マイナンバーは、業務ソフト市場に特需をもたらすのだろうか。マイナンバー対応が求められる代表格ともいえる給与計算や人事管理のパッケージソフトは、「保守の範囲内」で対応プログラムを配布するメーカーがほとんどで、彼らの業績向上には直接つながらない。その意味で、昨年春、消費税特需に沸いた会計ソフトのような市場の盛り上がりは期待できないといえよう。むしろ、利益に直結しないのに、開発やサポートに多くのリソースを割かなければならないという課題が、業務ソフトメーカーには重くのしかかる。しかし、マイナンバー制度のスタートが、大きなインパクトをもたらす社会制度の変革であることは間違いなく、業務ソフトメーカー各社は、これを中長期的な成長につなげようと各社各様の戦略を打ち出し始めている。マイナンバーが業務ソフト市場にもたらす真の商機とは──。(取材・文/本多和幸)
SMB向けパッケージベンダー
各社の思惑
OBC
マイナンバーを機に事業領域を拡大
「業務サービス」を奉行シリーズに並ぶ新たな柱に

大原泉
取締役 中堅・中小企業向け業務ソフトパッケージ最大手のオービックビジネスコンサルタント(OBC)は、マイナンバーをより大きなビジネスチャンスにつなげようという意欲がとくに目立つ。
現在、業務ソフトパッケージ以外にラインアップしている主なマイナンバー対応ソリューションとしては、クラウドサービスである「マイナンバー収集・保管サービス」と、マイナンバーの取扱規定や業務フローの作成などを支援する「マイナンバー制度導入支援キット」がある。収集・保管サービスについては、9月30日までの期間限定で、ユーザーがウェブサイトを通じてマイナンバー対応業務のシミュレーションを行うことができたり、初年度利用期間を3か月延長できる特典などがついた「先行特別キット」として展開している。大原泉取締役によれば、「いずれもここに来て、ものすごい勢いで販売数が増えている」という。
とくに収集・保管サービスは、OBCにとって、単なるマイナンバー対応需要に向けたソリューションという以上の意味をもつ戦略的な商材だ。同社はこの拡販を足がかりに、基幹業務ソフト市場の外にビジネス領域を拡大しようとしている。
サービスのコンセプトは、クラウドを活用して、マイナンバーを正確、効率的、安全に取得し、保管するというもの。また、奉行シリーズのユーザーのみを顧客対象としているわけではない。奉行シリーズとはもちろんシームレスに連携するが、APIを公開しており、基本的にはどんな基幹システムとも連携が可能だ。大原取締役は、「マイナンバー対応は、ユーザーにとっては未知の業務で、本来は業務設計や保管運用のリスク対策などを各企業が個別に準備しなければならない。OBCの収集・保管サービスは、それらを“標準化”して提供しているところに大きな価値がある」と強調する。さらに、「これまで当社は基幹業務システムの領域のみでビジネスをしてきたが、マイナンバー収集・保管サービスのリリースを契機に、今後法制度改正などがあった場合に、新たに発生する企業全体の業務を支援するソリューションを、“業務サービス”として展開していく。奉行シリーズと同等の、新しいビジネスの柱にしたい」と、狙いを説明する。この業務サービスは、「OMSS+」というサービス群としてすでに展開されていて、昨年11月、タレントマネジメントシステムのベンダーであるサイダスと資本業務提携し、マイナンバー収集・保管サービスに先駆けて「人材育成サービス」の提供を開始している。今後、労働安全衛生法の改正によるストレスチェックの義務化に対応した「ストレスチェックサービス」なども順次リリースする予定で、ラインアップがそろいつつある。
販売パートナーにとっても、業務サービスはメリットがある。従来の奉行シリーズのビジネスとカニバリゼーションを起こすことがなく、既存ユーザーに付加価値として提案することができるし、新規ユーザー獲得のためのドアノックツールにもなり得るわけだ。実際に、マイナンバー収集・保管サービスの現時点での受注は、新規ユーザーからのものがほとんどで、パートナーの反応も上々だという。主に、SIerなどのマイナンバーBPOサービスと競って、コストメリットを武器にユーザーを獲得しているようだ。
「マイナンバーという強制力のある法改正に合わせて業務サービスをラインアップしたことで、パートナーにもユーザーにも、当社の業務サービスそのものの価値を理解してもらいやすい環境ができたのは大きな追い風」と、手応えを口にする大原取締役。ただし、既存ユーザーに限っては、まだ、奉行シリーズのマイナンバー対応に関心が集まっている状況で、収集・保管サービスには目が向いていない。業務サービスを奉行シリーズと両輪といえるまでに育てるためには、マイナンバー制度の本格運用開始までに、いかに顧客基盤を拡大できるかがキーポイントになりそうだ。
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