来年4月、消費税率が8%に引き上げられる。2015(平成27)年10月には10%への引き上げも予定されているが、10%引き上げ時の軽減税率導入など、議論の途上にある課題は多い。消費税改正論議の焦点と、ERP・業務ソフト市場へのインパクトを探る。(取材・文/本多和幸)
逆進性対策は「複数税率」が有力
焦点は低所得者対策
昨年8月、「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律案」(消費税法改正法)が国会で成立した。これにより、消費税率が2014(平成26)年4月から8%に、2015年10月から10%に引き上げられることが決まった。厳密にいえば、「引き上げは時の政権が経済状況などを踏まえて最終判断する」ことになっているが、財政赤字の状況や、少子高齢化により生産年齢人口がどんどん減少していくことを考えれば、所得課税に過度に依存していては国の財政は成り立たないので、消費税アップのロードマップはよほどのことがない限り、予定通りに遂行されそうだ。
ただし、今回の改正にあたっては、スケジュールが非常にタイトであるにもかかわらず、これから議論しなければならない重要な課題もある。最大のポイントは、消費税率引き上げに伴って「逆進性」が拡大することへの対策だ。消費税は低所得者ほど所得に占める税負担の割合が大きくなるので、税負担の公平性を担保するためには、ある種の救済措置が必要になる。そうした対策は、基本的に10%への引き上げ時に導入されることになっている。
●インボイス方式を採用か 現在、逆進性対策として議論の俎上に上っているのが、「給付付き税額控除」と「複数税率」という二つの手法だ(図1参照)。
給付付き税額控除は、基礎的生活費の消費税率分を所得税額から控除し、控除しきれない分については手当を給付する制度。カナダの「GSTクレジット制度」が有名だ。一方、複数税率は、食料品や水道水など、生活必需品について、標準税率よりも低い税率(軽減税率)を設定して運用する。EUやその他のOECD加盟国では、この複数税率を導入しているケースが圧倒的に多い(図2参照)。

グローバル・
パートナーズ・
コンサルティング
取締役代表社員
高田正昭
公認会計士・税理士 消費税法改正法には、逆進性対策の選択肢として両方が併記されているが、1月に与党がまとめた平成25年度税制改正大綱では、「軽減税率制度を導入することをめざす」と明記されている。こうした状況を踏まえ、グローバル・パートナーズ・コンサルティング取締役代表社員で公認会計士・税理士の高田正昭氏は「給付付き税額控除は個人の所得を把握する必要があり、さまざまな事務手続きの煩雑さを考えてもマイナンバー制度の実現が必須となる。しかし、この制度の運用開始は早くても10%引き上げの後なので、複数税率が導入される可能性はかなり高い」と指摘する。
仮に複数税率が導入されるとすると、事業者が仕入税額を適切に控除し、正しい納付税額を算定するためには、当然ながら、販売、仕入れを含むすべての取引で、商品ごとに異なる税率を正確に把握する必要がある。EUではこれを担保するための制度として、商品の納入者が、商品ごとの税率・税額を記載したインボイス(請求書か納品書)を仕入れ側に提供する「インボイス方式」を採用している。仕入税額控除は、このインボイスの保管が要件になる。
現在、日本では「請求書等保存方式」が採られ、帳簿と、取引の相手方が発行した請求書など客観的な証拠書類の保存を仕入税額控除の要件としているが、請求書などに適用税率・税額を記載することは義務づけられていない。単一税率の場合はそれでも仕入税額の計算に支障はないが、複数税率の場合、インボイスがなければ取引ごとの税率を把握しづらく、適正な仕入税額の計算も難しくなる。こうした事情から、「少なくともインボイス方式に近い制度をイメージしておく必要がある」(高田氏)という。
●企業のシステム改修は必須 では、これらの制度がIT市場にもたらすインパクトをどう捉えるべきか。複数税率とインボイス方式が導入された場合、企業の業務システムは多かれ少なかれ何らかの改修が必要になる。高田氏は「オペレーションは従来よりも間違いなく複雑になる。品目の区分けは事業者が自分たちでやらなければならないので、システム上の設定も自分たちで行わなければならない。小売りなど、一般消費者に近くなるほど扱う品目も多く、最初の設定が大変」と話し、まずは、「データの入り口となる購買、販売システムでしっかり品目ごとの正しい税率に対応できるようにすべき」と指摘する。
また、消費税法改正法には、消費税率引き上げに伴う混乱を回避するために、経過措置が適用される16項目の取引が定められている。例えば、請負工事は、契約から資産の譲渡までの期間が長いことから、新税率適用の半年前までに契約した案件には、旧税率が適用される。「引き上げ当初は複数の税率が錯綜するので、それに適切に対応することも重要」(高田氏)となる。
逆進性対策の方向性は、2014年度の税制改正大綱、同要綱、同法案などで示される。複数税率が導入される場合、EUの例をみると、適用の仕方には「お国柄」も如実に現れており、何を軽減税率の対象とするのかという議論も当然出てくるだろう。
場合によっては、業務システムもかなり複雑なオペレーションを強いられる可能性がある。システムを開発・提供するベンダー、SIerは、今後の消費税に関する議論の流れを注意深く追っていく必要がある。
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