NEC
社会ソリューションに力点

NEC インドネシア
鹿野孝幸
President Director 一方、インドネシアではソフトウェア・サービスの市場規模は全体の2割程度。市場は小さいが、今後の伸びしろは大きい。また、現地のITベンダーはハードウェアのディストリビューションが中心で、ソリューションビジネスに強い企業はまだ少ない。早い段階で手を打てば、日系ITベンダーは市場で地位を築きやすいともいえる。
NEC インドネシアでは、これまで通信キャリア向けのITインフラを中心としたビジネスを手がけてきた。現状、ハードウェア関連の売上高が全体の8割方を占めるが、今後のソフトウェア・サービス関連の市場拡大を商機と捉えて、現在は、安全・安心・効率・公平に向けた社会ソリューションの提供に力を注いでいる。
とくに期待を寄せているのが、セキュリティ分野だ。鹿野孝幸President Directorは、「例えばインドネシアでは、2018年にアジア競技大会が開催される予定となっており、サイバーテロを防止するために、情報セキュリティへの意識が高まっている」と説明。NECは、セキュリティソリューションや、世界屈指の技術力を有する顔・指紋認証などの認証エンジンなどを、現地の政府関連機関や公安などに拡販していく方針だ。
政府やローカル企業の案件は、中国では国内ベンダーが優遇されるケースが多く、外資系企業が単独で入り込みにくいが、「インドネシアの政府や企業は、海外の先進的な事例から学びとろうとする意欲が強い」(同)ことから、外資系にとって参入障壁はさほど高くないとみている。
NTTデータ
差異化がローカル開拓の鍵

NTTデータ
インドネシア
大谷明
President Director NTTデータ インドネシアでは、2011年の設立以来、売上高を倍々ゲームで成長させてきた。すでに売上の50%程度はローカル企業から稼ぎ出している。大谷明President Directorは、同社の戦略について「誰にでもできることはやらない。他社との徹底的な差異化に努めている」と説明する。
現在の注力ビジネスは三つ。その一つは、大規模システム案件だ。地場ITベンダーの間では、ハードウェアのディストリビューションが主流。ソリューション案件では、外資系ベンダーの参入余地が大きいとみて、政府関連プロジェクトなどの大規模案件を狙う。
二つ目が、データ通信サービスだ。NTTデータ インドネシアが構築した業務システムを、ユーザー企業にオンプレミス型で納入するのでなく、月額料金制でサービス提供するというもの。これによって、IT投資に多額のコストをかけられないユーザー企業であっても、気軽にシステムを利用できる。
三つ目が、ITを活用したサービス事業だ。例えばインドネシアでは、自社で従業員の医療費負担をしている「自家保険企業」や、保険会社が行う保険給付請求の査定業務が複雑化していて、社会問題となっている。そこで、NTTデータ インドネシアでは、ITを活用してこれを効率化するTPA(Third Party Administrator)サービスを今年から提供している。大谷President Directorは、「インドネシアで成功するには、現地の市場ニーズを深く理解することが大事。日本の製品・サービスを横展開するだけでは十分ではない」と指摘する。
TIS
パートナーと金融業を開拓

TIS
ジャカルタ駐在員
事務所
安宅尚司
所長 ローカルビジネスでは、現地のITベンダーとの協業関係の構築が成功の鍵となるケースが多い。TISは、インドネシアでパートナー戦略に積極的だ。2014年4月には、地場SIerのSoltius Indonesiaと協業し、日系企業向けSAPビジネスの共同展開を開始。さらに、今年7月には、大手SIerのAnabatic Technologiesと、金融業向けビジネスで資本・業務提携を結んでいる。
TISジャカルタ駐在員事務所の安宅尚司所長は、「Anabatic Technologiesと共同で展開する金融ビジネスに現在は最も期待している」と話す。TISは、コアバンキングシステムや決済ソリューションなど金融業向けビジネスを得意としているが、インドネシアでは、金利の概念を用いない「イスラム金融」の手法を取り入れた金融機関があるなど、独特の文化・商慣習が存在する。Anabatic Technologiesは、総従業員数約5480人を抱える地場大手ITベンダーで、コアバンキングシステム「TEMENOS」のインテグレーションを得意分野としており、Bank MandiriやBank Rakyat Indonesia(BNI)といった国営大手銀行の顧客を有する。TISにとって、同社の顧客基盤や経験・ノウハウを吸収できるメリットは大きい。Anabatic TechnologiesのAdriansyah Adnan Senior Directorも、「当社はインドネシアでは大手ベンダーだが、アジアの中ではまだまだ小さい。日本で先進的な金融ソリューションを提供しているTISから学べることはたくさんある」と協業のシナジー効果に期待している。

Anabatic Technologies
Adriansyah Adnan Senior Director また、TISでは、現地通信事業者と連携してクラウドサービス「Cloud Berkembang」を提供している。2014年には、給与管理や勤怠管理ソフトウェアを提供するANDAL SOFTWAREと連携し、「Cloud Berkembang」上でSaaSの提供を開始した。
インドネシアでは、ネットワーク速度が遅いこともあって、クラウド・DCサービスの市場はまだ未成熟だが、今後は需要の拡大が確実視されている。例えば、法令によって、個人情報を扱う事業者は、2017年10月までに、インドネシア国内のDCにデータを保管しなければならない。現時点で顧客データを海外に保管している外資系の金融機関なども同法令の対象となっており、特需が期待できるのだ。当然、ネットワーク速度の改善も進む。こうした事業から、日系ITベンダーのクラウド・DCサービスに関する動きも活発化しており、今年4月には、インターネットイニシアティブ(IIJ)がインドネシア現地法人でクラウドサービスの提供を開始したほか、7月にはNTTコミュニケーションズが現地DC事業者の買収を発表している。
プライム・ストラテジー
コミュニティを営業の入り口に

プライム・ストラテジー
インドネシア
Daeng Marowa CEO/CTO インドネシアに進出している日系ベンチャー企業も存在する。例えば、OSSのWordPressを得意分野とするシステム開発会社のプライム・ストラテジーだ。
同社は、インドネシアでもWordPressベースのウェブサイト開発案件に力を注いでいる。ただし、WordPressを扱うローカル企業も存在し、価格で勝つことは難しい。そこでプライム・ストラテジーでは、高品質を求める企業をターゲットに絞った。インドネシア法人のDaeng Marowa CEO/CTOは、「例えば、マイクロソフトなどの正規ライセンス製品に多額のITコストを支払っているような、IT投資が旺盛な大企業を狙う」と説明。有償のライセンス製品に投資している企業ならば、無償で利用できるOSSのWordPressに魅力を感じる可能性が高い。
顧客案件の入り口としては、現地のOSSコミュニティを活用しようと考えている。プライム・ストラテジーがOSSコミュニティに参加し、ユーザー企業のエンジニアとのコネクションをつくる。OSSコミュニティには、ターゲット層と合致する大手企業の情報システム担当者が集まる可能性が高く、それもOSSに関心をもっていることは明白なので、その後の案件化が期待しやすいのだ。
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