時代の変化とともに消えゆく存在のはずだったメインフレーム。90年代にはオープンシステムの台頭による“ダウンサイジング”の流れがあり、現在ではクラウドの検討を優先する“クラウドファースト”が主流になっている。メインフレームの居場所は、徐々に失われつつある。ところが、この先の10年はまだメインフレームが使われているという。現役バリバリだ。歴史の長さから“レガシーシステム”とも揶揄されるメインフレームだが、もはや“レジェンドシステム”と呼ぶのがふさわしいのではないか。(取材・文/畔上文昭)
メインフレームの基礎知識
企業や公共団体などのコンピュータ環境の中核(メイン)を担うフレーム(装置)を意味するのがメインフレームだ。特定用途向けではなく、汎用的に使用できるコンピュータだが、各社の独自アーキテクチャを採用している。世界初のメインフレームは、レミントンランド(現ユニシス)が1951年に発売した「UNIVAC I」とされる。企業に普及したコンピュータとしては、最も古い歴史があるといえるメインフレームだが、安定性や処理能力の高さから、現在でも金融機関や製造業の大規模システムでメインフレームが活用されている。なお、メインフレームには、汎用機やホストコンピュータなど、さまざまな呼び方がある。また、メインフレームを製造・販売しているメーカーはメインフレーマーと呼ばれ、数社という限られた存在であることから、IT業界では大御所の立ち位置にある。●この先10年は現役! 「今後10年にわたって業務の根幹をなすシステム基盤を固めることができた」。メインフレームの新システムが稼働したことを受けて、三井住友銀行のシステム担当役員が寄せたコメントである。導入したメインフレームを10年間使い続けるという意味ではなく、10年後も活用できるシステム基盤を構築できたことを指している。変化の激しいITの世界において、そう断言できるものがほかにあるだろうか。
メインフレームの世界では、互換性の維持が常識。サーバーOSのサポート切れというネックがない。例えば数十年前のシステムでも、最新のメインフレームで動かすことができるのである。そのため、構築したシステムは、未来永劫、使い続けることができるともいえる。もちろん、メインフレーマーがメインフレームを提供し続けられればの条件がつくが、ユーザーが使い続ける限りはサポートするというのが各社の方針となっている。メインフレームが“レジェンドシステム”として現在まで長らく現役を続けられたのは、メインフレーマー各社のサポートによるところが大きい。
電子情報技術産業協会(JEITA)によると、国内におけるメインフレームの出荷台数は緩やかなダウントレンドにある。IAサーバーの高性能化やクラウドの普及により、ダウンサイジングへの流れが今も少しずつ続いていると思われる。ただし、金額ベースでは全サーバー約16%のシェアとなっていて、存在感をみせている(下表参照)。メインフレームを必要とするシステムはまだまだ健在ということだ。
●ダウンタイムゼロ メインフレームの特徴は、処理能力と信頼性の高さにある。例えば、IBMのメインフレーム「z Systems」シリーズは、ダウンタイムゼロを標榜するほどの信頼性を確保している。ハードウェアや基本システムが原因のシステムダウンがないというわけだ。この点だけでも、メインフレーム以降に登場したサーバーマシンやクラウドとはコンセプトが大きく違うことがわかる。そのため、メインフレームはシステムダウンが許されないメガバンクを中心に、ほとんどの金融機関で活用されている。多くのトランザクション処理を必要とする大手製造業や公共団体などでも、メインフレームは欠かせない存在となっている。
処理能力と信頼性の高さを追求する点は同じだとしても、メインフレーマーによって、メインフレームに対する取り組み姿勢に違いがみられる。最もメインフレームの開発に注力しているのは、IBM。オープンOSの搭載を可能にしたことにより、垂直統合型で独自OSという従来のメインフレームとは違ったコンセプトで新規顧客の開拓にも注力している。
一方、国産メインフレーマーは、ハードウェアの更新などを行っているものの、既存顧客に対してメインフレームを安定的に提供することに注力している。メインフレームを必要としている企業には、ほとんど行き渡ったという考え方だ。そのため、OSの開発を停止するメインフレーマーもある。
ちなみに、古くからあるメインフレームのシステムは、多くの場合、開発言語にCOBOLを使用している。COBOLのコード自体は機種に依存する部分が少ないため、他社のメインフレーム上でもコードをコンパイルすることで、動くことが多い。その点も、将来に対する安心感をユーザーに与えている。
メインフレーム技術者は世界中で不足している!
SI業界は今、深刻な技術者不足の状況に陥っている。なかでもメインフレーム関連は深刻だ。案件が限られるため、若手の技術者を育てる機会が少ない。メインフレームでの開発を担ってきたベテランの技術者も、定年退職とともにどんどん減っている。
実は、メインフレームの技術者不足は、日本だけが抱える問題ではない。日本CAの田畑殖之・メインフレームソリューションセンター エンジニアリングサービスアーキテクトによると、「米国でもメインフレーム関連の人材が不足していて、深刻な問題になっている」という。そこで米CA Technologiesは、メインフレーム技術者の育成を支援する「メインフレーム・アカデミー」を開講している。日本CAでは、メインフレームに強いコンピューターサイエンス(CSC)とともに、メインフレーム・アカデミーを7月に開講した。講座の内容は、COBOLのプログラミングではなく、メインフレームの運用管理に重点が置かれている。
「現在は、メインフレームを利用している企業の情報システム部の担当者をターゲットとしているが、技術者の育成についても取り組んでいく」と、日本CAの丸山智之・ビジネス・システム営業部シニアディレクターは語る。
なお、CA Technologiesでは、チェコのプラハに開発拠点を設け、数百人の若手エンジニアを短期間でメインフレーム環境の製品開発者に育成するプログラムを実施している。そのなかから、メインフレーム初級教育用に開発したのが、メインフレーム・アカデミーである。受講者は、受講することで基本的なメインフレームの操作が単独でできるようになる。

日本CAの田畑殖之・メインフレームソリューションセンター エンジニアリングサービスアーキテクト(写真右)と丸山智之・ビジネス・システム営業部シニアディレクター
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