ビッグデータをビジネス化するうえでポイントとなるのは、データを分析して提供することは当然として、そのデータ分析の質を高めるデータサイエンティストを育成することやデータを創出することなどだ。
この項では、ビッグデータの事業化に取り組んでいるベンダーの動きを追う。データサイエンティストは、クライアントにどのような提案をして受注に結びつけているのか。ALBERTでデータ分析を担当する伊藤徹郎氏にインタビューするとともに、EMCジャパンで教育を担当する浜野崇氏、ブレインパッドで自社製品の普及促進を担う平野健児氏に活躍の様子をうかがった。
【INTERVIEW】ALBERT 伊藤徹郎さん
──クライアントは分析の「なぜ」を求める
玄関の壁に、アルベルト・アインシュタインが舌を出している写真が飾られている。理論物理学者アインシュタインにちなんで名づけたALBERT(アルベルト)は、NTTデータ数理システムなどが提供するツールを使い、データ分析を行う事業を展開している。独自の分析ロジックを武器に、ウェブ広告系の事業者など、クライアントを増やしているところだ。データサイエンティストの第一線で活躍するのは、データ分析部の伊藤徹郎さん。彼に、仕事の内情をたずねた。

アルベルト・アインシュタインにちなんで名づけたALBERTで、データ分析部に属する伊藤徹郎氏 ──データサイエンティストは、ITと統計の知識だけでなく、お客様の業種についても深く知る必要があるので、大変だと思います。 伊藤 当社では、データサイエンティストのメンバーごとに、それぞれの担当業種を決めています。私は、前職で証券会社に務めていた経験を生かして金融業界を担当しています。週一回、勉強会を開いて、メンバーそれぞれがプレゼンテーションを行います。各業種の主なプレーヤーは誰か、シェアはどれくらいかなどの基礎情報を共有します。このようにして、メンバー全員がすべての業種についての基本的な知識を身につけ、各自で知識を深めていくための基盤を築きます。
──最近は、どんな業種からデータ分析の依頼を受けていますか。 伊藤 案件が活発になっているのは、飲食業です。例えば、売り上げの減少に悩んでいる居酒屋チェーンを運営するお客様の例を挙げてみましょう。当社は、そのお客様が保有しているあらゆるデータや飲食業界全般の動きをきめ細かく分析し、それを踏まえて、「業態を従来型の居酒屋から、流行りのスペイン風バルに変えたら、売り上げがこのくらい伸びる」ということを予測しました。
この例からわかるように、データサイエンティストは世の中のトレンドや経済の動きに敏感で、エンドユーザーは何を求めているかを意識することが大切です。
──分析のプロであるデータサイエンティストと、「何となくデータを活用したい」と考えるお客様との間のコミュニケーションは難しいと思います。伊藤さんはどんな工夫をして、プロジェクトを成功に結びつけていますか。 伊藤 おっしゃる通り、お客様は、「データを渡せば、何とかなる」と考えられることが多い。しかし、データ分析のプロジェクトで一番重要なのは、お客様と一緒に「ビジネスのここが課題」「このようにしたい」ということを明確にして、それに合わせてデータの種類や分析方法を決めることです。
分析の結果をお客様にお渡しするときに重視するのは、「なぜ」の部分をていねいに説明することです。分析することによって、「将来はこうなる」ことがわかっても、その理由を明確にすることができなければ、お客様に納得してもらえません。お客様は分析をベースにして来期の事業計画を立て、どのくらいの頻度で広告を出すか、キャンペーンを開催する時期はいつがいいかといったことを決めたいと思っているので、データサイエンティストに対して、分析の「なぜ」を強く求めてきます。
育成、アプリ開発、多方面からビジネス化
EMCジャパン 浜野 崇氏──将来の専門家を鍛える
神奈川県川崎市にある「EMCトレーニングセンタージャパン」。月に一回ほどのペースで、将来のデータサイエンティストを鍛錬するコースが、ここで開かれる。主催は、大容量対応ストレージなど、ビッグデータ活用のインフラ製品を提供するEMCジャパンだ。メーカーとして、データ分析専門家の育成に注力して、インフラ製品の販売拡大を狙う。
メニューは、データ活用に対する意識を高めるための経営層向け1日コースと、500ページのテキストを用意してデータ分析の基礎を徹底的に教える、現場アナリスト向けの5日コース。EMCの米国本社でトレーニングを究めた2人のプロが講師を務めている。ユーザー企業や販売パートナーから募集する受講生は、「プロジェクト計画」「実データと分析環境の準備」「分析・検証」「ビッグデータ構想策定」など、データ分析サービスを提供するための各ステップについて学ぶ。そこで得た知識を応用し、自社でデータ分析事業を立ち上げる。
EMCジャパンは2012年5月にコースを開始してから、これまで16回に開催し、約170人にデータ分析のノウハウを伝えた。5日コースの受講費用は、一人あたり31万5000円。同社は、将来のデータサイエンティストを育てるとともに、コース事業そのものを売上拡大につなげている。
コース事業を統括するエデュケーション・サービスの浜野崇ソリューション・コンサルタントは、「受講した企業は、コースで学んだことを生かし、データ分析の事業化を進めるチームを立ち上げて、社内でビッグデータに取り組む目的を定めることが重要だ」とアドバイスする。
育成、アプリ開発、多方面からビジネス化
ブレインパッド 平野健児氏――消費者からデータを収集
高まっているデータ分析のニーズに対応するために、まだまだ数が少ないデータサイエンティストの育成が急務だ。メーカーのEMCジャパンのほかに、データサイエンティストのプロ集団であるブレインパッドやALBERTなども、データ分析の入門研修を実施している。ユーザー企業に、情報活用の可能性を肌で感じさせ、「本格的な分析は、ぜひ当社に注文してください」と、案件の受注を目指す。
さらに、分析の精度を高めるために、データサイエンティストが扱う材料、つまり「データ」そのものの創出や収集に取り組むことも欠かせない。今後は、クライアントからデータを提供されるのを待つだけでなく、消費者から直接データを集めることが重要になる。このところ、データ分析事業者はプレーヤーが増えて、競争が激しくなりつつある。ビジネスモデルを「データの提供を受けて分析する」から「データをつくって分析して提供する」に進化させて、収益の向上に取り組むことが求められるのだ。
ブレインパッド(
『週刊BCN』11月11日号 7~9面に関連記事)は、消費者向けの無償の家計簿アプリケーションとして、スマートフォンのカメラでレシートをデータ化し、支出を管理することができる「Rece Reco(レシレコ)」を、今年1月に投入し、6月時点で、100万ダウンロードを突破した。11月末をめどに、現在のiOS対応版に加えてAndroid対応版もリリースし、ユーザーをさらに拡大しようとしている。
同社は、「ReceReco」を通じて、消費者の購買データを集め、クラウド上のデータベースに蓄積。「いつ・どこで・どんなものを・いくらで買ったか」をグラフでわかりやすく表示し、サービスとして、スーパーマーケットやコンビニエンスストアの運営者に提供する。「競合他社のデータもわかるので、差異化の戦略を練るのに有効」(サービスイノベーション室「ReceReco」事業責任者の平野健児氏)と訴求する。
大量情報から必要なものを抽出して、鋭い分析によってその情報の価値を見出すことが問われるビッグデータの時代。「情報」と「人」をいかにうまくかみ合わせてデータの有効活用を実現するかが、ビジネスの可否を左右する試金石となりそうだ。