といった新規事業は、少なくとも旧態依然とした受託ソフト開発以上の潜在力があると期待されている。
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