ビッグデータ活用の時代にあっては、システム開発だけでなく、データ分析の提供もできるITベンダーが強い。この特集では、現場で汗をかいて膨大な量の情報を解析する「データサイエンティスト」の活動にスポットをあてて、注目されるデータ分析事業の現状をレポートする。(取材・文/ゼンフ ミシャ)
ユーザー企業の間では、データ分析のニーズが高まっている。調査会社のIDC Japanが今年6月に実施した調査によると、経営企画部やマーケティング部を中心に、「データ分析力を強化したい」という企業は、50%前後を占めている。利用するデータの種類や量を拡大するというよりも、分析力の強化を重視する企業が多い。ユーザー企業のこうしたニーズに対応するために、データ分析のプロであるデータサイエンティストを増やすことが喫緊の課題となっている。
大量のデータから“ストーリー”を見つけ出す

NTTデータ数理システム
データマイニング部
保坂桂佑主任研究員 ビッグデータのビジネス化を模索するIT業界で脚光を浴びているのは、情報分析の専門家、すなわち「データサイエンティスト」だ。彼らは、プログラミングや統計学に精通し、大量情報の処理と分析を行う。さらに、データ分析によるビジネス上のインパクトを追求し、「価値」の創出によって、クライアントの事業展開を支える人材だ。では、データサイエンティストは、日頃、どういう仕事をこなし、どういうふうに分析の腕を発揮するのか。現場のデータサイエンティストの活動ぶりに焦点をあてる。
●10:00 NTTデータ数理システムに勤務する保坂桂佑は、東京・新宿区にあるJR中央・総武線、信濃町駅から数分の場所にあるオフィスに到着する。保坂は、データ分析事業を手がけるNTTデータ数理システムのデータマイニング部で主任研究員を務めている。同社に入社して、およそ7年が経つ。長年、分析プロジェクトの経験を積み、一人前のデータサイエンティストになった保坂は、データ解析に携わるほか、若手アナリストの育成やチームの管理も担当している。
保坂は、朝のメールチェックを終え、およそ10人で構成するデータサイエンティストのチームとの打ち合わせに入る。メンバー同士で、現在進行しているプロジェクトの情報を共有し、どういう分析方法を使えば、最も正確な結果を出すことができるかについて、議論を交わす。データサイエンティストには、統計学やプログラミングの知識だけではなく、コミュニケーション力も求められている。クライアントの業務内容やビジネス課題を念入りに聞き出したり、チームメンバーの意見をプロジェクト進行に取り入れたりして、初めてデータ分析による「価値」を生み出すことができる。
●14:00 保坂は、倉庫をイメージしたレンガづくりの自社ビルを出て、客先に向かう。データサイエンティストは、オフィスに引きこもって情報を分析するだけでは、仕事にならない。客先を訪問して、データが活用される現場に密着し、クライアントの担当者と一緒に、どういうデータを何のために分析するかを明確に定めなければ、望む方向にプロジェクトが進まない。保坂は、これまで何度も失敗した経験から学び、現場主義の徹底を胆に銘じている。
保坂がデータを分析する手法としてよく使うのは、クライアントから提供してもらう大量のデータから“ストーリー”を見つけ出す「データマイニング」だ。例えば、小売事業者に渡されたPOSデータを解析して、一緒に購入される商品は何かを浮き彫りにする。そして、一緒に購入されることが多いとわかった商品を「同じコーナーに配置すれば、効果が出る」と提案し、売り場の活性化につなげる。
きょう訪問したクライアントは、相手先の財務状況にもとづいて投資の可否を判断する格付けビジネスを展開する会社だ。保坂は先方から「予測モデルの精度を高めて、格付けをより正確にできるようにしたい」という要望を受けた。データサイエンティストのベテランである保坂にとっても、なかなかの難題だ。オフィスに戻る途中、分析方法をどのように変えれば、精度が向上するかについて知恵を絞る。保坂は、先方の要望にできるだけ迅速に応えるよう、常に仕事のスピードを意識している。
●17:00 日暮れどき、保坂はオフィスに戻った。これから、当日の顧客訪問を含め、プロジェクトの進捗状況をまとめた週ごとの報告書を作成しなければならない。会社がデータ分析事業の担い手であるデータサイエンティストたちの動きを、大きな期待を込めて観察している。保坂は、3か月単位でプロジェクトの成果を上げることが求められている。データ分析はビジネスだから、クライアントが満足する分析結果を出し、次の受注につなげることが、保坂たちデータサイエンティストのミッションになっている。
●18:30 外はすっかり暗くなった。残業するかどうか、迷う。保坂の業務は、労働時間と業績が必ずしも連動しない「裁量労働制」の対象なので、残業代は支給されない。しかし、データサイエンティストの腕を磨くための仕事は山ほどある。机の上には、米国で発表されたビッグデータ関連の英語の論文がずらりと並ぶ。最新の研究を調べたり、学会に参加して大学との交流を深めたりすることも、データサイエンティストとしての保坂の重要な仕事である。
保坂は、大学で情報工学や天文学を学び、データサイエンティストのスキルは入社後にOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)で身につけた。初めて、プロジェクトを丸ごと一人で担当し、進行中に分析方法を見直して成功に導いたことが、仕事に自信をつけたターニングポイントとなった。現在も、専門知識やクライアントの業種についての情報を吸収し、勉強に励んでいる。
今日は、夜遅くまで会社に残り、格付け事業者から出された“宿題”の解決を考えることにする。帰る頃には、頭を使った疲れを感じるが、クライアントのビジネスを支える仕事の充実感がその疲れをいやしてくれる。(文中敬称略)
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