2.電通イーマーケティングワン
業務ノウハウを強みに参入
マーケティングの専門家がITを提案
●おいしい市場を狙う ビッグデータの具体的な活用方法の代表例は、デジタルマーケティングソリューションだ。情報システム部門の予算ではなく、より規模が大きいマーケティング予算を対象にするとあって、ITベンダーは「新たな財布」として期待している。しかし、おいしい市場を狙うのは、ITベンダーだけとは限らない。
デジタルマーケティングソリューションを担う新しいプレーヤーは、企業のマーケティングを支援するクリエイティブ系の企業だ。なかでも、デジタル化によるマーケティングの変革をミッションとする、電通グループの電通イーマーケティングワン(電通EM1)は、際だった動きをみせている。
今年3月、大手デジタルマーケティングソリューションベンダーの米マルケトの日本法人が営業を開始したが、電通EM1はこれに出資。マルケト製品の日本市場での拡販をリードする立場になった。さらには、アドビ システムズ、日本オラクル、セールスフォース・ドットコムといった大手グローバルベンダーが提供するデジタルマーケティングソリューションのパートナーにも名を連ねている。現時点では、クリエイティブ系の企業、コンサルファーム、ITベンダーを含めても、これだけ幅広いラインアップを整えている企業は見当たらない。
●予算がマス広告からシフト 
小林大介取締役 小林大介・取締役第一営業本部長は、「マーケティングのデジタル化をずっとお手伝いしてきたが、これまでは、ウェブサイトや顧客データの分析などが中心だった。しかしここにきて、マーケティング施策の実行の部分をデジタルで効率化し、データをもとに顧客ごとにワン・トゥ・ワンの提案をするというニーズが高まっている。いわゆるマーケティングオートメーションのツールだが、関心がないクライアントは存在しないといってもいい。これが今後のビジネスドメインの中心になる」と話す。だからこそ、マルケトを軸に、顧客のニーズに応える幅広い商材を扱う。
背景には、電通グループ全体として、「マーケティング予算の使い道が、マス広告からデジタル化ツールにシフトしている現状に危機感をもっている」(小林取締役)という事情がある。しかし視点を変えれば、マーケティングのプランニングやコンサルティングなども主力事業として手がけてきているため、IT以外の投資を含め、マーケティング予算の最適な配分を提案できるノウハウがある。これは、IT専業ベンダーに対しては大きなアドバンテージだ。
デジタルマーケティングソリューションは、クラウド商材がほとんどで、導入時の開発が少ないこともあって、非ITのクリエイティブ系企業が数多く販社となっている。電通EM1も、自社単独で案件を手がけられるように、技術者の確保・育成に力を入れている。ただし、現状は、同じ電通グループの電通国際情報サービスをはじめ、SIerと協業するケースがほとんどだという。小林取締役も、「SIerと競合する場合ももちろんあるが、基幹システムとの連携が必要な案件も今後増えてくるだろうし、そうなった場合は、ITベンダーとの連携は不可欠。大手SIerからマルケトの販売で提携したいという話もいただいており、基幹システムまわりの開発力にすぐれ、顧客基盤がしっかりしているベンダーとは、補完関係が成り立つと考えている」と話す。国内ではまだ黎明期にあるデジタルマーケティング市場だけに、販売戦略は試行錯誤が続く。
乱立するマーケットプレイス
基幹システムをクリック一つで購入する時代はくるか
●大手が続々と参入 スマートフォンのアプリのように、ERP(基幹業務システム)やCRM(顧客管理)などの業務システムも、必要なつどダウンロードして使う月額課金方式の普及が加速するかもしれない。とくに積極的に取り組んでいるのが、パブリッククラウドベンダーだ。
大手のパブリッククラウドベンダーは、世界中のさまざまなベンダーが開発したアプリケーションやサービスを販売するクラウドマーケットプレイス(CMP)を開設している。Amazon Web Servicesであれば「AWS Marketplace」、マイクロソフトは「Azure Marketplace」、IBMは「IBM Cloud market place」を運営。いずれも「マーケットプレイス」という名称で、ユーザーはそこで好きなものを選べるようになっている。
