企業のあらゆるデータを分析して、業務の効率化や売上拡大に活用するBA(ビジネスアナリティクス)市場が堅調に伸びている。企業はデータの大量化と複雑化にどう対処すべきかに頭を悩ませている。こうした課題を解決するものとして、BAの需要が高まっているのだ。ベンダーは、BAのターゲットとなる企業のニーズを詳しく把握することに力を入れて、経営層に向けた提案活動を活発に行っている。(文/ゼンフ ミシャ)
figure 1 「BAの定義」を読む
集計・分析したデータをビジネスに活用する
BAは「Business Analytics(ビジネスアナリティクス)」のイニシャルをとった言葉である。「アナリティクス」は、日本語の直訳では「(体系的に)分析を行うこと」という意味になる。IT用語のBAとは、主にソフトウェアを活用し、蓄積されたデータを解析して相関関係を探り出すデータマイニングといった手法によって、企業がもつあらゆる情報をビジネスに最適化する仕組みを指している。BAは比較的に新しい用語だが、BAに近いコンセプトとして、以前から、企業内のデータを集計・分析する「BI(ビジネスインテリジェンス)」がある。BAは、BIの機能の範囲を広げたものと捉えることができる。BIはデータの集計と分析を主な機能としているが、それに対して、BAは集計・分析したデータを実際にビジネスに生かすという「活用」の機能をもつのが特徴だ。具体的には、データの分析を踏まえて、業績の推移を予測したり、経営シナリオをシミュレーションしたりすることができる。
BIとBAの範囲
figure 2 「市場規模」を読む
「ビッグデータ」や海外進出が刺激剤に
調査会社IDC Japanのデータによると、2010年の国内BAソフトウェア市場の規模は1306億200万円。前年比6.4%増と、堅調な伸びを示している。国内のBAソフトウェア市場は、10~15年の年間平均成長率が4.1%で、15年までに1598億2300万円に拡大する見込みだ。BAソフトウェア市場が伸びる背景には、ソーシャルメディアの普及にけん引されて「ビッグデータ」と称される情報の大量化が起き、日本企業のグローバル進出の加速化によって情報管理が複雑化しているといった事情がある。BAソフトウェアのベンダーは、ユーザー企業がIT投資を控えるなかで、BAの活用によって経営課題を直接に解決することができると訴求し、「コスト削減」と「売上拡大」を切り口として、ユーザー企業の経営層に向けたBAソフトウェアの提案活動を進めている。IDC Japanは、ユーザー企業が早期の投資収益性を求め、スイート型のBAソフトウェアや、サーバーやストレージにBAソフトウェアを事前最適化した製品が有効な商材になるとみている。
国内BAソフトウェア市場の推移
figure 3 「プレーヤー」を読む
BAは大手外資系ベンダーの激戦区
日本のBAソフトウェア市場は、大手の外資系ベンダーがひしめいている。マーケットシェアのトップ5(IDC Japan調べ)は、日本オラクル(26.2%)、SAPジャパン(11.9%)、日本IBM(10.7%)、SAS Institute Japan(6.5%)、日本マイクロソフト(6.4%)と、国産ベンダーは入っていない。BAソフトウェアに強い日本のベンダーとして、富士通(5.6%)がやっと6位にランクインしているくらいだ。1・2位のソフトウェア専門の日本オラクルとSAPジャパンは、当初からBAソフトを主力製品の一つとしている。一方、統合ITベンダーの日本IBMは、2009年からIBMのグローバル成長戦略の一環として、BAソフトウェアを中心とした「BAO(ビジネス分析と最適化)」事業の拡大に取り組んでいる“新規プレーヤー”だ。今年5月に、リスク管理など4分野をカバーするコア・ソリューションを策定するなど、BAOの事業拡大に拍車をかけている。
BAソフトウェアを製品ごとにブレイクダウンしてみれば、データウェアハウス管理プラットフォームで、日本オラクルが46.8%と圧倒的なシェアを誇っている。また、パフォーマンス管理とアナリティクスアプリケーションの分野では、SAPジャパンが首位を獲得している(いずれも2010年、IDC Japan調べ)。
国内BAソフトウェア市場のベンダー別売り上げシェア
figure 4 「商材」を読む
ニーズをいかに汲み取れるかがポイント
日本IBMの取り組みなどを受け、BAソフトウェアでの競争が激しさを増している。ベンダー各社はBA商材のポートフォリオを強化し、他社との明確な差異化を急いでいる。
日本オラクルは、財務パフォーマンス管理や業務用BIのアプリケーション、データウェアハウス製品などから構成される「Oracle Business Intelligence(Oracle BI)」を提供している。SAPジャパンは、金融や医療、製造などの業種に特化したソリューションを用意する「SAP BusinessObjects(SAP BO)」を展開する。日本IBMは、財務パフォーマンス管理ソフトウェア「Cognos」と統計分析・データ分析ソフトウェア「SPSS」を中心としたソリューションを商材としている。また、SAS Institute Japanは、ソフトウェア、サービス、トレーニングなどを統合したフレームワーク「Business Analytics Framework」を提供する。
BAはユーザー企業の経営課題を解決することを目指しており、ベンダーは各業界の業務内容やITに関するニーズを詳しく把握することに力を入れている。日本IBMソフトウェア事業ビジネス・アナリティクス事業部の国本明善事業部長は「ユーザー企業のニーズをいかに汲み取るかが、事業拡大のカギを握る」とみている。
主要BAベンダーの代表的な商材