ITベンダー同士の競争の激化や、クラウド・コンピューティングとスマートデバイスの普及、グローバル化の進展などに伴って、ERP(統合基幹業務システム)市場が変貌しつつある。調査会社アイ・ティ・アール(ITR)の浅利浩一プリンシパル・アナリストに、ERP市場を取り巻く状況について聞いた。 (聞き手/信澤健太)

ITRの浅利浩一プリンシパル・アナリスト

──ITRの調査では、2011年度の国内ERP市場全体の規模は、前年度比7.8%増の約822億円でした。2015年度には、1064億円に達すると予測しています。一方で、ERPベンダーの担当者に取材すると、案件は増えているが一案件当たりの金額は減っているといいます。

浅利
 当社の調査でみているベンダー出荷のライセンスの売り上げは伸びています。ただ、市場全体で導入プロジェクトの規模は変わってきていて、大企業の割合が昔ほど高くなく、中堅・中小企業(SMB)の割合が高まっています。個々のケースをみると、例えば10年前であれば、会計システムだけを刷新するのに30億円から50億円かけていましたが、今はそれではどこも発注しません。大企業でも5億円、グループ企業のシステムの共通化を目指すプロジェクトでも10億円という感覚になっています。

──ERPベンダー間の競争は激化しているのでは。

浅利
 過去のように著名な製品から選ぶのではなく、複数の製品を並べてRFP(提案依頼書)で評価することはあたりまえになっています。今後、ERPベンダーは淘汰されていくでしょう。とはいっても、いまだに「この要件にはこの製品しか対応できない」というときが結構あります。この場合は、限られたなかでの競争ということになります。

 例えば、製造業の生産管理方式である製番管理を本当に実現できるのか、という観点で製品を絞り込むと、ほとんど選択肢が残らないことがあります。汎用的な品目コードが10桁~20桁で収まっていても、その頭に顧客別の識別番号や顧客の個別仕様に応じて引いた図面の番号をつけて、図面データと部品データに一貫性をもたせている仕組みを構築している製造業が多い。つまり、20桁を超える品目コードが必要となるわけですが、対応できるパッケージはとても限られます。

 既存の品目コードはシステムのなかの血液のようなものですから、簡単に変えることはできません。この場合は、手組みのシステムか、対応できるパッケージを採用することになります。

──ITRでは、ERPをめぐる注目技術として、クラウド・コンピューティング、モバイル、BPM、インメモリ技術、超高可用性技術、マルチデバイス、マルチBI(ビジネスインテリジェンス)を挙げています。特筆すべき動きをみせているERPベンダーはありますか。

浅利
 十把ひと絡げに考えていいと思います。どのERPベンダーも、同じような狙いでこれらの技術をアピールしています。

──国内のERPベンダーについてはどうですか。

浅利
 国内ERPベンダーで、ライセンスを最も多く販売しているのはオービックです。オービックはこういった技術トレンドをどうみているのかといえば、ある意味で、積極的には気にかけていない。上場している欧米のERPベンダーは、投資家から高い成長を求められていますから、新しい技術の活用に取り組んでいます。とはいっても、すべての企業がこうした新しい技術を必要としているわけではありません。

 ですから、オービックのような国内ERPベンダーがダメだというわけではありません。欧米のERPベンダーの後塵を拝しているのは事実ですが、積極的に別路線で商売しているともいえます。これは、最初からグローバル展開を見据えた事業を展開するか、ユーザーである国内企業が海外に進出する際にグローバルサポートを行うか、というビジネスドメインの違いだと思います。

──マルチテナントアーキテクチャを採用したパブリッククラウドが続々と登場しています。今後、クラウドERPの普及はどのように進むとお考えですか。本番環境でも、クラウドERPが稼働するケースが増えていくのでしょうか。

浅利
 すでに動いているケースがありますよ。私が同じような質問を海外のベンダー幹部にぶつけたら、「(企業は)どうしてそういう検討ができないのか」と問い返されました。考えると、合理的な説明ができないのです。すでに一部の企業では、競争優位性に関わるシステムであっても、自社で所有する考えがなくなってきています。発想が明らかに変わってきている。

 「いつまで所有か否かということにこだわっているのか」と、経営陣から情報システム部門にプレッシャーがかかるようになっています。「技術的に99.99%の可用性がなければならない」「システムの所有が基本方針」という企業がなくなって、すべてがクラウドになるとは思っていませんが、選択肢として十分に評価できるタイミングになりつつあるといえるでしょう。

 所有から利用へ変化するときは、情報システム部門の役割を変えていく必要がありますが、重要なのはそのスピードです。海外では、ユーザー企業でクラウド化を推進する担当者がIT企業に転職するケースが珍しくないし、またその逆もあって、転職を通じてキャリアを積む文化が存在します。ですからクラウドが広がりやすい。今の日本の雇用環境では、変わるのはなかなか難しいでしょう。

──タレントマネジメントの市場が盛り上がりをみせています。日本でも浸透するでしょうか。

浅利
 2年ほど前に、同じ質問をされました。当時は、「タレントマネジメントシステムの導入は限定されるだろう」と答えた記憶があります。ですが、今は状況が変わってきています。東日本大震災やタイの洪水などの有事の際に、最適なスキルをもつ人材をすばやく活用できなければ、対応は間に合わない。人事担当者がふだんのつきあいで、「あいつができる」と判断する伝統的なやり方は通用しなくなっている。

──ありがとうございました。