スマートデバイスの普及によって、従来の社内業務を外出先や自宅で行うことができる環境が整ってきた。これまでパソコン(PC)をあまり導入していなかった特定業種での活用も進んでいる。最近では、次なるモバイル端末として、ユーザーが直接身体に装着して利用するウェアラブルコンピュータが注目されている。企業のワークスタイルが今後5~10年先、さらに進化していくのは間違いない。この特集では、有識者の視点をもとに、未来の端末とそれを利用したワークスタイル像の変化を予測する。(取材・文/真鍋武)
変貌するワークスタイル――火つけ役はスマートデバイス
●法人への本格的普及が進む スマートデバイスが日本のビジネスシーンを大きく変貌させようとしている。クラウドサービスの普及やネットワークの進化・拡大と相まって、ビジネスパーソンは、いつでもどこでもメールの送受信や社内資料の閲覧、スケジュール管理などができるようになってきた。また、いわゆるホワイトカラーだけでなく、これまであまりパソコンを使用していなかった業種でも、スマートデバイスを活用して業務の効率化・生産性の向上につなげている。
例えば、航空会社が、CA(キャビンアテンダント)向けにタブレット端末を配布して、CAが移動する際に、従来の膨大な量の資料の持ち運びを不要にした例がその典型だ。
調査会社のICT総研によると、2012年度(12年4月~13年3月)のスマートデバイス(スマートフォン+タブレット端末)の国内法人向け出荷台数は、233万台。法人領域では、これから本格的な普及が進み、16年度の出荷台数は585万台、コンシューマを含めた総出荷台数に占める法人比率は12.9%に上昇するとみられる。
●「XP」が加速要因 
富士通マーケティング
商品戦略本部
副本部長
浅香直也執行役員 2014年4月9日に「Windows XP」のサポートが終了することに伴って、多くの企業がPC環境の刷新に迫られている。
調査会社のIDC Japanによると、今年7月時点で法人市場に残る「XP」搭載端末は、約1050万台。サポート終了時点でどれだけの「XP」が残るのかについては諸説があるが、富士通マーケティング(FJM)商品戦略本部副本部長の浅香直也執行役員は、「『XP』のサポート切れに伴い、多くの企業では、『第三のプラットフォーム』と呼ばれるクラウド、モビリティ、ビッグデータ、ソーシャルの活用が進む」とみている。この指摘の通り、ここ1~2年の間にワークスタイル変革に積極的な企業が増えることが予測できる。
従来のクライアント/サーバー型システムは、もはやユーザー企業にとって主流ではなくなり、今後はクラウドとモバイル端末を主流としたシステム構成が進んでいくだろう。
次にくるモバイル端末は何か――ウェアラブルコンピュータに注目集まる
スマートフォンとタブレット端末の活用はさらに進化・拡大するとして、今後5年先には、どのようなモバイル端末が登場するだろうか。現在想定できる範囲で、最も注目されているのがグーグルの「Google Glass」に代表される「ウェアラブルコンピュータ」と呼ばれるスマートデバイスだ。
●直接身につけて操作する ウェアラブルコンピュータとは、その名の通り、身につける(wearable)コンピュータを指す。ユーザーは、装着していることを意識することはない。メガネ型(スマートグラス)、腕時計型(スマートウォッチ)、指輪型(スマートリング)など、さまざまな形状が考案されている。UI(ユーザー・インターフェース)の多様性が特徴で、現在のキーボードやマウス、タッチパネルだけでなく、ジェスチャーや音声などでデバイスを操作することができる。ユーザーにとって最も自然な方法を選択できるので、コンピュータを活用するシーンがこれまで以上に増えることになる。

スマートグラス「Telepathy One」
スマートリング「Ring」 ●スマートフォン/タブレットがハブに 実は、ウェアラブルコンピュータは、まったく新しいアイデアというわけではない。例えば、スマートグラスは、従来から航空機の組み立てなどで利用されてきたヘッドマウントディスプレイ(HMD)を進化させたものだ。スマートグラスはHMDと比べて軽量で、入出力のUIにすぐれ、ネットワークを介してクラウドと接続することができる点が大きく異なる。
例えば、スマートグラスに搭載されているカメラで動画を撮影して、クラウドを介して遠隔地にいる人に配信したり、最新の資料をクラウド上から入手してグラス上に表示したりといった具合だ。また、それぞれのウェアラブルコンピュータは密接に連携するので、スマートリングを活用して、ジェスチャーで、スマートグラス上に表示する画面を操作することができる。
しかし、ウェアラブルコンピュータは、直接身にまとい、装着していることを意識させないことがポイントになるデバイスなので、軽さや電池の持ち時間の長さが重要になってくる。そのため、デバイス自体はCPUや記憶装置、ネットワークをもたず、BluetoothやWi-Fiなどを通じてスマートフォン/タブレットと接続し、クラウドとアクセスすることが想定されている。スマートフォンやタブレット端末がクラウドとウェアラブルコンピュータとの通信のハブになるわけだ。
[次のページ]