メガバンクで必須のメインフレーム
4月28日、5月11日と、立て続けにメガバンクの事例が発表された。いずれも、システム基盤にメインフレームを利用している。事例を発表したIBMとNECに、メインフレームの取り組みと、最新の動向について聞いた。
IBM
オープン化でもダウンタイム“ゼロ”
時代とともにオープンシステムやクラウドのテクノロジーを取り込んできているIBMのメインフレーム。そのため、欧米ではメインフレームというよりも、ハイエンドのオープンサーバーとしてのイメージが強いという。
ただし、メインフレームとして過去のプログラム資産はすべて動かすことができる。IBMが1964年4月に発表した「System/360」で構築したシステムも、すべて動くのである。もちろん、蓄積したデータも利用できる。
「長く使い続けられるということは、効率化にも貢献する。オープン系のシステムは、OSやCPUなどのバージョンが変わると、互換性の問題が発生する。メインフレームでは、顧客の投資を保護することに最優先で取り組んでいる。システム開発には多大な予算を必要とする。そういった投資を互換性の維持によって保護している」と北沢強・システム製品事業本部 システムズ&テクノロジー エバンジェリストはIBMの方針を語る。IBMにとっての互換性の維持は、ユーザーにとっての投資の維持というわけである。
IBMのメインフレームでは、古いシステムだけでなく、IBM互換機といわれる富士通と日立製作所などのメインフレーム上で構築したシステムも、そのまま移行できる。さらに、IBM互換機ではないNECのメインフレームで稼働しているシステムでも、リコンパイルでほとんど動かすことができるという。つまり、IBMのメインフレームは、メーカー同士でも高い互換性を維持しているのである。
●ハード障害を考えなくていい 
日本IBM
北沢強
システム製品事業本部
システムズ&テクノロジー
エバンジェリスト 日本はメインフレーム大国だと指摘する声がある。最新環境への移行が進まない状況に危機感を抱き、“日本だけ特別”と煽っているのである。ところが、「現在では、日本よりも中国のほうが売れている。実は中国の銀行がメインフレームをたくさん購入している。PC感覚で買っているイメージすらある」と、その状況を北沢エバンジェリストは説明する。
欧米はどうかというと、Linuxサーバーとしての採用が多いとのこと。ただし、メインフレームを扱うことのできるエンジニアは少なく、新卒の給料で、メインフレームとその他では年収100万円ほどの差があるという。
中国でも欧米でも、メインフレームを採用する理由は、信頼性の高さにある。IBMのメインフレーム「IBM z System」の“z”は、ダウンタイムが“ゼロ”であることを意味する。ダウンタイムが許されないのは日本の特徴と思われることもあるが、信頼性に対する要求は世界共通ということではないか。
メインフレームはトラブルにも強い。あらゆるトラブルを経験していることもあって、“想定外も想定(対応)できる”ようになっている。例えば災害対策として、距離の離れたところに2台のサーバーを用意するのはよくある話だが、IBMのメインフレームでは「Active-Active」のシステムを構築できる。そのため、止まらない。1台が災害にあっても、システムが止まらないばかりか、Active-Activeのため、切り替えの作業が不要で、システムを継続して利用できるのである。
「SEがシステムを設計するときに、ハードが壊れることを考慮するのは簡単ではない。メインフレームは、ハードの障害を考えなくていい」(北沢エバンジェリスト)。
IBMの最初のメインフレームである「System/360」の“360”は、360度。どんなことにも対応できるという意味だ。その考えは現在も継承されていて、「1台あればいい」というのがメインフレームの究極の目標である。
z Systemではクラウドのテクノロジーも採用しており、柔軟性も高い。IBMのクラウドサービス「SoftLayer」とも連携することで、ハイブリッドクラウド環境も構築できる。IBMは伝統的なメインフレームのよさに、最新のテクノロジーを加えて、今後もメインフレームに注力していく構えだ。
Case Study 1
みずほ銀行
ワンストップサービスにメインフレームを採用
日本IBMは、4月28日、みずほ銀行がIBMのメインフレーム「IBM z System z13」を採用したことを発表した。
みずほ銀行は、銀行業務のほか、信託や証券などの業務を一元的に支える共通ITプラットフォームを構築し、ワンストップサービスの実現に向けて取り組んでいる。各サービスを提供するアプリケーションをz13に構築したプライベートクラウド基盤に統合する予定である。
z13のプライベートクラウド基盤上にアプリケーションを統合することで、運用負荷が軽減するので、約2割のコスト削減を見込んでいる。IBMのメインフレームは、オープン系のOSが稼働することから、既存システムを集約し、高い信頼性が約束された環境で利用するというニーズにも応えている。
なお、みずほ銀行のネットバンキング・サービスを支えるダイレクトチャネル基盤および基幹業務である勘定系システム基盤においても、IBMのメインフレームが利用されている。Case Study 2
