大手SIerは2011年度、強気の業績見通しを相次いで打ち出している。地震、原発事故、電力供給不足のトリプルパンチに見舞われるなかでも、多くのユーザー企業は、勇気をふるってIT投資計画を着々と前へ進めているからだ。大手SIerトップの動きを追った。
試練に直面する経営トップ
自信を裏づける要素とは
情報サービス業にとって、2011年度は試練の年となる。市場は回復基調にあるとはいえ、情報サービス業の売上高は依然として前年同期を下回る傾向が続いており、従来の受託ソフト開発型のビジネスモデルはますます疲労の度合いを深める。しかし、こうしたなかでも有力SIerのトップは強気の姿勢を崩さない。この特集では、経営トップの自信の裏に何があるのかを探る。
国内の伸びは限定的か  |
NTTデータ 山下徹社長 |
直近の情報サービス業の売上高をみると、2011年3月は前年同月比7.2%減と22か月連続の減少となった。情報サービス産業協会(JISA)集計による経済産業省の特定サービス産業動態統計(確報)ベースのものだが、2008年9月のリーマン・ショック以来、マイナス成長の傾向が続いている。
こうした状況にあって、2011年度は回復基調に向かうものと期待されていたが、新年度のスタート直前に東北地方太平洋沖地震が発生。直後に福島第一原子力発電所が重大な事故を引き起こし、首都圏は大幅な電力供給不足に陥った。原発事故がらみの電力供給量の低下は、今や中部地区や九州地区にも飛び火する始末で、リーマン・ショックから3年目にして、情報サービス業は再び試練の真っ只中に放り出されることになった。調査会社の矢野経済研究所は、2011年度の国内IT市場規模は前年度比0.4%減と予測する。
電力供給不足は、経済全体に大きなダメージを与える。三菱総合研究所(MRI)の試算によれば、全国の電力使用量が1%減少すれば、産業全体の生産額は0.9%減少するという。電力供給不足は製造業への影響が大きく、日本の主要輸出産業である電子機器や機械・設備、輸送機械などに大きなインパクトを及ぼす。例えば、農林水産業や商業は0.5%程度の減少だが、電子機器や機械・設備、輸送機器は2.1%程度のマイナスになる見込みだ。
この試算を担当したMRIの武田洋子主任研究員は、「全国の電力使用量の減少幅は、7~9月期の夏期だけで数%の減少幅にとどまる」とし、年間にならせば減少幅はさらに小さくなるとみる。しかし、電力事情の改善が遅れるなら、経済への影響はボディブローのように響いてくる恐れもあり、予断を許さない。
海外での成長に手応え  |
JFEシステムズ 菊川裕幸社長 |
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野村総合研究所(NRI) 嶋本正社長 |
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JBCCホールディングス 山田隆司社長 |
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富士ソフト 白石晴久社長 |
SI業界最大手のNTTデータは、中期経営目標の見直しを検討する。本来は2013年3月期に連結売上高1兆5000億円、うち海外売上高を3000億円としていたが、リーマン・ショック以降の国内情報サービス市場に縮小傾向が続いたことから、国内で売り上げる予定だった1兆2000億円の達成は、ほぼ困難になりつつある。
今年度(2012年3月期)の国内売上高は約600億円減少する見込みで、この内訳はNTTデータ本体が約400億円、グループ会社が約200億円の見通し。大型公共投資が端境期にあることや、道路や住宅、港湾といった震災復興関連の優先度が高まっていること。さらには震災によるサプライチェーン寸断や消費者心理の冷え込み、国内情報サービス市場そのものの成長力の弱さなどが重なった。
厳しい国内市場の状況を踏まえ、今年秋をめどに新しい中期経営目標を発表する予定のNTTデータの山下徹社長は、「世界でトップ5に入るという中期目標は揺らいでいない」と、グローバルの枠組みのなかで成長を続ける考えをより明確にする。同社は2010年末までにグループ化した米SIerのKeane(キーン)に続き、今年4月にはイタリアのValue Team(バリューチーム)のグループ化を発表。今年度の海外売上高2000億円については「ほぼめどがついており、13年3月期には既存海外ビジネスの成長のみで2400億~2500億円はいける」(山下社長)との手応えを感じている。今年度中に準大手規模の海外SIerが新たに1~2社加われば、目標達成にめどがつく計算だ。
成長の可能性は十分 国内市場全体でみれば停滞感が否めないものの、個々の会社単位では力強く伸びようとしているSIerが意外に多い。JFEシステムズの今年度(2012年3月期)は、エクサからの一部事業継承の効果もあり、連結売上高は前年度比19.9%増、営業利益は65.6%増になる見込みだ。JFEシステムズの菊川裕幸社長は、「既存事業もしっかり伸ばしたうえで増収増益を達成し、かつ2015年3月期には年商400億円を達成したい」と、昨年度(11年3月期)に比べて連結売上高を130億円近く伸ばす計画を立てる。「第1四半期も終わっていないのに、なぜ悲観する必要があるのか」(菊川社長)と、強気の姿勢を崩していない。
野村総合研究所(NRI)は、同社の主要顧客が多く属する証券業界を直撃したリーマン・ショック以降、不調が続く。優良案件を多く受注しているものの、昨年度まで3期連続の減収に甘んじた。今期(12年3月期)連結売上高は前年度比1.1%増の3300億円の見込みと微増ではあるが、「直近の受注状況をみると、中期的には安定成長が見込める」(NRIの嶋本正社長)と、売上高ベースで年平均7%成長という目標を堅持する方針だ。
強気の見通しは、JBCCホールディングス(JBCC-HD)も同じだ。リーマン・ショック以降、減収傾向が続いていた同社だが、2011年3月期は増収増益に転じ、今期(12年3月期)連結売上高は前年度比7.0%増の880億円、営業利益は27.8%増の16億円を見込む。JBCC-HDの山田隆司社長は、「東日本大震災以前から続く経済の回復基調のトレンドは大きく変わらない」と、今後の伸びは十分期待できるとみている。2014年3月期には、悲願である年商1000億円を目指す。
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