「Apple Watch」「Android Wear」「Google Glass」──。次から次へと新しいウェアラブル端末(ウェアラブルコンピュータ)の商品化が進んでいる。主にコンシューマ領域で注目を集めているウェアラブル端末だが、実は一般オフィスから運輸、接客サービスに至るさまざまなB2B領域での活用が期待されている。キーワードは、「遠隔指示」「作業支援」「可視化」だ。(取材・文/安藤章司)
●2大メーカーがけん引する市場 まず、ウェアラブル端末とは何かを定義しておく必要がある。狭義のウェアラブル端末は、Apple WatchやAndroid Wear搭載端末、Google Glassなどのアップルやグーグルの流れをくむデバイスを指す。iOSやAndroid OSを搭載するスマートフォンと密接に連携するのが、今のウェアラブル端末と呼ばれているものだからだ。日本のガラパゴスケータイが、どれだけ高性能でもスマートフォンとして分類されない理屈と同じである。ただし、狭義のウェアラブル端末だけでは、発売されて日がまだ浅いこともあって、ビジネスは広がらない。本特集ではもう少しウェアラブル端末の定義を広げつつ、ビジネスの可能性を探っていく。
ウェアラブル端末のキーワードは、「遠隔指示」「作業支援」「可視化」の三つである。「遠隔指示」と「作業支援」は、倉庫作業や商品のピッキング、空港/大規模ショッピングセンターの接客支援、遠隔医療などの活用のイメージである。「可視化」は、勤務時間内、あるいは場合によっては24時間密着して測定し、何らかの傾向を分析するといった活用のイメージ。倉庫や工場内での人の動きを定点観測したり、睡眠時間を記録したりするなどの用途である。
●NRIがJALと実証実験を実施 野村総合研究所(NRI)は今年に入って相次いでウェアラブル端末の実証実験を続けている。そのなかでも日本航空(JAL)と共同で取り組んだ実証実験が興味深い。今年5月にはJALの手荷物の積み降ろし業務や、飛行機の点検作業などで眼鏡型のGoogle Glassを使い、同7月には羽田空港での旅客業務で腕時計型ウェアラブル端末のサムスン電子製「GALAXY Gear」やLGエレクトロニクス製「G Watch」シリーズなどを活用。それぞれの現場でウェアラブル端末がどれだけ業務に役立つか、課題点はどこかを綿密に検証している。先述した三つのキーワードのうち「遠隔指示」「作業支援」の二つを実証したものだ。
空港によっては航空会社自身で手荷物の搭降載を行っており、そこで勤務する作業員が手荷物に貼られている行き先と、実際に荷物を積み込む飛行機に相違がないかを確認している。NRIとJALがハワイ・ホノルル空港で行った実証実験では、作業員がGoogle Glassをかけて荷物に貼られているバーコードを読み取ることで、手荷物の行き先を確認した。
また、飛行機の点検作業では、Google Glassで見えている画像や映像を遠隔地にいる技術者と共有する実証実験を実施している。現場では判断が難しい事象があった場合、より専門的な知識をもつ技術者の知見を活用するというものだ。現状ではデジカメで撮った写真をパソコンに転送して共有しているが、ウェアラブル端末を使えばリアルタイムの共有が可能になる。
腕時計型ウェアラブル端末の実証実験では、羽田空港の第1旅客ターミナルビル内にBluetoothを利用したビーコン(無線標識)発信器を設置して、旅客業務のスタッフの位置を把握したうえで、人員配置を担当するデスクが腕時計型ウェアラブル端末に指示を出した。例えば、天候不良などで搭乗口が急に変更になった場合、旅客業務のスタッフが搭乗客を適切に誘導する。これまでは主に無線機で連絡を取り合っていたが、デスク側でスタッフの位置がわからなかったり、スタッフが接客中で無線を取れなかったり、あるいは指示を聞いたがメモを取れずに失念してしまったりするなどの課題があった。実証実験では、その課題解決に役立つことが判明している。
だが、現時点でのウェアラブル端末の限界や問題点もみえてきた。

NRIとJALが実証実験で使った腕時計型ウェアラブル端末 ●接客で顧客に与える印象 
NRI
亀津敦上級研究員 NRIとJALの実証実験では、Google Glassに望遠機能がないため、近づけないとバーコードが読み取れなかった。また、飛行機の点検映像を遠隔地の技術者と共有する実証実験では、無線電波が不安定だった。空港ターミナル内にLTE/4Gが整備されていても、整備場は意外にも電波にとって悪条件であることがわかった。
また、羽田空港で腕時計型のウェアラブル端末を活用したときは、位置を特定するBluetooth対応のビーコン発信器の電波が予想よりも遠くまで届いたり、あるいは逆に遮蔽物に遮られて届かなかったりと「やってみないとわからない問題点や特性が明らかになった」(NRIの亀津敦・基盤ソリューション企画部イノベーション事業グループ上級研究員)と話す。
接客現場では、眼鏡型に標準で備わっているカメラが顧客に威圧感を与えがちになることがわかった。また、表示されたデータを読むときに「微妙に視線がずれる」(亀津上級研究員)ため、“目が泳いで不誠実な人物”と受け取られる恐れがある。さらに眼鏡はファッションの一部であり、ウェアラブル端末をかける側にも抵抗があることが少なくない。この点、腕時計型ウェアラブル端末は抵抗感が少ないだけでなく、「スマートフォンの画面を見るより“仕事をしている感”が出る」(同)との評価だった。
これらの問題があるものの、NRIは腕時計型ウェアラブル端末の実用化に相当な手応えを感じた模様だ。とりわけ空港の旅客業務のような“接客”を伴う現場で威力を発揮すると評価している。
接客要素がある業務では、いくら「業務効率が高まるから」といっても、顧客に悪い印象を与えかねないウェアラブル端末は、やはり慎重に検討しなければならない。NRIは、実証実験で得た情報をもとに、倉庫や物流、空港、ショッピングモールといった業態向けにウェアラブル端末を活用したシステム提案を強化していく方針である。

Google Glassを装着したJALの整備士(NRIとJALの広報資料から引用)
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