「マイナンバー(社会保障・税番号)制度」の本格稼働に向けて、ユーザー企業は今、何をしなければならないかについて頭を悩ませている。そんな状況にあって、ITシステムの改善・刷新についても検討段階に入っているようだ。『週刊BCN』では、これまで「SPECIAL FEATURE」でマイナンバーに関連する特集として、業務ソフトやBPOなどをテーマに、メーカーやSIer、ディストリビュータなどが、「どのようなビジネスを手がけているのか」「実際にビジネスが拡大しているのか」などについて取り上げてきた。今回は、セキュリティ対策の需要が増えるとの見方が有力なITシステムやクライアント端末を管理するIT資産管理分野を取り上げる。関連製品・サービスの販売手法など、SIerやディストリビュータの成長戦略を探った。(取材・文/佐相彰彦)
情報漏えいが身近な問題に
ライセンス管理でコスト削減も
●2014年度の市場規模は113億円 調査会社のアイ・ティ・アール(ITR)によれば、PC資産管理市場は堅調に伸びており、2014年度(15年3月期)に前年度比8.7%増の113億円の見込み。市場が拡大している理由の一つは、社会的な需要のトレンドが変化しながら市場を底上げしてきたことにある。2000年前後からぜい弱性対策や資産棚卸の効率化などの重要性からユーザー企業のPC資産管理へのニーズが高まり、2005年頃には個人情報保護法やJ-SOXなど法制度に対応するために関連製品・サービスの導入が相次いだ。その後は、マルチデバイス化やライセンス監査への対応などのテーマが出てきて、ますますPC資産管理が注目を集めるようになったのだ。

ITR
金谷敏尊
取締役 そして今、トレンドになっているのが情報漏えい対策だ。2014年7月、約3000万件の個人情報が流出したとされるベネッセコーポレーション(ベネッセ)の事件は、ユーザー企業の多くが身近な問題と捉えて、あらためてセキュリティの仕組みを考え直すきっかけになった。ITRの金谷敏尊・取締役プリンシパル・アナリストは、「PC資産管理関連製品・サービスの基本機能は、インベントリ収集、ソフトウェア配布、SAM/ライセンス管理であるが、拡張機能として、情報漏えい対策の機能を備えることが珍しくない。多くのPC資産管理メーカーがオプションやソフトウェア・モジュールとして提供するようになって、導入が進んでいる」と説明する。
この情報漏えい対策の延長にあるのがマイナンバー制度への対応だ。PC資産管理製品・サービスを導入することで、クライアント端末のアクセス状況などを把握して、漏えいを未然に防ぐというわけだ。
●ライセンス料の支払い問題を解決 また、ITRではライセンス管理という視点からもPC資産管理製品・サービスの導入機運が高まるとしている。金谷取締役は、「大手ソフトウェアメーカーの監査が強化されていることで、ユーザー企業の警戒心も高まっており、当社にもライセンス管理への問い合わせが急増している」という。これは、ライセンスを導入していたことを把握していなかったことから起きる問題で、あるクライアント端末にソフトウェアメーカーのライセンスがインストールされていたが、実際には使っていなかったというケースだ。金谷取締役は、「PC資産管理関連の製品・サービスを導入して棚卸を実施したところ、実際には使っていないライセンスが多かったというユーザー企業が多く、そのライセンスを解約したことで大きなコスト削減につながったという話をよく聞く」としている。そのため、「ライセンス管理によるコストの最適化へとトレンドが推移しながら、PC資産管理市場はさらに高い成長を続けるのではないか」と分析する。
このような状況から、ITRは2013年度から2018年度までのCAGR(年平均成長率)が7.0%になると予測する。PC資産管理関連製品・サービスは、情報漏えい対策やライセンス管理の観点で需要が増えながら、マイナンバーという大きなテーマが加わって、ビジネスチャンスをつかむ可能性が大きくなっている。金谷取締役も、「業務ソフトとは提案スタイルが異なるといえるが、需要が増えているという点では、マイナンバーをキーワードに提案すれば、ますますユーザー企業の関心を高めることにつながるのではないか」と捉えている。
次頁以降では、IT資産管理とマイナンバーの関連性が現在どのような状況にあるのか、その状況に合わせて、SIerやディストリビュータなどがどのようにIT資産管理に関連する製品・サービスを提供しているのかをみていく。
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