Road 3
業種特化のカラーを強める
大手ITベンダーを中心に、ここ数年、ユーザー企業の業種ごとに組織を再編したり、プロダクトを整理したりする傾向がある。どの業種にもあてはまるITの基盤は技術的な差異化を見出しにくいので、競争力を強めにくく価格勝負に陥りやすい。パブリッククラウドは、その典型例だろう。そうだとしたら、追求するポイントは、各ユーザー業種の業務に適したアプリケーション開発や付随するサービスにある。同じアプリでも、ユーザーの業種によって求める機能は異なるだけに、この戦略は腑に落ちる。食品業向け、金融業向けなどというように、各業種に最適なソリューションは何かを最初に着想点に置き、営業活動している。日本IBMや日本マイクロソフト、セールスフォース・ドットコム(SFDC)は、その代表例。組織づくりや営業戦略は、業種でカットして推進している。大手SIerは業種ごとに事業部を分けることが多いが、中堅SIerでも業種特化型の動きがみえ始めている。得意な業種をもち、そこに向けて経営資源を集中している企業ほど、調子がいい。中堅SIerの日本事務器(NJC)は、医療機関・福祉施設や学校、食品業などの特定業種に強く、これがNJCの経営を下支えしている。田中啓一社長は、「クラウドでもオンプレミス型でもITの基盤(プラットフォーム)は差異化が難しい。私たちの強みは、長い間お客様のシステムをつくり、運用し続けてきて身につけたお客様の業務知識と、業務に最適なソリューション」と語り、単なるITインフラベンダーとは一線を画すことを強調する。
「私たちは○×業専門のSIerです」──。特徴を出して、他社と差異化できれば、こうしたうたい文句が武器になる。
Road 4
IT後進事業者へのチャレンジ
すでに特定業種に強いという特徴をもつSIerなら、新たな業種、とくに、これまでITに投資できていない業種に挑んでみてはどうか。
筆頭は農業だろう。農業向けIT市場は、母数は小さいかもしれないが、逆手にとれば、農家のITリテラシーは低く、IT化が遅れている領域だけに有望だ。多くの産業は東名阪に事業者が集中するが、農業は事業者(農家)が全国にまんべんなく存在する。地方にIT産業がないという声が聞かれて久しいが、それを打開する意味もある。「農地法」の改正によって、小売事業者などでも農業市場に容易に参入できるようになった。また、農業事業者の六次産業化が進んでいることも好材料。農家が新たなビジネスを求めて、観光農園や民宿、レストランの経営など、農作物の生産・販売とは異なる事業を並行して展開するケースが増えている。多角経営で情報が増えれば、ITの出番である。農業だけのビジネスだったときよりも、ITの利活用が不可欠となる。
農業向けビジネスで積極的な富士通では、食農クラウドと題した第一次産業向けクラウドブランド「Akisai」の売上高が200億円を突破したという。富士通の山本正已社長は、「農業を含めて、これまでIT化がされていない領域を私たちは『ソーシャルイノベーション』分野と定義している。ここは今後伸びるとみていて、2020年くらいまでには、富士通の全売上高のうち30%くらいを占めるまでに成長させたい」と意気込む。
農業のほか、林業や水産業といった第一次産業は、IT化が遅れている業種。IT投資も少なく、ITリテラシーも低いユーザーが多い分野だが、ホワイトスペースがあるのも事実だ。これまで手がけてなかった業種にアプローチするのは至難の業だが、中堅SIerのミツイワは、東日本大震災で被災した東北の漁業者の復興を支援する目的で、ITを使った水産物の流通システムを立ち上げ、その後、全国展開。このように軌道に乗せた事例がある。
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