正攻法はこれだ
不可欠な事業領域の拡大
従来通りの日系ビジネスに終始していたのでは、先行きが不透明。多くの日系IT企業はこの事実を受け止め、すでに次の段階として中国ローカル市場の開拓に動き出している。しかし、売掛金の回収リスクや、文化・商慣習の違い、中国政府による国産IT製品の導入推進など、幾多の予期せぬ事態に悩まされ、実際に成功している企業はほぼない。ローカルビジネスの立ち上がりが遅いとみて、最近では、並行して別のやり方で持続的な成長に漕ぎつけようとするベンダーが増えてきた。
●面をカバーする 
シーエーシー
中国法人
小峰邦裕
副総経理 もっとも手早い方法は、事業エリアを拡大することだ。日系企業の数は、上海・北京が多いが、地方都市に進出する企業も少なくない。新日鉄住金ソリューションズの中国法人は、日系製造業をターゲットとして、今年1月に天津に営業拠点を開設。同社の戴為民・営業本部営業本部長は、「将来的には、青島や済南、煙台など山東省に対しても、天津営業所から営業をかけていく方針。山東省には、冷凍食品会社など、日系企業の工場が多い」と説明している。
シーエーシー(CAC)中国法人では、金融業向けソリューションで、これまで手薄だった香港や台湾、韓国など、中国本土の近隣地域に目を向け出した。同社の小峰邦裕・副総経理は、「香港や台湾、韓国などは、かつて中国に先駆けて金融業が発展してきた。しかし、市場の規模が小さいことから、外資系の金融機関は中国への投資を加速している。その結果、中国本土の金融業の方が、先進的なIT環境を整備しているケースがある」という。そこで、中国本土で培ってきた決済ソリューションの経験・ノウハウを、近隣地域に横展開するビジネスを模索。ニーズを把握するための市場調査を進めている。
このほか、NTTデータ イントラマートや電通国際情報サービス、菱洋エレクトロなども、中国で培ってきた海外の日系企業に対する経験・ノウハウを東南アジア地域に横展開していく方針だ。東南アジア地域で獲得した顧客からの中国でのロールアウト案件や、その逆もまた期待できる。
●提案の幅を広げる 
シーイーシー
中国法人
溝道修司
総経理 商材拡充によって、提案の幅を広げようとする動きも活発だ。中国の日系企業は、拠点設立から時間がたって、会計などの基礎的な情報システムは出来上がっている。一方で、販売管理や営業支援、データ分析などの情報系システムは、比較的未熟だ。
例えば、シーイーシー(CEC)中国法人では、日系企業に向けた「Microsoft Dynamics CRM」の販売を検討している。同社は現在、「Dynamics AX」を専業で手がけており、これまでの累計導入企業数は55社。2015年は、日本本社との営業面での連携強化を進めて、案件数がさらに増加している。しかし、同社の溝道修司総経理は、「用友や金蝶といった簡易会計ソフトからのリプレース案件など、Dynamics AXでは小型案件が多い。新規の大規模案件は少なくなっており、案件単価は落ちている状況だ」と説明。そこで、「Dynamics AX」と親和性の高い「Dynamics CRM」を取り扱って、既存顧客の深堀りを狙っている。

NTTドコモ
中国法人
本間雅之
総経理 NTTドコモの中国法人では、WiーFiレンタルなどのモバイルソリューションを日系企業に販売してきたが、同社の本間雅之総経理は、「薄利多売なビジネスモデルなうえに、現地の日系IT企業の競合が増えたことで、価格競争に陥るケースが出てきた」という。そこで、今後は案件規模の大きなM2Mサービスに集中する。ネットワークまわりを中心に、設備の運行状況や位置情報を収集・閲覧・分析するためのM2M環境構築に必要な製品・サービスを提供する「M2Mトータルサービス」だ。すでに日系大手の農機メーカーやエレベータメーカー、エアコンメーカーからの案件受注を果たした。
●非日系・非ローカルを攻める 
クオリカ
中国法人
水沼 充
総経理 日系マーケットは頭打ちだし、ローカルマーケットにはなかなか参入しづらい。それならば、非日系・非ローカル系の企業を開拓すればいい。NTTデータ中国法人では、法人事業の責任者に、外資系ビジネスの経験が豊富な奚駿文氏を採用。ドイツの自動車メーカーを皮切りに、最近では、衣料品小売りや飲食店など、欧米系サービス業の顧客拡大に力を注いでいる。しかし欧米マーケットでは、IBMやアクセンチュアなど、大手グローバルITベンダーが競争相手となる。そこでは、ネットワークに強いNTTコミュニケーションズと連携し、ネットワークからシステムまでをトータルで提案するなどして、競合との差異化を図っている。
ITホールディングスグループのクオリカ中国法人では、台湾系企業の開拓に目を向け出した。同社はグループ企業であるコマツの中国法人に対するITサポートと、SaaS型の製造業向け生産管理システム、外食産業・飲食業向け店舗・本部支援システムの販売を手がけ、これまで日系企業の顧客を急激に増やしてきた。しかし、ここにきてターゲット層のIT投資意欲が低迷。同社の水沼充総経理は、「日系製造業はIT投資を抑えており、コマツからの新規案件はほとんどない。とくに今年の1~3月は、建機メーカーや大型部品メーカーの案件数が少なかった」と説明する。
一方の台湾系製造業は、「質の向上への意識が高く、日系企業への信頼も厚い。上期は3社から受注を果たした」という状況だ。今後は、台湾系の新規ユーザーに代理店になってもらい、導入事例を横展開する構想を立てている。
中国最新時事ニュース
外資系のICP取得は夢の夢!?
ライセンス規制が強化
中国政府による外資系企業のインターネット関連ライセンス取得に対する統制・管理が強まっている。富士ソフトグループは、今秋、中国関連会社の上海新域系統集成(上海ヴィンクス)から、同社グループの資本を引き抜いた。資本引き抜きの主な理由は、「増値電信業務経営許可」を維持するためだ。
上海ヴィンクスは、富士ソフト、ヴィンクス、東忠集団の3社が出資する中国子会社の維傑思科技(杭州)と、現地IT企業の上海新域信息系統とが出資比率49:51で設立した合弁会社だった。同社は、「増値電信業務経営許可」として、中国でクラウドサービスの提供などに必要となる経営性ICP(Internet Content Provider)ライセンスを取得している。同ライセンスは、一般的に、外国企業の資本が入っていると、取得できないとされているもの。上海ヴィンクスは奇跡的に取得していたが、このたび「外資が入っている」と政府関係者から圧力をかけられ、資本の引き抜きに至った。上海ヴィンクスは、中国ローカル企業として再出発を果たし、富士ソフトグループとは、資本関係ではなく、戦略的協業関係に移行している。
現状、中国の外資系IT企業は、ICPライセンスを取得するローカルベンダーの手を借りなければ、クラウドサービスを提供することができない。マイクロソフトやIBMが、クラウド提供にあたって、世紀互聯などのローカルベンダーと手を組んでいるのはそのためだ。今回、ライセンスを取得済みだった上海ヴィンクスが圧力をかけられたことは、中国政府による統制・管理の機運が高まっていることを意味する。
一方で、同ライセンス規定は、クラウドサービスの普及前に定められたものであり、現状に則していないとの指摘もある。外資系IT企業が、中国で不自由なくクラウドサービスを提供するためには、規制緩和が望まれる。
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