業務システムやサービスをCMPに出品する開発ベンダーからみても、何割かの手数料をクラウドベンダーに支払うことで、理論的には世界中、どこへでもサービスを提供できる。課金の仕組みや代金の回収は、基本的にクラウドベンダーが担うため、開発ベンダーからみれば「地球の反対側の国で売れても、代金を取りっぱぐれることがない」(ITベンダー幹部)と、そのメリットは大きい。
ただし、パブリッククラウドベンダーが運営しているため、オープンではないという不自由さがある。とはいえ、パブリッククラウドベンダー以外で大規模なCMPを立ち上げることは、現状では困難であり、極端なベンダーロックや囲い込みを緩和する仕組みづくりが、今後の課題になりそうだ。

IBM Cloud marketplace
Azure MarketplaceCase Study
SIerの生き残り策を探る
三井情報「お客様は、売り手です」
新しい販売モデルを生み出す
●顧客を活用するという手法 中堅SIerの三井情報が注力するのは、「ビッグデータ」だ。ビッグデータを活用するための情報解析技術を取り入れたソリューションは、ITベンダーの有望商材として注目を浴びている。しかし、普及が進んでいるとはいい難く、ソリューションベンダーのエコシステムも未成熟だ。
データ解析に強い三井情報は、他社に先駆けてビッグデータ活用商材を開発するとともに、その投資を早期に回収するために、新しい“販売チャネル”の構築にも乗り出した。具体的には、「お客様」(ソリューションの導入先)を「売り手」として活用するということである。
三井情報は、2014年、作業服などを販売する専門店チェーンを運営するワークマンに、データ解析による「需要予測・自動発注ソリューション」を納入した。ソリューションは、需要予測エンジンと自動発注エンジンで構成されるもので、ワークマンの過去の受発注データや在庫データを解析しながら、適切な発注量を算出して、欠品や過剰在庫を防ぐ。ワークマンは、全国に700以上の店舗を展開し、各店舗において、スタッフが1日あたり、約150社のベンダーに約8000アイテムを発注する。これまでこうした作業を「勘に頼って」行ってきたが、三井情報のソリューションの導入によって、システム化を実現している。
●実証実験でメリットを示す ポイントは、三井情報がワークマンを通じて、需要予測・自動発注ソリューションの販売拡大に動いているということだ。実は、ワークマンは作業服のメーカーをはじめ、数多くの企業と取引している。三井情報は、これらをターゲット市場と捉え、ワークマンに後押ししてもらうかたちで、需要予測・自動発注ソリューションの納入を目指す。
このモデルのミソは、実証実験の場を設けて、データ解析の成功を左右するアルゴリズム(分析方法)を念入りに決めること。そして、導入企業のほかに取引先も取り込んで、広い範囲でビジネス改善のシナリオを明確にすることだ。こうして、導入企業だけでなく、取引先にもデータ解析のメリットを体感してもらい、採用を促す。
このソリューションをユーザー企業とともに拡販するという三井情報の取り組みは、新しい販売モデルの一つになりそうだ。
番外編
コンシューマ分野にも新しい販路
ソフトバンク C&S
POSレジを活用した新商流をつくる
●POS端末でライセンス供与 コンシューマ向けソフト販売の商流にも、新たな動きが出てきた。家電量販店でソフト売り場が縮小しているといわれて久しいが、ソフトバンク コマース&サービス(ソフトバンク C&S)は、ディストリビュータの立場からソフトの販売を増やす取り組みを始めた。それが「POSA(Point of Sales Activation)」技術を採用した販売モデルの構築である。現在、20社程度のソフトメーカーが賛同。ソフト商流の新しいかたちが生まれようとしている。
POSAとは、POSレジで支払いが確定した時点で対象のカードを有効化する技術。そのため、万引きしても使うことができない。店舗は、カードの販売スペースを用意するだけでよく、盗難や在庫のリスクを抱えずに商品を揃えることができる。ユーザーは、パッケージと同じように店舗でライセンスを購入できる。
すでにプリペイドカードで採用されていて、iTunes Storeのコンテンツが楽しめる「iTunes Card」、任天堂のゲーム機「ニンテンドーDSi」や「Wii」のコンテンツをダウンロードで購入できる「ニンテンドープリペイドカード」などがある。
パソコンのパッケージソフトにおいても、賛同するソフトメーカーが多いことから、近い将来、POSAを採用したカードの提供に踏み切る方針だ。コンシューマ向けソフトだけでなく、業務ソフトも対象になる。家電量販店でも、法人を対象とした店舗が出てくるのかもしれない。