主要SIerはどこへ向かうか
IoTや業界PF、グローバルを重視
国内事業の稼ぐ仕組みを強化、再構築し、これを海外にも展開する。主要SIerは、顧客の課題を解決する顧客密着型のシステム構築(SI)ビジネスを強みとしながらも、付加価値型、市場創造型のビジネス拡大に余念がない。こうしたタイプのビジネスを伸ばすキーワードとしてIoTや業界プラットフォームが挙げられている。主要SIerの取り組みをレポートする。
●「新三種の神器」で復活へ 情報サービス産業協会(JISA)の4~6月期の雇用判断DI値(景気動向指数)調査によれば、「人材不足(%)」から「人材過剰(%)」を差し引いた数字が40.0%ポイントと高水準で推移(図2参照)。人材不足感が強い状態、つまり、SEが不足し、人月単価が下げ止まり、SEの稼働率も高い状態が続いていることを意味している。しかし、景気には必ず波があるので、「上げ潮」の今はよくても、いずれ「引き潮」へと折り返したときに国内ビジネスは総崩れとなり、海外M&Aどころではなくなってしまう危険性がある。
国内ビジネスのテコ入れで、勢いを増しているのが「IoT/組み込み」と「クラウド/業界プラットフォーム」だ。とりわけ前者は、「従来型携帯電話機、情報家電、カーナビ」の“旧三種の神器”を失ってからの失速が目立っていただけに、「IoT、車載(制御系)、社会インフラ」の“新三種の神器”を得て、俄然、盛り返してきた印象が強い。
IoTは各種センサによる監視、全国7000万戸以上に設置するスマート電気メーター、車載系は「AUTOSAR(オートザー)」をはじめとするオープンなプラットフォーム/ミドルウェアの登場による市場の拡大、さらには都市全体をスマート化する社会インフラ分野のスマートコミュニティなど、新三種の神器のビジネス対象は広い。そのほぼすべてに組み込み技術を生かせるとあって、組み込みソフト開発を強みとする富士ソフトや日本システムウエア(NSW)、コアといったSIerは、生き生きとビジネスに取り組んでいる。
市場全体を俯瞰してみると、IoTで最も成功している分野の一つがスマートフォンであろう。各種センサの集合体で、かつスマートフォンで得たデータはリアルタイムで、さまざまなサービスを通じてクラウド側とやりとりできる。その価値を認めたユーザーは月額1万円近い通信料金を支出することもある。では、今後、どんなIoT分野にユーザーがまとまった費用を支払うのだろうか──。スマート電力メーターのようなエネルギー絡みも有力だが、さらに伸びしろが大きいと見込まれているのが自動車だ。
●車載ECUで脱人月ビジネス 
SCSK
中井戸信英
会長 SCSKは、自動車業界向け車載ソフトウェア開発事業で、将来的に2000億~3000億円規模のビジネスに育てられる可能性があるとみている。ここでいう車載ソフトとは、旧三種の神器の一つであったカーナビのようなフロントエンド(情報系)ものではなく、制御系(ECU)と呼ばれる自動車の運転に直接関わる基幹系システムを念頭に置いている。
ECUは自動車のエンジンやハンドル、ブレーキなど基幹部品の電子制御を担うユニットで、自動車メーカーごとのプロプライエタリ(クローズド)な仕様になっていた。外部のSIerがECU絡みのソフト開発を請け負う際も、自動車メーカー先へSEやプログラマを客先常駐させる“人月商売”が多く、自社の強みを生かしにくい分野だった。ところが、AUTOSARをはじめするオープンなECU向けミドルウェアが登場したことで、SIerが自動車メーカーに向けた“提案型のビジネス”を推し進める余地が大幅に拡大するとの期待が膨らんでいる。SCSKの中井戸信英会長は「人月商売ではない車載システム開発がより展開しやすくなる」とにらんでいる。

NSW
多田尚二
社長 従来型携帯電話機のプロプライエタリな環境から、Android OSをベースとするオープンな環境へ移行したことで、モバイル端末からさまざまなインターネットサービスをより一段と活用しやすくなった。これと同じことが自動車のECUで起きており、「自動車はスマートフォンと並ぶ、代表的なIoTへと進化する」(別の大手SIer幹部)と期待されている。
自動車以外では、主に監視系IoT市場が活性化している。日本システムウエア(NSW)では医療機器の遠隔監視、センサによる農業効率化、ため池の環境モニタリングなど、実証実験も含めてさまざまな案件に入り組んでいる。ため池関連では、システムエンジニアリングの協和エクシオと組んで遠隔水位監視システムの実証実験を長崎県五島市でスタート。水位の変化予測などをクラウド上で解析し、異常が起こりそうな兆候をキャッチし、自治体など関係各所へアラートを送るという仕組みだ。
NSWでは、こうしたIoT絡みの案件をクラウド/SaaS型の「サービス商材に仕立てていく」(多田尚二社長)方針で、例えば気象監視SaaS、ごみ箱監視SaaS、ため池監視SaaS、農業向けSaaS、エネルギー管理SaaSなどのシリーズ化を視野に入れ、これと対をなすクラウド側バックエンド処理サービス(BaaS)の拡充にも力を入れていく。このように、SIerがIoTに取り組むSIoTにとって、サービスのあり方が大きく変わる可能性がある。
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