国内のERP(統合基幹業務システム)市場が飽和状態にあるといわれて久しい。中堅企業向け市場を中心として出荷金額は伸びているものの、ITベンダー同士の競争の激化やクラウド・コンピューティングの普及、グローバル化の進展などに伴い、既存のERPビジネスからの脱却が喫緊の課題となっている。すでに、新たな商機を狙い、クラウドやインメモリ技術などに対応し、ソースコードを一新した次世代ERPが登場している。(文/信澤健太)
figure 1 「市場動向」を読む
成長性が高い中堅企業向けERP
調査会社のアイ・ティ・アール(ITR)によると、国内ERP市場全体の市場規模は、2010年度が前年度比4.7%増の762億円で、2011年度は同7.8%増の約822億円だった。大企業はグローバル進出に伴う基幹システムのリニューアル、中堅企業はレガシーシステムのリニューアルとグローバル対応がERP市場の成長を後押しした。中小企業は、ここ数年の景気後退に伴い抑制傾向にあったERPパッケージのリプレース需要が伸びた。中堅企業向けERPは、中・長期でみて最も成長性が高く、2010~15年度までのCAGR(年平均成長率)を7.2%と予測しているが、伸び率はやや鈍化している。
ユーザー企業は、「ビジネスへの直接貢献」を筆頭に、「業務コストの削減」「ITコストの削減」を最重要視するIT戦略テーマにしている。こうした戦略の下で、経営者は売り上げの増大を狙い、短期間・低価格の導入が可能でシンプル、そして柔軟性の高いシステムを求めている。
国内ERP市場規模の推移(2009~2015年度・出荷金額)
figure 2 「プレーヤー」を読む
SAPや富士通は大企業から中小企業にまで対応
大企業向け市場では、SAPジャパンが最も支持を集め、日本オラクルや富士通、ワークスアプリケーションズなどがシェアを分け合っている。中堅企業向け市場は激戦区で、近年シェアを伸ばしているSAPジャパンのほかは、富士通マーケティングやオービック、オービックビジネスコンサルタント(OBC)などの国内勢が強い。中小企業向け市場は、大企業市場と構図が似ており、OBCが長年シェアトップの位置を占めている。OBCを追うのが、ピー・シー・エー、OSK、応研、ミロク情報サービスなどで、これら5社が主要なプレーヤーだ。大企業から中小企業にかけて一貫して製品を提供しているのは、SAPジャパンや富士通など少数だ。
製造業、食品業など、業種に特化してニッチトップを目指しているERPベンダーもみられる。中堅・中小企業向けに、生産管理システム「MCFrame」を開発・販売する東洋ビジネスエンジニアリングや、食品業に強い「スーパーカクテル」を展開する内田洋行などがそれだ。
ターゲット企業規模別の主要なERPベンダー
figure 3 「注目技術」を読む
技術トレンドを網羅するSAPとオラクル
ERPにはさまざまな技術トレンドがあり、クラウド・コンピューティング/SaaS、モバイル、SOA(サービス指向アーキテクチャ)/BPM、インメモリコンピューティングなどが見逃せない。主要ベンダーはほぼ同じ方向で製品開発を強化するとみられ、注目に値するのは技術トレンドを網羅するSAPとオラクルだ。
SAPは、「People」「Money」「Customers」「Suppliers」の四つのキーワードを軸に、SaaSアプリを提供する方針を示している。インメモリデータベース「SAP HANA」上で稼働するPaaS「SAP NetWeaver Cloud」との連携も明らかにしている。ただし、現時点では「SAP Financial OnDemand」と「SAP Business ByDesign」の関係などについて不明点が多い。一方、オラクルのアプリケーション製品群「Oracle Fusion Applications」は、SOAやJavaを全面的に採用し、BI(ビジネスインテリジェンス)機能を実装。インメモリ、クラウドを前提に開発しており、SaaSアプリを順次投入する予定だ。
両社は、SaaSベンダーの買収を加速化し、各種SaaSアプリを組み合わせて、いいとこ取りで提供する“幕の内弁当モデル”を指向している点で共通する。
ERPをめぐる注目技術
figure 4 「将来」を読む
コモディティ化が進む
ERPは完全にコモディティ化している、という声は少なくない。一部を除いて、単純に機能の差で競う時代は過ぎたといっていい。さらには、国内市場には頭打ち感があり、大きな成長は見込めそうにない。中堅企業向け市場は、成長率こそ高いが競争の激化は避けられない。既存のビジネスモデルに執着するITベンダーは疲弊する一方だ。今後は、技術トレンドを踏まえながら、企業のビジネスに直接貢献できるソリューション提案の道を模索する外資系ERPベンダー中心の動きが活発化しそうだ。しかし、調査会社ITRの浅利浩一氏は、「オービックはクラウドなどの流れを、あまり気にしていないようだ」というように、独自路線もあり得る。浅利氏は、国産ERPベンダーについて、「外資系ERPベンダーの後塵を拝しているが、最近のトレンドに沿った製品を必要としていない企業も少なくない」と語る。クラウドやインメモリ技術への対応、ソースコードの一新などがカギとなる次世代ERPの有望性を見極めるうえで注意が必要だ。話題が先行して、どのようにビジネスに直接貢献するのかがみえていない技術トレンドがあるからだ。例えば、ソーシャル関連のサービスは続々と登場しているが、「とくにビジネス価値はない。ERPベンダーはいまだに十分な提案ができていない」(浅利氏)という手厳しい指摘がある。
ERPビジネスのこれから