政府は、2020年度(2021年3月期)までにすべての小中学校の全児童生徒にデジタル教科書を配布することを目標に掲げる。これに伴って、ITベンダーによる文教市場向けビジネスが拡大する可能性がある。文教市場で成功させるためのカギとは何か。この特集では、市場の動きとSIerの取り組みを探る。(取材・文/佐相彰彦)
文教市場の現状
●新IT戦略で教育現場を整備
大きなビジネスチャンスの可能性 政府は、現在、新たなIT戦略に向けて動いている。世界最高水準のIT社会を実現するために「インフラ」「利活用」という二つの面からIT化を進めようとしており、その一つとして人材育成や教育の場面でIT化を推進。質の高いIT人材や国際的に通用する人材の輩出に向け、小中学校で無線LANなどネットワークインフラの整備、全児童生徒を対象に一人一台のパソコンなどデバイスの配備、デバイスによるデジタル教材の活用などを打ち出している。高等学校の段階では、産学連携のインターンシップを含めた実践的な専門教育プログラムの構築などにも取り組む考えだ。このようなビジョンを掲げていることからも、まずは小中学校でデジタル教科書の活用を見据えたデバイス一人一台の環境を整えることが急務となる。
過去を振り返ると、教育のIT化に向けて2009年4月に「スクールニューディール構想」を取りまとめ、2009年度(10年3月期)の補正予算として約4900億円を計上した。この補正予算によって、多くの小中学校でネットワークインフラの整備や電子黒板の導入が相次いだ。文部科学省の「平成23年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査」によれば、教室の校内LAN整備率は2009年3月の時点で64%だったのが2010年3月に72.1%、2011年3月に82.3%と上昇。電子黒板に関しては、2009年3月に1万6403台だった導入台数が2010年3月に4万2184台、2011年3月に6万478台まで上昇した。
総務省が学校のIT化を促進する「フューチャースクール推進事業」を「行政事業レビュー(省版事業仕分け)」で「廃止」と判定した例もあったので、政府による新たなIT戦略が確実に具現化するとは言い切れない。ただ、2020年度に全児童生徒すべてにデバイスが普及されるならば、その関連するソフトウェアやサービスなどの提供を含めて大きなビジネスチャンスが訪れることになる。
調査会社の見解
●市場の急激な伸びを見極める
ハードウェアは2016年が大きな節目 小中学校の全児童生徒への一人一台を実現するデバイスアイテムとして、ハードウェアではパソコンに加えてタブレット端末をはじめとするタッチパネル方式のデバイスが普及するとの見方がある。その時期は、地方自治体や学校によって異なるが、ここ2~3年で爆発的に伸びるという予測がある。
調査会社のシード・プランニングは、文教市場向けハードウェアの国内販売について、2016年に1038億円に達すると見込んでいる。電子黒板が38億円、教育用タブレットが1000億円という内訳だ。原健二・リサーチ&コンサルティング部エレクトロニクス・ITチーム2Gリーダ主任研究員は、「2009年度補正予算によって2010年に電子黒板が爆発的に普及した。現在、教科書メーカーによるデジタルコンテンツ化が進んでおり、タブレット端末の進化、デジタル教科書による授業があたりまえの世界になることなどを踏まえると、3年後に急激に伸びる可能性が高い」と分析している。電子黒板については、2010年の時点で普及が進んだことから、「今後は、大きく伸びることはない。しかし、リプレース時に学校が大型の液晶テレビやディスプレイを導入する可能性がある」という。
ベンダーの動きについては、電子黒板をはじめ、デバイスでパソコンだけでなくタブレット端末も登場していることを勘案すれば、「今後は、ますますプレーヤーが増えることになるだろう」とみている。ただ、端末だけでは学校が導入を決断する要素として弱いので、「まずは、教科書メーカーとどのようにアライアンスを組んでいくのかがカギを握る」としており、加えて各社の強みを生かしたシステム・サービスでの提供がポイントであることを指摘する。
政府の動きや調査会社の市場分析などを踏まえて、SIerは文教市場でどのような策を打ちだしてビジネスの拡大を図るのか。以下、新製品・サービスの提供、組織の増強や販社体制の整備に取り組むSIerを紹介していく。
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