日系ITベンダーのインドネシア戦略
市場開拓の糸口をどこに見出すか
すでにインドネシアに進出している日系ITベンダーは、順調にビジネスを拡大できているのだろうか。各社の市場開拓の戦略や取り組み状況についてレポートする。
NSSOL
現地の日系企業を攻める

新日鉄住金
ソリューションズ
インドネシア
渡辺薦
President Director 日系ITベンダーにとって、最もやりやすいのは、現地の日系企業向けのITサポートビジネスだ。日本で培ってきた経験・ノウハウを横展開できるうえに、日本からのロールアウト案件も期待しやすく、文化・商慣習の違いに悩まされることも比較的少ない。
新日鉄住金ソリューションズ(NSSOL)では、ITサポートを主な事業ミッションとして、2014年10月に現地法人を設立した。すでに新日鉄住金グループ向けの生産管理を中心としたシステム構築で、数億円規模の案件を獲得しており、現在はその他の日系製造業向けの新規営業も積極的に行っている。NSSOL インドネシアの渡辺薦President Directorは、従業員数100人以上の日系製造業では、基幹システムを導入済みの企業が多いとみて、新規営業先については進出したばかりの中小製造業に的を絞った。「現地の日系製造業では、情報システム担当者が不在のケースが多く、提案時に技術の話をしても響かない。お客様自身、どんなシステムがほしいのかわかっていないこともある。お客様の業務を深く理解して、その解決策としてITを提案する必要がある」と説明する。
日立サンウェイ
東南アジア全域をカバー

日立サンウェイ
インフォメーションシステムズ
齋藤眞人
会長 日立システムズとマレーシアのSunway Technologyの合弁会社である日立サンウェイ インフォメーションシステムズ(日立サンウェイ)では、2013年4月にインドネシア法人の営業活動を開始。製造業を中心に、CAD・CAM・PLMなどのエンジニアリングソリューションを手がけてきた。すでに、インドネシア国内に約100社の顧客を有するが、このうちの8割方は日系企業。齋藤眞人会長は、「ターゲットに選定しているわけではないが、結果的に日系企業の顧客比率が高くなった」と説明する。日系製造業のインドネシアへの投資が旺盛であることが大きな要因だ。
今年4月には、ERPなど基幹系システムのインテグレーション事業と、データセンター(DC)サービスなどのIMS(Infrastructure Management Service)事業も開始した。主要ターゲットは、日系を含む外資系企業全般だ。顧客への提案時に、日立サンウェイの強みとなるのは、同社が東南アジア6か国に拠点を有していることだ。齋藤会長は、「インドネシアに進出する外資系企業は、アジアの他の地域にも拠点をもっていることが多い」と説明。インドネシアを含む東南アジアの拠点すべてで、同じ品質のIT環境を整備できることは、外資系企業にとって魅力的。日立サンウェイとしても、例えばマレーシアの顧客からインドネシア拠点のロールアウト案件を期待できる。
ISID
自社プロダクトに注力

ISID
インドネシア
大野琢也
President Director 電通国際情報サービス(ISID)のインドネシア法人も、これまで製造業向けのCAD・CAMシステムや、金融業向けの業務システムなどで、日系企業を中心に事業を推進してきた。同社の大野琢也President Directorは、「日系SIerの進出が増えてきたことで、今後はインドネシアでの日系ベンダー間の競争が激化するだろう」との見解を示す。インドネシアの日系企業は増えているが、実は全体社数はタイの3分の1程度に過ぎない。限られた市場のなかで、日系ベンダー同士が競い合う状況では、大きなビジネスは期待しにくい。そこでISID インドネシアでは、自社開発のリース業向け基幹業務システム「Lamp」など、独自プロダクトを非日系企業に向けても拡販する方針だ。大野President Directorは、「インドネシアにはリース業を手がける企業が約200社あり、すでに当社は2社の顧客を獲得済」と自信をみせる。
また、インドネシアで中間所得層が拡大している状況をみて、今年中には、電通のインドネシア法人と連携し、モバイルアプリを活用した企業のマーケティング支援ソリューション「Click 2 Catch」を販売する予定だ。これは、企業がテレビなどで放送するコマーシャル上の音声情報を、一般消費者のモバイル上にインストールされたアプリが読み取ることで、当該企業の商品クーポン情報などを獲得したりできるというものだ。
ヤマハ
ハード依存のIT市場こそ有利

ヤマハ
西和子
楽器・音響営業本部
音響営業統括部
SN営業部
海外営業課主任 インドネシアのIT市場で特徴的なのが、市場規模の8割方をハードウェアが占めていることだ。ローカル企業には、目に見えにくいソフトウェア・サービスに対して対価を払うという意識は低い。逆に、ハードウェア単体のビジネスならば、市場には参入しやすい。ヤマハでは、2014年4月から企業向けにルータなどのネットワーク機器を代理店を通して販売。事業開始から1年半に満たないが、すでに100社近くのパートナー企業を獲得した。西和子 楽器・音響営業本部音響営業統括部SN営業部海外営業課主任は、「インドネシアで競合となるのは、シスコシステムズなどの外資系ベンダーだ」と説明。現地に有力なネットワーク機器メーカーがないため、外資系メーカーが優位に立ちやすい環境にある。とくにインドネシアは、1万3000もの島々で構成される国であるため、ネットワーク機器への需要が旺盛だ。西主任は、「早期にパートナーの数を数百社規模に拡大し、案件があれば常にお声がけいただける体制を整えたい」と話す。
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