クルマ、ホテル、スーパー
街のあちこちが“賢く”
「Tokyo 2020」まで後5年。東京の街はどう変わるのか。ITベンダーへの取材や調査会社などのリサーチを踏まえ、2020年の東京を想像しながら、ITの活用シーンを考える。
2020
広々とした都市空間で、東京のシャンゼリゼとも呼ばれる「マッカーサー道路」。都心の大動脈として、2014年に開業した超高層ビル「虎ノ門ヒルズ」を中心に活況をみせる虎ノ門エリアを、競技で賑わうベイゾーンにつないでいる。マッカーサー道路を走るのは、車体にITを装備する“賢いクルマ”、スマートカーだ。「試合の開始に間に合うのか」。1台のスマートカーのドライバーが不安げに車載システムに問いかけると、「10分後に、新橋あたりで渋滞が発生」と予測して、瞬時に迂回路をアドバイスしてくれた。
スマートカーは、シティITの中核をなす交通管理システムと接続しており、道路や橋に設置したセンサのデータをもとに、どこの道を通れば、最短の時間で目的地にたどり着けるかがリアルタイムにわかるのだ。さらに、地下鉄など公共交通機関とも連動し、道路の混み具合によっては、クルマを駐めて電車を使うことを勧めたりする。
たまにマッカーサー道路で見かけるのは、アップルが開発した電気自動車「iCar」だ。日本で発売されたばかりで、まだ目にする機会は少ないが、iPhoneを使って、近所の駐車場に駐めたiCarを呼び、自動的に玄関まで迎えにくる仕組みが人気を集めている。最新技術に敏感なアーリーアダプタを中心として、徐々にユーザーが増えつつある。 ●IoT市場は16兆円に 東京の未来の姿なのか、単なる夢物語なのか──。
アップルは、iCarの開発自体について明らかにしていないが、米国の複数の媒体の報道によると、開発に着手しており、2020年までに発売できるよう、エンジニアチームに拍車をかけているそうだ。もし、iCarが発売されれば、これまでの自動車とはまったく異なり、iPhoneなどと連携して直感的に操縦できる仕組みをもつ可能性が高いと考えられる。一方、トヨタ自動車など、国産の自動車メーカーは実際にITベンダーと手を組んで、情報システムで安全運転を支援するスマートカーの開発や販売に取り組んでおり、2020年までに、ITを活用した自動車が普及し始める気運が高まっている。
ポイントは、「クルマ」を「シティ」とうまくリンクさせることだ。センサデータの処理や分析による交通管理システムは、現時点で広大な導入・運用費がかかることがネックになっているが、センサの低価格化や、必要に応じて柔軟に利用することができるクラウド技術の進化を追い風に、実現のハードルが下がりつつある。ITベンダー、自動車メーカー、都や区は、短期の利益を追求するというよりも、長期にわたってスマートな交通網を構築するために、膝を突き合わせ、具体案について知恵を絞る必要がありそうだ。
調査会社のIDC Japanによると、スマートカーも密に関わる国内IoT市場は、活発な伸びをみせている。売上規模は2014年の9.4兆円から、2019年には16.4兆円に拡大する見込みだ。全体的には、機械同士で情報を通信し合うインテリジェントシステムや端末がけん引役になるが、16年あたりから「端末のコモディティ化が進んで、IoT市場全体に占める割合が7割台に下落。それを補完するかたちで、ほかの技術要素がじりじりとその売上割合を増やしていく」(IDC Japanコミュニケーションズの鳥巣悠太・マーケットアナリスト)とみている。
野村総合研究所(NRI)は、法人向けIT分野のなかで、とくにIoTのコア技術である「M2M(マシン・トゥ・マシン)」の市場規模が急増し、2015年の5185億円から、2020年には1兆6455億円に伸びることを予測している。
ベッドに横たわりながら、タブレット端末の画面で「Open」のアイコンを押すと、窓のカーテンが自動的に開いて、和風のデザインでまとめた部屋に朝日が入ってくる。ついでに、タブレット端末からルームサービスにコーヒーも注文しよう。「Wonderful!」。米国から東京を訪れているAさんは、「このホテルにしてよかった」と思い、次に来日するときも、ここに予約を入れることを決心した。
モバイル端末やネットワークを活用し、2020年の東京は、ホテルの部屋もスマートになっている。シンプルでダークな色を基調とする内装で、海外観光客に「日本」を感じさせるとともに、英語のほかに中国語やASEAN諸国の言語に対応した端末メニューや通訳サービスで観光の「便利」を支える。「おもてなし」を全面に押し出して、サービスを改善することによって宿泊者を取り込みながら、リピート顧客を育てるためだ。
ホテルの近くにスーパーがある。店内では、ネットワークにつながっているカメラや情報を解析する仕組みを活用し、来店者の動きを捉えて適切なタイミングでレジ担当を増やしたり、なくなりそうな製品や天候によって特需がありそうな製品をタイミングよく補充したり……。システムを駆使するかたちで“一歩先”を読み取って、サービス改善につなげている。スーパーだけではない。駅やスタジアムなどもこんなシステムを使い、移動する人の流れを円滑にしたり、不審な人物がいないかを把握するなど、ITで安全の向上を図る。 ●建設ラッシュが商機 都内各地で、五輪開催に向けた建設が始まっている。メイン会場になる新国立競技場。東日本旅客鉄道(JR東日本)が田町駅と品川駅の間に設置し、2020年に暫定開業する予定の山手線新駅。前東京五輪の開催に備え、1962年に開業したホテルオークラ東京の本館の建て替え。こうして、次々と新しい施設が建てられるなか、センサの設置やネットワークの構築がしやすい新設のタイミングに合わせて、ITを採用する可能性が高まっている。
顔認証の技術を武器とするNECや、ホテル向けのネットワーク構築案件に強い子会社のNECネッツエスアイなど、ITベンダーは商材を揃え、提案活動に動き出している。NTTデータ経営研究所は、「観光・交通」を、東京五輪の開催をきっかけにIT需要が旺盛になる分野の一つと位置づける。競技場の利用や災害時の対応などについて案内するサービスをはじめ、自宅を旅人に貸す空き部屋シェアサイト「Airbnb」やタクシー配車サービス「Uber」、AR(拡張現実)型の自動翻訳といったサービスの利用が増えることを見込んでいる。
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