野村総合研究所(NRI)は、業界標準ビジネスプラットフォーム戦略の展開を加速する。同社が開発した業種・業務別の共同利用型システムを広く普及させることで、1ユーザーあたりのITコストを削減。その分を顧客が差異化したい成長分野へ投資してもらい、個別のシステム開発ビジネスも伸ばす。共同利用型のビジネスプラットフォームを軸とする「サービス方式のビジネスを増やすことは、当社の成長とほぼイコールだ」(嶋本正社長)と位置づける。
サービス化と成長は同義
――2012年は、野村證券が新しく利用を開始する予定の証券会社向けバックオフィスシステム「STAR-IV」に始まって「STAR-IV」に終わるという印象を受けます。
嶋本 「STAR-IV」は当社オリジナルの総合証券バックオフィスシステムサービスで、野村證券は2013年1月から利用を始める予定です。すでに大規模な開発作業が進んでおり、約1年半の開発期間中に延べおよそ3万人の開発人員を投入。ピーク時は月間2000人を超えます。ご指摘の通り、当社にとって一大プロジェクトであり、この大型受注の追い風もあって今年度(2012年3月期)の業績は上方修正の見込みです。ただ、「STAR-IV」が下支えにはなりましたが、やはり東日本大震災や原発事故のマイナス要素が情報サービス業に及ぼした影響が限定的にとどまり、意外に傷が浅かったことが大きい。ITシステムは、すでに社会にとって欠かせないものであるという需要の根強さを感じました。
――嶋本社長は早くから「所有から利用へ」を提唱していますが、「STAR-IV」はまさに所有から利用へを実践するものになりそうです。
嶋本 ITシステムの「所有から利用へ」の流れはもう止められません。これまでのように個別の顧客ごとにソフトウェアを受託開発する方式に固執すると、仕事は減ります。ソフトを利用するサービス方式を増やすことと、会社の成長とはほぼイコールです。証券業界の基幹業務システムを例にとれば、今回、「STAR-IV」のユーザーに野村證券が入ることで、証券業界におけるシェアは過半数を超えます。つまり、少なくとも「STAR-IV」でカバーしている基幹業務については半分以上がすでにサービス化へ移行することになり、この範囲における受託ソフト開発は確実にサービス事業に吸収されます。
――野村證券絡みのプロジェクトが大きすぎて、来年は反動減になりませんか。
嶋本 野村證券向けの受託ソフト開発のうち、「STAR-IV」へ移行する部分についてはなくなることが予想されます。ユーザーにとっては受託ソフト開発部分のコストを削減でき、その分をより戦略的なIT投資へ回せますので、顧客のビジネスの成功を考えると、ほかに選択肢はありません。当社は共有できる部分を“業界標準ビジネスプラットフォーム”としてサービス化し、戦略的部分については個別に開発する。そうすることで顧客の真のビジネスパートナーのポジションを確保する考えです。
もともと、当社の連結売上高のうちデータセンター(DC)を活用するなどした運用サービスの構成比が50%ほどあります。この部分が安定収益を支える構図であり、サービス化はこの収益構造に反するものではない。ただ、当社はおよそ6500人の社員規模で、受託ソフト開発の減少をサービス事業の伸びでカバーできない事態を考えると、少し怖い思いがするのも事実です。
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