弥生 岡本社長に直撃
動き出したクラウド、勝算は?

弥生
岡本浩一郎社長 弥生は、店舗経営者向けのクラウドサービス「やよいの店舗経営 オンライン」を今年9月3日に提供を開始した。サービスコンセプトは、日報形式で入力するだけで自動的に仕訳する“半自計化”だ。岡本浩一郎社長に、販売戦略をたずねた。
──新サービスは、どのような契約形態なのか。 岡本 お客様が当社とサービス契約するかたちとなる。スタート地点では、課金の仕組みの整備が追いついておらず、お客様が当社に直接代金を支払うことになる。できるだけ早いタイミングで、会計事務所が顧問契約の料金に含めて提供できるようにしたい。
会計事務所へのキックバックは、あるにはある。だが、はっきり言って高くはない。会計事務所の本業はあくまでも顧問先に対するサービスの提供で、収益源は顧問料だからだ。
──月額1470円(税込)という価格で、利益は出るのか。 岡本 当然ながら、最初は大赤字。これまで、4年くらいかけて試行錯誤しながら取り組んできた開発工数を踏まえれば、当面は赤字が続く。ただ、ランニングコストは「Windows Azure」の利用で済むので、それほど高くはならない。料金体系は一般に公開されているし、確認してもらえればわかることだ。
課金に関してクレジットカード会社への手数料や新たに立ち上げた運用監視体制なども考慮する必要があるが、それほどの負担ではない。
──黒字化の時期は、いつ頃を見込んでいるか。 岡本 2013年度(9月期)中にはめどをつけたい。投資をすべて回収し終わるのはもっと先になるが、ランニングベースではトントンにもっていきたい。
──会計事務所からの感触は? 岡本 ほぼ想定通りだ。今年8月、PAP(弥生の会計事務所向けパートナープログラム)カンファレンスを開催して、200人くらいの会計事務所の先生方を招いた。このうち150件弱のアンケートの回答があり、「ぜひ顧問先に推奨したい」というのが52%、「まだよくわからない」が38%、「導入させたくない」が3%、残り7%が回答なしだった。当社としては、十分の状況だという感触を得ている。「やよいの店舗経営 オンライン」は、じっくりやっていこうと思っているので、まずまずの結果だ。
会計事務所によって、得意としている業種は異なる。「やよいの店舗経営 オンライン」が対象としている小売りや理美容、飲食などの業種に強い会計事務所には、賛同していただける先生方が非常に多い。一方で、そういう業種の顧問先があまりない会計事務所には、ピンとこないようだ。ちょっと期待していたのとは違うということでいわれたのが、「やっぱり弥生会計のクラウドがほしいんだよね」というものだった。
──会計事務所のIT活用に対する意識は変わってきているか。 岡本 すでにITを積極的に活用している若手の先生方は、アレルギー反応がないので慎重ではあるが、メリットがあるならクラウドをやってみようと思っている。全体でみれば、メールを使っていない先生もおられる。でも、メールを使っていない先生に顧問先は会計処理を頼みたいかどうか。当社は腹を決めて、将来を見据えている先生方と一緒に歩んでいきたいと思っている。
記者の眼 業務ソフトベンダーのうち、いち早くクラウドサービスの提供に乗り出したのはPCAだ。会計事務所・社会保険労務士事務所向けには通常より格安で運用できる「PCA for SaaS BPOプラン」を用意し、実績を伸ばしている。
新興のA-SaaSは、会計事務所クラウドとして、財務、税務、申告などの会計事務所のすべての業務を網羅した本格的なクラウドサービスを提供する。顧問先は無料でシステムを利用できる。
一部の会計事務所主導による推奨で広がりつつあるクラウドサービスの動向をどうみるべきか。既存のビジネスモデルでの成功体験があるITベンダーにとっては苦しい戦いになる。一方で、新興のクラウドベンダーやビジネスモデルを転換しているITベンダーにとっては追い風となる。既存の市場がすぐに侵食され、クラウドに置き換わることはないだろう。しかし、既存のプレーヤーが方向転回しなければ、業界の勢力図に影響を及ぼすことは必至だ。
会計事務所は、中小企業経営者のアドバイザーである。クラウドサービスを理解してもらううえでの重要なプレーヤーになり得る。