大量の情報を収集・分析し、ユーザー企業の経営改善に活用する「ビッグデータ」関連のビジネス化が進んでいる。日立製作所や富士通、NECなど大手ITベンダーは、ビッグデータ関連事業の体系化に取り組み始めた。ストレージやデータ分析ソフトなど、ビッグデータを切り口とする商材を集めて、専任の組織づくりを推進中だ。一方、ユーザー企業に密着する中堅・中小のシステムインテグレータ(SIer)は、特定の業種に精通するノウハウを大手ITベンダーに提供するかたちで、ビッグデータがらみの商機をつかむことができそうだ。(ゼンフ ミシャ)
今年2月に、本格的にビッグデータの関連事業に取り組むことを明らかにしたNECは、「今後3年で、ビッグデータに関わる売り上げを、現在の400億円から1500億円に伸ばしたい」(山元正人・執行役員常務)と、事業の急速な拡大に意欲を示している。
昨年11月、日立製作所がクラウド環境と連動して、コンサルティングからシステム運用までを提供する「ビッグデータ利活用サービス」を発売したのを皮切りに、大手ITベンダーは相次いでビッグデータ関連のサービス型商材を投入。今年1月に富士通がクラウド型の「データ活用基盤サービス」を発売し、2月に日本ヒューレット・パッカード(日本HP)がビッグデータ関連のコンサルティングサービスの提供を開始した。これら大手ITベンダーのビッグデータ関連の主な取り組みをまとめたのが下図である。
ビッグデータ市場のパイオニア的存在は、2010年から、SNS情報など非構造化データの分析・活用によってユーザー企業の経営改善を図るビジネスアナリティクス(BA)に注力している米IBMである。新社長のバージニア・M・ロメッティ氏は、2月末に開いたパートナー向けイベントで、「BA事業をビジネスの新基軸にする」として、これまで以上にビッグデータの事業化に力を注ぐ方針を示した。
ビッグデータのビジネスは、単にストレージやデータ分析ソフトといったIT製品を提供するのではなく、ITの枠を超えてユーザー企業の業務内容を細かく把握し、情報の活用によって売り上げの拡大を支援することを基本としている。
調査会社IDC Japanでソフトウェア&セキュリティを担当する赤城知子グループマネージャーは、「IBMは、ビッグデータの事業展開に必要なエキスパートの人材を集めており、ユーザー企業の悩みどころを抽出して、解決策を提案する営業活動を展開している」とみる。国内に目を転じてみると、富士通やNECなどは、「ビッグデータの技術ノウハウについては、間違いなくもっている」という。だが、「特定の業種が抱える経営課題に幅広く対応できる人材を育てることが大事。IT製品の提案にとどまる従来型の営業方式を根本的に変えなければ、いくらすぐれた商材が揃っていても、ビッグデータの事業はうまくいかない」と警鐘を鳴らす。
日本のITベンダーは、NECがビッグデータの提案に携わる専門スタッフを3年間で50人から200人に増やすことに取り組むなど、ここへきて、マンパワーを強化する必要性を意識し始めている。しかしながら、数年前から体系的に多業種の人材を採用してきたIBMと比べて、取り組みが遅れているといわざるを得ない。そんななかで、今後、日本のITベンダーのビッグデータの事業化にあたって重要な役割を果たすのは、ユーザー企業に密着して特定の業種に精通する中堅・中小のSIerだ。SIerは、自社単独でビッグデータ事業を立ち上げることはできなくても、大手のITベンダーにユーザー企業の業務内容について情報を提供したり、大手ベンダーと組んで業種特化型ソリューションを展開するかたちで、ビッグデータがらみの商機をつかむことはできるはずだ。
大手のITベンダーも中堅・中小のSIerも、ビッグデータの事業化を成功に導くために、とにかく“我慢する”ことが求められる。IDC Japanの赤城グループマネージャーは、「ビッグデータの事業化は、5年のスパンでみる必要がある。当面は赤字が続いても継続的に投資して取り組めば、5年後には収益の出るビジネスになる可能性が十分にある」と語る。

大手ITベンダーのビッグデータ関連の主な取り組み
表層深層
調査会社のIDCは、今年3月、「ビッグデータ」を定義した。その定義は、企業が扱うデータ量が100テラバイト(TB、1TB=1024ギガバイト)以上であることを一つの要件としている。
日本では、100TB以上のデータを抱える企業は現時点でほとんどゼロに近いだろう。そんな状況にあって、ITベンダーがまず着眼すべきは、ユーザー企業内のデータベース(DB)の集約・統合化である。ユーザー企業の多くは、顧客情報など構造化データを集める複数のDBが散在しているのが実状だ。ユーザー企業は将来、SNS情報など非構造化データも収集・分析することに向けた“下準備”として、散在しているDBを統合化する必要がある。ITベンダーの目の前にある商機は、DB統合化のソリューション提供なのである。
ビッグデータには、ICT(通信情報技術)を活用して都市のインフラを改善する「スマートシティ」の概念が緊密に結びついている。スマートシティは、センサなどで情報を把握し、それらの情報を機器同士が自動的に交換する技術を基盤としているものだ。都市という広い範囲で情報の収集・交換を行うので、処理しなければならない大量のデータをつくり出すわけだ。ビッグデータの事業化に注力しているITベンダーは、スマートシティの事業展開も推し進めている。ビッグデータとスマートシティを別々の事業分野としてみるのではなく、両者を融合させてソリューションを展開するのがポイントとなるだろう。