7月末に登場したWindows 10は、Windows OSとしては初めて搭載される機能自体もさることながら、クラウドやモバイルといった現代のITビジネスの潮流を自社に取り込むチャンスとしても、注目すべき新製品となっている。来年本格化すると思われる法人導入に向け準備を進める販社やSIerの動きを追う。(取材・文/日高 彰)

Windows 10搭載デバイスのメーカー15社を招いて開催した記者会見。スマートフォンの開発で初めて日本マイクロソフトのデバイスパートナーになったメーカーも
PC・タブレット端末といった従来の適用分野に加え、Windows 10ではスマートフォンやIoTデバイスもターゲットになる 「現在Windows 10への無償アップグレードを提供しているが、(アップグレード数は)目標を超えて進んでいる。Windows 10で実現するセキュリティの高さ、新しい使い方には非常に関心が高く、法人ユーザー、ディストリビュータ、ISV各社から大きな期待をいただいている」。
10月14日、Windows 10搭載デバイスのメーカー幹部を招いて開催した記者会見で、日本マイクロソフトの平野拓也社長はこのように話し、Windows 10の受容は同社の期待を上回る勢いで順調に拡大していると強調した。日本市場だけの数字は明らかにしていないが、世界全体ではWindows 10のアクティベーション数は、10月上旬時点で1億1000万件を超えており、Windows OSとしては過去最速のペースで新バージョンへの移行が進んでいるという。
そして、いよいよメーカー各社が、Windows 10をプリインストールしたPCの出荷を本格化する。日本マイクロソフトによれば、国内では年末までに260機種以上のWindows 10搭載デバイスが登場する見込み。流通関係者の多くは、まずコンシューマ市場の年末商戦でWindows 10が注目され、法人での導入が活発になるのは、来年3月の年度末とみており、商材としてのWindows 10が具体的な動きをみせるのはまだこれからという段階だ。しかし、エンドユーザーの関心自体は非常に高く、販社やSIerが開催するセミナーなどのイベントでは、Windows 10のセッションが活況を呈しているという。
●モバイル端末で拡大するWindowsのシェア マイクロソフトは、デスクトップに復活したスタートメニュー、指紋・顔・虹彩などを利用する生体認証機能の「Windows Hello」、音声で検索などの操作が行えるアシスタント機能「Cortana(コルタナ)」などをWindows 10の目玉としてアピールしているが、法人市場において目下最も注目されているのは、PCとモバイル端末の環境を融合させるという製品コンセプトのようだ。Windows 10では、PCからタブレット端末、スマートフォン、そしてIoTデバイスに至るまで、それらのうえで同じアプリケーションが動作する「One Windows」の実現を目指しており、技術的にも、使い勝手の面でも、プラットフォーム間での共通化が推進されている。この動きが、タブレット端末市場でのWindowsシェア拡大を後押しするのは間違いない。

ダイワボウ
情報システム
松本裕之
取締役 ダイワボウ情報システム(DIS)の松本裕之・取締役販売推進本部長は「今年、当社ではWindowsタブレット端末が前年比倍以上の売れ行きを示しており、すでに普及のターニングポイントを越えている印象」と話し、Windowsタブレット端末に関しては、新規市場開拓という段階を過ぎ、すでに端末販売における一つの柱になっているという。「Surfaceのようなハイエンド製品はもちろん、低価格のWindowsタブレット端末も性能と使い勝手がよくなっており、従来、Windows以外のタブレット端末を導入していたユーザーが、Windowsへ乗り換えるケースも出てきている」(松本取締役)という。Windows 10搭載製品が出てくれば、この勢いはさらに加速し、ビジネスタブレット端末ならWindows、という認識が浸透するとの見方を示した。
●無償アップグレードはむしろ追い風 Windows 7および8.1のユーザーには、来年7月28日までWindows 10への無償アップグレードが提供される。Windowsのメジャーバージョンアップでは初の試みで、過去最速で新バージョンの普及が進む原動力になっているが、「無償提供されてしまっては、せっかくの新OSも売上アップにつながらない」という懸念はないのだろうか。

ソフトバンク コマース&サービス
菅野信義エグゼクティブディレクター(左)と藤本和彦プロジェクトディレクター 実際には、少なくとも法人市場については無償アップグレードがビジネスに与える影響はほとんどないようだ。業務用のPCではプリインストールされていたOSをリプレース時まで使い続けることが多く、Windowsのボリュームライセンス販売の中心となっている「Enterprise」エディションは、そもそも無償アップグレードの対象外となっているからだ。
ソフトバンク コマース&サービスのICT事業本部MD本部でPC・デバイスマーケティングを担当する菅野信義・エグゼクティブディレクターによれば、「管理者の方が手軽にWindows 10に触れる環境が提供されたことで、これまでのバージョンアップ時に比べ、動作検証などが早く進むと期待している」といい、Windows 10の無償提供は、販社のビジネスにとってむしろ追い風になるとみているという。既存の業務システムが、Windows 10でも問題なく利用できることがユーザー側で早期に確認されれば、新しいデバイスの提案もしやすくなるというわけだ。
ただ、DISの松本取締役は「アップグレードが無料になるということは、ビジネスモデルそのものが変わるということでもある。今までの商売のままではいけない、ということは感じている」とも述べ、OS単体からは収益が得られなくなる将来を見据えて、事業を再設計する時期に来ていると指摘する。そこでキーワードになるのはやはりクラウドだ。PCに加えてタブレット端末やスマートフォンを業務で活用するマルチデバイス化が進めば、各デバイスを連携させるために、必ずクラウドサービスが求められる。同社ではWindows 10の登場を契機に、マルチデバイスを活用したワークスタイルの訴求、そして、クラウドとそれを活用するためのセキュリティ製品やネットワーク機器、MDM(モバイル端末管理)といった商材を組み合わせた販売を強化していく考えだ。
ソフトバンク コマース&サービスの藤本和彦・プロジェクトディレクターも「今は個別のスペックや機能で製品を売る時代ではない。当社は端末とネットワークを合わせて提供できるのが強みで、Surfaceなどの取り扱いでも、端末だけでなくモバイル回線、クラウドサービスなどを組み合わせて提供してきた」と話し、Windows製品の販売においては、サービスやアプリケーションとの組み合わせがすでに重要な戦略になっていると説明する。Windows 10に連携可能な製品・サービスは多岐にわたるので、顧客への提案をしやすくするため、デバイス・ネットワーク・サービスなどをパッケージにした提供形態を充実させていく方針だという。
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