ソーシャルネットワークの普及などによって、データ量が爆発的に増えている。IT業界では、「ビッグデータ」という言葉が注目を浴びているが、ビッグデータとは果たして何を指すのか。どのような事業分野があるのか。データベースや分析ソフトなど「製品」や「ユーザー企業の意識」の観点から、かたちになり始めているビッグデータ関連市場の現状を俯瞰する。(文/ゼンフ ミシャ)
figure 1 「事業分野」を読む
上位レイヤーの製品開発はまだ発展途上
「ビッグデータ」という新しい言葉は、いわゆる非構造化データ(データベースに格納されない情報)の増大によって、企業などが処理するデータ量の巨大化を指している。IT業界では、ビッグデータという言葉を使って、大量の情報を収集・分析・活用することによって、ユーザー企業の経営課題を解決し、事業の成長を支援するビジネス領域を指すことが多い。ビッグデータの関連事業は、主に(1)インフラ、(2)データ管理、(3)データ分析・活用、(4)意思決定の支援──の四つのレイヤーで構成される。現時点では、大量のデータ処理に対応するサーバーやストレージなどのインフラ(1)と、データベースを中心とするデータ管理(2)の製品開発が進んでいる。一方、データ分析・活用(3)と意思決定の支援ができる製品(4)はまだ少ない。このところ、IBMなど、データ分析用のミドルウェア=ビジネスアナリティクス(BA)ツールや経営コンサルティングサービスの提供に力を注ぐベンダーが現れている。
ビッグデータ関連ビジネスの各レイヤーと主なIT製品
figure 2 「データ管理」を読む
直近でのニーズが高いのはDBの統合化
ユーザー企業は、ビッグデータの活用によって経営改善を図る前に、顧客情報などの構造化データを格納するデータベース(DB)の集約・統合化を課題としている。多くの企業では、複数のDBが散在しており、ビッグデータ活用の前段階として、DBの統合化に動き始めている。構造化データを統合するための製品として普及が進んでいるのは、リレーショナルデータベース管理ソフトウェア(RDBMS)だ。国内のRDBMS市場は、2011年は東日本大震災によるIT投資の低迷を受けて一時縮小したが、2012年以降は、DB統合の需要拡大を追い風として成長に転じる見込みだ。IDC Japanは、国内RDBMS市場の2010~15年の年平均成長率を1.6%として、売上高は2011年の1446億1900万円から2015年には1709億5400万円に伸びると予測している。ITベンダーは、DB統合のソリューション提供によって、早いうちにビッグデータ関連のニーズを事業化することができそうだ。
リレーショナルデータベース管理ソフトウェア(RDBMS)市場(国内)の売上額予測
figure 3 「データ分析・活用」を読む
コンテンツ分析ツールが有望
データベースよりも一つ上となるデータ分析・活用のレイヤーでは、ビジネスアナリティクス(BA)ツールの製品化が活発になりつつある。BAは、ソフトウェアを活用して、ユーザー企業の業務内容を細かく分析し、分析を踏まえて業務の効率化や新規市場の開拓に取り組むことを基本コンセプトとしている。BAツールの主要プレーヤーは、日本オラクルをはじめ、SAPジャパンや日本IBMなどだ。
IDC Japanによると、国内BAソフトウェア市場は、2010年の1306億200万円から2015年までに1598億2300億円に拡大する。年平均成長率は4.1%だ。BAソフトウェアは、データウェアハウス管理プラットフォームなど複数の製品で構成される。IDC Japanは、ビッグデータと関連して、BA製品のなかでも今後成長が著しいのは、キーワード検索ができるテキストマイニングなどの手法を使い、非構造化データを解析するためのコンテンツ分析ツールとみている。コンテンツ分析ツールの2015年までの年平均成長率は27.2%と、BA製品のなかで最も高い。ビッグデータ関連ビジネスでは、ユーザー企業の経営を改善することが肝心なので、BAツールはITベンダーにとって有効な商材になる。
ビジネスアナリティクス(BA)ソフトウェア市場(国内)の売上額予測プレーヤーのトップ3
figure 4 「CIOの意識」を読む
IT活用による事業の成長を重視
日本企業のCIO(最高情報責任者)を対象としたガートナー ジャパンの調査では、CIOはITの活用によって経営改善を図る意識が高いことが明らかになった。ガートナー ジャパンは、CIOが2012年、ビジネス戦略にあたって課題にする項目として、「事業の成長を加速する」「新規顧客を獲得する」「コストを削減する」などを挙げている。これらの項目は、いずれもビッグデータにかかわってくるといえる。一方、IT導入でCIOが重視する項目としては、2位にランクインしているBAを除いて、ビッグデータに関連する製品は挙げられていない。CIOのビジネス戦略面での重視項目とIT導入面での重視項目の比較から推測できるのは、ユーザー企業はデータの分析・活用に対してニーズが高いが、投資回収率を含め、適切なITソリューションの提案を受けていないということだ。
ITベンダーがビッグデータ関連の事業化で成功するためには、ユーザー企業の課題をきめ細かく把握し、ITと経営を融合するマンパワーと提案力を培うことが課題となっている。大手総合ベンダーをはじめ、各社で製品開発が進むなかで、IT企業は営業スキルや販売体制の強化にも注力することが求められている。
2012年、日本のCIOが課題にする項目