●戦略投資が一段と増える 「クラウド/業界プラットフォーム」では、クラウドの技術を活用しつつ、ユーザー企業の業界・業務に密着したSIerらしいサービスビジネスを展開する。クラウド型の“業界標準ビジネスプラットフォーム”で先鞭をつけたのは、先に触れたように野村総合研究所(NRI)の証券会社向けバックオフィスシステム「STAR」が好例であり、こうしたサービスでターゲット業界のシステムでトップシェアを獲得すれば、安定的な収益が見込める。システム開発を本業とするSIerでありながら、売り上げを大幅に伸ばしつつ、業界トップクラスの営業利益率13%前後をNRIが安定的に叩き出せる要因として、業界標準ビジネスプラットフォームが貢献しているところが少なからずある。
ITホールディングス(ITHD)も、中長期の成長エンジンの一つとして「業界プラットフォーム」を挙げる。SIerとして、顧客の要望に応じた課題解決型のビジネスモデルの軸足を置きつつ、付加価値を増したり、より一歩踏み込んで市場そのものを開拓・創造していくことが中長期的な成長につながる。他社にはない付加価値、これまでなかった市場を創り出すアプローチが業界プラットフォームだとみる。
徐々にではあるが、業界プラットフォームを狙っていく商材は揃いつつある。例えばITHDグループのTISのリテール決済プラットフォームサービスの「PAYCIERGE(ペイシェルジュ)」、インテックの金融機関向けCRM(顧客管理)システム「F3(エフキューブ)」、クオリカの設備・機械の予防保全システム「CareQube(ケアキューブ)」などが先行する。ITHDの中期計画によれば、2021年3月期までに、業界プラットフォームとグローバルビジネスで営業利益全体の25%を稼ぐ目標を示している(図3参照)。

ITHD
前西規夫
社長 ITHDの前西規夫社長は「当面は大型案件の受注増で稼ぐことになるが、中長期的には自ら市場を創り出す投資型ビジネスの稼ぎがより増える」との見通しを語る。業界プラットフォームにせよ、グローバルのM&Aにせよ、先行投資の割合が高くなるのは必須で、このために「ITHDグループとしてどこに投資し、どうリスクを分散させるのかなどの戦略的な判断がより強く求められるようになる」(前西社長)と、グループ経営のガバナンスや、投資委員会といった戦略的判断を行う中立性の高い組織の強化を急ぐ。
●“勝ちパターン”を見極める 「クラウド/業界プラットフォーム」は、一種の“サービスビジネス”であり、一度、成約すれば複数年度にわたって安定的な収益源になるストック型のビジネスである。これまでSIerにとっての“サービスビジネス”といえば、ハードウェアやソフトウェアの保守・運用などが挙げられたが、これだけでは十分な利益が確保できない。価格競争が激しいハードウェアやソフトウェアの保守・運用で稼げるボリュームには限りがあるからだ。かといって、Amazon Web Services(AWS)やGoogleに勝負を挑むような、パブリック色が強い大衆的なグローバル規模のサービスを提供するのも体力が必要となる。そこで、SIerならではの業界プラットフォーム型のサービスビジネスが有力という結論に至る。

CTC
菊地哲
社長 伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)もまた、こうしたサービス型のビジネスを伸ばそうとしている。同社は主に海外の最も進んだハードやソフトをいち早く国内に持ち込み、有利にシステム構築(SI)ビジネスの商談を展開してきた。先端的なハード・ソフト製品を軸とした提案手法はCTCの“勝ちパターン”であり、ユーザー企業からも高く評価されている。そのCTCですら昨年度(15年3月期)の売り上げ全体の約4割を占めるサービス事業を、2018年3月期には「50%へ高める」(菊地哲社長)という方針を示す。売上高も3819億円から5000億円へ伸ばしつつ、ハード・ソフトの製品販売は相対的に40%弱から30%程度に下がる見込みだ(図4参照)。
CTCの場合、現段階で具体的な取り組みを明かしているわけではないが、米国をはじめとするハード・ソフトベンダーは、次々とサービス商材を打ち出していることは周知の通り。サーバーだけでなく、ネットワーク機器やストレージ、データセンター全体をもソフトウェアで定義する「SDx」も米国ベンダーが進んでいる。ソフトウェア定義化が進んだ先には、サービス化への道も開けやすくなる。米国の先進的なベンダーとの太いパイプをもつCTCは、こうしたサービス商材をいちはやく国内に持ち込み、先端的なハード・ソフト製品の代わりに、先端的な“サービス”を軸に提案することで、“勝ちパターン”にもっていく可能性が高い。
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