弥生
保守契約の加入率をさらに高める
業務支援メニューの充実に注力

菊池龍信
担当マネジャー これまで登場した3社よりも小規模なユーザーが多い弥生は、保守サービスの「あんしん保守サポート」のメニューとして提供する、マイナンバー対応業務支援サービスの充実に力を注いでいる。マイナンバー対応の製品・サービス企画を担当する菊池龍信・マーケティング本部マーケティング部ビジネス戦略チーム担当マネジャーは、「マイナンバーが給与計算ソフトの新規ユーザー獲得につながるかは疑問だ。給与計算ソフト未導入ユーザーの新規導入にしろ、他社からの乗り換えにしろ、それだけのコストに見合う効果をユーザーが感じてくれるかは疑問で、ハードルが高い。まずはサポートメニューの充実で市場におけるプレゼンスを向上させ、もともと高い保守契約の加入率をさらに上げていくのが現実策」とみている。
あんしん保守サポートに含まれる具体的なマイナンバー対応業務支援サービスのメニューとしては、まず取扱規定集のダウンロードサービスを7月後半から始めている。「各社のサービスをみても、テンプレートを提供して終わりという場合が多いが、とくに小規模事業者はそれだけでは対応を完結できない。そこで、非常に具体的かつ詳細な手順書もつくった。やらなければならないことをタスクレベルで盛り込み、チェックを入れながら作業を進めていけば、それだけで取扱規程が完成するようなものに仕上げた」(菊池担当マネジャー)という。小規模事業者向けにかみ砕いた内容のサービスを構築したことで、他社の類似サービスとは一線を画した。専門用語を排し、「読めば分かる」を追求するために、すべて自社で内製したという気合いの入れようだ。
また、弥生と提携する社労士が、マイナンバー対応への助言や取扱規程策定の支援・代行などを行うサービススキームも用意している。さらに、カスタマーセンターでは、マイナンバーに関する相談のためのリソースも増強している。菊池担当マネジャーも、「カスタマーセンターの体制は弥生の大きな武器で、マイナンバー相談は一押しのサービス」と胸を張る。
ただし、同社があんしん保守サポートの契約ユーザーにアンケートを取ったところ、7~8割はマイナンバー制度とは何かについてほとんど知識がない状態だったという。さらに、会計事務所、販売代理店などのチャネルパートナーの間でも、マイナンバー対応への意識がまだまだ高まっていないのが現状。菊池担当マネジャーは、「これからマイナンバー対応の需要は、9月に第一波がきて、11月~12月にものすごく大きな第二波がくると考えている。そうした時にユーザーがアドバイスを求める先は、当社のアンケートをみても、会計事務所が圧倒的に多数を占める。ユーザーにきちんと準備を進めてもらうためには、会計事務所のパートナーであるPAP会員との情報共有が不可欠だと考えている」と話す。年内は、PAP会員向けの啓発コンテンツやコミュニケーション強化に重点を置く意向だ。
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収集・管理系のサービスを充実させるクラウドベンダー
弥生は、マイナンバーの収集・管理系のサービスについては、現在のところ提供を予定していない。顧客層のコアである小規模事業者にとって、この種のサービスのコストがユーザーのニーズと見合うという判断が現在のところできないからだ。一方で、小規模事業者向けの業務ソフト分野で弥生のライバルになりつつあるクラウド業務ソフトベンダーのfreeeやマネーフォワードは、マイナンバーの収集・管理・廃棄までクラウド上で完結できるサービスを発表している。こうしたサービスの需要がどのように推移するかは、業務ソフト市場の将来に多少なりとも影響を与えそうだ。
一方で、会計/税理士事務所向けのクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS」を提供するアカウンティング・サース・ジャパンも、税理士とその顧問先の中小企業向けに、マイナンバー収集・管理クラウドサービス「マイナセキュリティ」をリリースした。さらに、10月には、本人確認書類をクラウド上に長期保存できるサービス「マイナドライブ」の提供も開始する予定だ。マイナドライブは有償だが、マイナセキュリティはA-SaaSユーザーではない税理士とその顧問先企業も無料で利用できる。佐野徹朗・社長CEOは、意図を次のように説明する。「マイナセキュリティやマイナドライブの利用が拡大していけば、税理士にクラウドのメリットを確実に感じていただくことができるし、その顧問先企業でもクラウドの利便性について啓発が進む。マイナセキュリティを通してクラウドの利点を感じた税理士が、顧問先に経営力向上のためのツールとしてA-SaaSやその他のクラウドソリューションを勧め、業務範囲を拡大していくような流れをつくりたい」。
現時点で直接競合するわけではなくても、無償でマイナンバーの収集・管理サービスを提供するというビジネスモデルに脅威を感じている業務ソフトメーカー関係者もいる。A-SaaSは、ユーザーの会計事務所を通して、顧問先企業にも無償で会計・給与システムを提供している。会計事務所は、弥生も重視するチャネル。思わぬところで競争が激化する可能性も否定はできない。
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