【IT VENTURE】誰も知らない世界の商材を発掘して売る
オーシャンブリッジ
顧客にとってオンリーワンの地位を築く
●多機能ビューアソフトで事業拡大 
持木隆介
社長 2001年に設立されたオーシャンブリッジ(持木隆介社長)は、文書共有システムなど、海外製のソフトウェアをローカライズし、国内で販売するベンチャー企業だ。従業員数はおよそ25人。パートナーを活用し、販売のボリュームを稼ぐよりも、独自の顧客基盤を構築して直販で堅いビジネスを展開するスタイルだ。売上高は公開していないが、数億円程度とみられる。同社は、このほど、初代社長の高山知朗氏が会長に退き、技術者出身でオーシャンブリッジの創業メンバーである持木隆介氏が社長に就任した。これをきっかけとして、新しい商材の展開に注力するなど、事業拡大に向けたビジネス再編に乗り出した。
これまでの主力製品としてきたのは「Net-It Central」。文書ファイルをファイルサーバーにドラッグ&ドロップするだけで、社内ポータルサイトに簡単に公開することができるツールだ。大手企業を中心に、100社以上の導入実績をもっている。今後、販売拡大に動いて、新しい主力製品に育てていくのは、マイクロソフト「Office」やアドビ「PDF」といったファイル形式に対応した多機能ビューアソフトの「Brava!」シリーズだ。
オーシャンブリッジは、現在、「Net-It Central」のユーザー企業に営業をかけて、「Brava!」シリーズを提案している。「Brava!」シリーズを「Net-It Central」の進化製品として訴求し、置き換えを狙っているのだ。「Brava!」シリーズは、「Net-It Central」と比べて、価格が2倍以上になっている。「『Net-It Central』の既存のお客様のすべてに、『Brava!』シリーズに置き換えていただければ、当社の売り上げも2陪以上に増える」(持木社長)という計算だ。需要は旺盛のようだ。直近では、数件の大型案件が動いて、確かな手応えを感じているという。年度末の3月に向けて営業活動を加速化し、案件の獲得を図る。
会社設立から、今年でおよそ13年。持木社長は、「新しいオーシャンブリッジ」づくりを掲げている。今、主力商材を見直すほかに取り組んでいるのは、「極力、無駄をなくす」というローコスト経営の実現だ。「当社はこれまでその場その場で経営上の決断をしてきたが、今後は、ビジネスをより全体的にみて、効率のよい経営につなげることによってコストを削減したい」(持木社長)としている。
オーシャンブリッジは、日本のユーザー企業に必要な物を見極めるという視点をもって、スペインなどITでメジャーではない国の商材も、海外の展示会などに足を運んで発掘し、国内で展開してきた。そのおかげで「お客様に『オーシャンブリッジは、目のつけどころが違うね』とうれしい言葉をいただく機会が多い」と持木社長は語る。今後も、こうした強みを最大限に活用し、ビジネス拡大に結びつける構想だ。ITのスモールビジネスのあり方として、既存ベンダーにも参考になる取り組みだ。
NICTが進めるITベンチャー支援
ビジネスプランの見本市を開催
既存ITベンダーへのヒントも
●メンター制度で事業プランと
人材育成をフォロー 
和久屋聡
部門長 国内の産業振興策として、ベンチャー企業の育成支援は重要な課題だ。経済産業省の外局である中小企業庁や、同省所管の独立行政法人である産業技術総合研究所、中小企業基盤整備機構などを中心に、技術開発やビジネスモデル策定、資金調達などを支援している。そんななか、ITに特化したベンチャー支援策を展開し、ユニークな施策を行っているのが、情報通信研究機構(NICT)だ。
NICTは、総務省が所管する独立行政法人で、情報通信技術に特化した国内唯一の調査・研究機関である。NICTのベンチャー支援策のポイントについて、和久屋聡 産業振興部門長は「ITベンチャーが本当に苦労している立ち上がりの時期の課題、つまり、しっかりとした事業プランの作成、人材育成、資金調達の3点にフォーカスしている」と説明する。
具体的な施策としては、「ICTメンタープラットフォームプログラム」と「起業家万博・起業家甲子園」が両輪だ。NICTは、「ITベンチャーの育成が日本のIT産業の発展を支える重要な施策である」という理念に賛同したIT企業経営者や、大手ITベンダー幹部、ベンチャーキャピタルなどを「ICTメンタープラットフォームメンター」として組織化している。また、地域の大学や有力企業、情報産業振興支援機関などが開催するビジネスコンテストと連携して有望なITベンチャーを発掘し、一企業ごとに1人のメンターが専属で指導する体制を整備している。
このメンタリングを経て、ITベンチャーが自らのビジネスプランを広く世の中に問う機会が、「起業家万博」だ。今年は3月6日に開催されるが、今回で16回目を迎える。昨年まではコンテスト形式だったが、なかには公益性のあるビジネスプランもあり、これを純粋な営利事業と比較して評価するのは困難なことから、見本市形式に変更した。
●資金調達や事業化にも貢献 
佐藤好英
室長 起業家万博は、出場したITベンチャーの資金調達やビジネスプランの事業化に大きく貢献しているという。NICTの佐藤好英 産業振興部門事業化支援室長は、「これまで出場したほとんどの企業が、何らかのかたちで商談にこぎ着けている。ベンチャーキャピタルはもちろん、ITベンダーなども、新しいビジネスのアイデアと協業相手を求めて来場している印象だ」と話す。
今年の起業家万博には、全国から10社のITベンチャーが参加する。例えば、東北地区から選出されたプラスヴォイスは、従来、受託ソフト開発がメイン事業だったソフトベンダーのアンデックスと共同開発したアプリ「手書き電話」をプレゼンする。既存のITベンダーが、ITベンチャーとの協業により新たな事業を創造するためのヒントを提示してくれるかもしれない。和久屋部門長も、「ITベンダーの皆さんには、起業家万博に来て、ベンチャー企業がどんなアイデアをもっているのか是非みてほしい。もちろん、そこで協業や資本提携などの話をしていただいてもいいし、彼らのアイデアを自分たちの事業の参考にしてもらうのも有意義なことだと考えている」と、ITベンダーの来場を歓迎している。
また、起業家万博と同時開催で、学生のITビジネスプランコンテストである「起業家甲子園」も開かれる。こちらも活きのいいアイデアが期待できそうだ。
記者の眼
特集のタイトルに掲げた「既存ベンダーの脅威か、ビジネスパートナーか」についていえば、脅威にもなれば、よき味方にもなるという結論になる。ソーシャル、モバイル、クラウド、ビッグデータなど、ITの世界にも新しい波が押し寄せてきている。ベンダーは、その波を正面で受け止めて、新しいビジネスモデルを築いていくことを求められる。それができないベンダーにとって、ITベンチャーは市場を奪う脅威になる。
しかし、既存のビジネスから脱却することは決して簡単なことではない。だとすれば、変化に対応して新しいビジネスを築こうとしているITベンチャーのパワーを味方につけることを真剣に考えていくべきだろう。弥生の例は、既存ベンダーがITベンチャーと共存して成果を上げているモデルケースである。
市場の新たなニーズに目を配るとともに、ビジネスプレーヤーの動向にアンテナを張るのも、生き残るための術だ。起業家万博を例に出すまでもなく、求めさえすれば、情報は手に入れられるのだから。