三井住友銀行
勘定系システムを最新のメインフレームに移行
三井住友銀行は、勘定系システムを最新のメインフレームに移行し、5月から稼動を開始した。同システムは、NECのACOSシリーズ「i-PX9800/A100」、および記憶媒体に高性能なSSDを全面採用したACOSシリーズ専用ストレージ「iStorage A5000」を採用している。
NECが今回の事例を発表するにあたって、三井住友銀行のシステム担当役員が次のようなコメントを明らかにしている。
「今回の勘定系システムの刷新にあたり、NECの最新システムを利用することで今後10年にわたって業務の根幹をなすシステム基盤を固めることができました」。
なお、三井住友銀行は、メインフレームを移行するにあたって、およそ2年のテスト期間を設けたという。追加の開発もあったとのことだが、小規模だったという。つまり、単なるサーバーの置き換えともいえるレベルの作業のはずだが、テスト期間の長さからは、システムの規模をうかがい知ることができる。NEC
メインフレームの提供は今後も続く
「どの企業も、一度はオープン化を検討したはず」と語るのは、NECの諏訪部眞一・ITプラットフォーム事業部 第一IT基盤統括部 シニアマネージャーである。
NECがメインフレームに参入したのは1975年。以降、現在までメインフレームを提供し続けている。この間、オープンシステムの台頭によるダウンサイジングの波があり、近年ではクラウドの普及で“クラウドファースト”が一般化している。
こうした時代の流れから、メインフレームのユーザーは、システムの更新時期のたびに脱メインフレームを検討してきた。レガシーシステムからオープンシステムなどへの移行を意味する“レガシーマイグレーション”は、脱メインフレームのキーワードだった。それでも、メインフレームは今も現役として、システムダウンが許されないミッションクリティカルな環境で活躍している。
「オープン化を検討しても、結果的にメインフレームを使い続けているのは、信頼性の高さにある。IAサーバーの信頼性も高いが、その比ではない。メインフレームは構造上においても信頼性を確保しやすい。ひと言でいえば、メインフレームは“単体製品”。ハードウェア、ソフトウェア、ミドルウェアなどを一社で提供している。オープンシステムは提供元がバラバラ。そうなると、トラブル時の対応スピードも違う。ブラックボックス化する部分もできがちになる」と、NECの塚本祐士・ビジネスクリエイション本部 コンピュータ販売促進グループ マネージャーは言う。
●“この先、10年は使う” 「メインフレーム上で稼働しているシステムは、コンピュータが企業に入っていく歴史とともに改良を重ねてきた。簡単にはリプレースできないほどのノウハウが積み重なっている」と、諏訪部シニアマネージャーはメインフレームが必要とされる理由を挙げる。それはメインフレームを長く使用しているユーザーが多いという意味でもある。
「まったく新規で『ACOS』(NECのメインフレーム)を導入するケースはゼロではないが、少ない。新規導入でも既存ユーザーの関連会社など、何らかの関連性のあるケースが多い。また、ACOSユーザーでも、新規の業務をACOSでやろうというケースは少ない。当社はIAサーバーなども提供しているため、ACOSの導入を最優先で推奨することはなく、状況に応じて最適な環境を提案している」と、塚本マネージャーは現状のユーザー動向を語る。
ただし、メインフレームのニーズがなくなる気配はない。メインフレームに対しては、ダウンサイジングが進んだ20年前に「この先10年は使われる」といわれたが、今でも「この先10年」といわれているからだ。塚本マネージャーも「ずっと残るのではないか」と考えている。
ただ、メインフレームの活用には、後ろ向きな理由も挙げられる。「ドキュメントが残っていないため、システムを再構築できないというケースもある。古い時代の業務システムは、バグがつぶされていて、安定している」と塚本マネージャー。そのため、余計なことをしてトラブルを招くよりも、安定稼働を選ぶというわけだ。

NEC 諏訪部眞一・ITプラットフォーム事業部 第一IT基盤統括部 シニアマネージャー(写真左)、塚本祐士・ビジネスクリエイション本部 コンピュータ販売促進グループ マネージャー NECが発表した三井住友銀行の事例は、最新のメインフレームに移行したというもの。多少の追加開発はあったとのことだが、基本的には単なるマシンの移行である。ところが、その移行作業には2年の歳月を要したという。裏を返せば、それほど巨大な規模であることがわかる。
なお、最新のACOSシリーズで採用しているCPUは、自社開発の「NOAH-6」(6は第6世代の意味)。自社開発なので、サポートがしやすく、ACOSの性能を引き出すための対応がしやすい。
「ACOSは今後も継続して提供していく。やり続ける。古いプログラム資産でも、使い続けることができる。そこがオープンシステムとは違う、メインフレームのメリットである」と塚本マネージャー。ユーザーが求める限り、レジェンドシステムは動き続ける。
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