グローバル化や少子化・高齢化。経済の低迷。日本企業は、市場を取り巻く環境の変化に直面し、ビジネスモデルの見直しを迫られている。時代の要請に応え、企業経営を改善する際に求められるのは、勘や経験、度胸といった感覚的なものだけではない。あらゆる情報を分析し、マーケティングや製品開発に活用する「データ解析」が、新しい経営を展開するうえでの重要な手がかりとなる。(取材・文/ゼンフ ミシャ)
新「KKD」は勘、経験、データ解析
中堅・中小企業をはじめ、多くの日本の経営者が判断の基準にしてきた「勘」「経験」「度胸」──略して「KKD」。しかし、スマートデバイスやソーシャルメディアが普及し、情報が溢れている現在、「D」は「度胸」ではなく、「データ解析」に置き換える必要がある。日本でも、役員としてマーケティングを率いるCMO(Chief Marketing Officer)を配置する企業が増えており、経営層の判断をサポートするデータ解析ツールの需要が高まりつつある。
売上推移や顧客データ、インターネットで発信される自社製品・サービスの評価や風評。ITを駆使して膨大な量の情報を分析し、定量データを把握したうえで、経営判断を下す。これが、データ解析のコンセプトである。企業は、グローバル化に伴う競争の激化や不景気に対処するためのコスト削減の必要性を認識して、データ解析がそうした課題に解決策を与えてくれる可能性に関心を寄せてきている。解析ツールの開発や構築を手がけるITベンダーにとっては、提案のチャンスがやってきているのだ。
データ解析をビジネスとして、ファーストフード事業者やオンライン広告代理店を客先とするブレインパッドは、数社のITベンダーと提携し、共同のサービス展開に取り組んでいる。
同社は11月に、ストレージ事業のEMCジャパンと販売パートナー契約を締結した。EMCジャパンのデータウェアハウス(DWH)製品やHadoopプラットフォームに自社の解析ノウハウを組み合わせ、データ活用ソリューションを提供しようとしている。さらに、ビジネスインテリジェンス(BI)ツールを展開するウイングアークとも提携している。ブレインパッドのアナリストとウイングアークのBIコンサルタントがタッグを組んで、ユーザー企業の経営現場での情報活用をサポートする仕組みだ。
データ解析は、決して一時的なブームではない。調査会社IDC Japanは、今年10月、大量情報を分析するための機器やサービスを「ビッグデータ」としてまとめた国内市場の推移を初めて公表した(図1)。それによると、2011年の市場規模は142億5000万円で、2016年には765億円に拡大することが予測されている。ビッグデータ市場といえば、大容量ストレージといったハードウェアのイメージが強いが、IDC Japanの調査が裏づけるように、大半を占めるのは、ソフトウェアとサービスだ。
IDC Japanの調査によれば、データ解析(ビッグデータ)の認知度は、IT部門で56.8%、業務部門では31.1%。広く知られているとはいえないものの、認知度は着実に高まっている。以下、ITベンダーが市場に投入しているユニークな解析ツールとサービスを紹介する。
【「データ解析」の理解を助ける用語「データマイニング」とは】
大量のデータから法則やトレンドを見つける手法を「データマイニング」という。有名な事例として「紙おむつとビール」の話がある。1990年代、米国の大手スーパーマーケット事業者がデータマイニングによって各店舗での販売データを解析し、その結果、紙おむつとビールを一緒に購入する人が多いことがわかった。そして、紙おむつとビールを同じコーナーに陳列して販売したところ、売り上げが大きく伸びた、という現象が伝えられている。
データマイニングは、企業のデータベースに蓄積された「構造化データ」だけでなく、ソーシャルメディアに投稿されるコメントや動画をはじめ、データベースに収まらない「非構造化データ」を分析して、トレンドをより正確に可視化する。そのため、ビッグデータ時代にぴったりの情報解析手法として注目を集めており、日本でも活用事例が増えつつある。
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